コロニーの宇宙妖精
僕が来訪者の存在を伝えるためにまず向かったのは、フーさんの家だった。
森の中にそびえたつ塔に彼女が住み始めたのは、ほんの最近の事である。
塔の中の螺旋階段を上り、最上階にあるフーさんの住居にやってくると彼女は快く僕を向かい入れてくれた。
そして……このコロニーにやって来たのが月の艦隊だと聞いたフーさんの第一声は深いため息だった。
「……はぁ~。来ちゃったんだ。ゴメン……ホントゴメン! 私のせいだぁ」
フーさんはグウウウと唸りながら悶えていた。
コロニーの生態系を隅から隅まで知り尽くし、元々の容姿も相まってなんだか超然としたエルフみたいになってきたなと思っていたが、頭を抱えるフーさんはフーさんだった。
いやしかし、謝るようなことはない。
月が最初にやってきた切っ掛けはフーさんがらみの事件だったかもしれないが、いつまでもこのコロニーに誰も気がつかないとは僕も思ってはいない。
「気にしなくていいよ。いつかは誰かが来るものだよ」
「いやぁ。だとしても……やっぱり早すぎるもん。私がおかしな行動をとったからだよ。女王様は完ぺき主義だからさ、私みたいな一兵卒の不具合も気にしちゃうんだよ……!」
ああー!っとやはり声を上げたフーさんは、情緒が不安定なようだ。
ちょっと落ち着いて欲しいけれど、僕としては月の女王様は今のところ、少し好感を持っているくらいだった。
「ああいやでも、ここに最初に目をつけるのはさすがだなって思ったよ? 月の女王様は見る目があるね」
「……危機感ないよカノー?」
「そんなことないさ。急いでお出迎えの準備をしないとね。初の団体様だ、この後対応を話し合うから、家に来てくれる?」
「やっぱり危機感ないと思うなぁ。わかった……すぐに準備するね!」
「よろしく」
期限が迫っている今こそ、冷静さを保つべきだろう。フーさんは間違いなくニライカナイの防衛の要になるのは間違いないのだから。
さて次に行くかと急ぐ僕は、不意に呼び止められた。
「ねぇ! その……カノーは月の事をどう思ってる?」
それは思わずといった感じだった。
実際そうだったのだろう、振り返るとフーさんの視線は落ちつかず、気まずそうである。
僕は嘘をついても仕方がないと本音を語ることにした。
「そうだねぇ……まぁ、このコロニーが月と接触したら。穏便には済まないだろうなと思ってる」
月の攻撃的な性質を知っている僕としてはそうも思うが、フーさんも認識は同じの様でガシガシと頭を掻き、表情を引き締めると意を決して言った。
「……そう。うん。そうなんだよ。私は、最初に来たのが月ならすぐに攻撃して殲滅した方がいいと思う。……覚えておいてね?」
「おう……ストロングスタイルのおもてなしだ」
「もう! ふざけちゃダメだよ! ……冗談じゃないんだから」
「……わかっているとも」
フーさんのそれは月と完全に敵対するという宣言だった。
その一言が相当な決意から発せられたのだというのが僕にもわかる。
実際過激に過ぎる提案だけれど、きっとすべては僕らみんなのためだということが、嬉しくもあった。
でも、心配しなくても僕らは今まで何もしていなかった訳じゃない。
「そんなに気を遣わなくてもいいよ。僕らも頑張って来たじゃないか。だからもっと僕らはわがままを言っていいさ」
「う、うん……」
そう、僕らは少なくとも、一方的にやられるだけなんて事にはならない。
そんな確信は僕の中にもフーさんの中にも確かにあったわけだ。