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禁断の果実再び

「……こ、これは、許されざる宝が、また一つ生まれてしまったんじゃないだろうか?」


 僕は自分のあまりにも罪深い行いに恐怖した。


 確かに求めたのは僕だ。しかし、しかしだ―――。


 まさか何のためらいもなくそれを生み出してしまうとは思わなかった。


 いや、それが宇宙に漂っていたことは当然の帰結だった。


 疲れたあなたの味方、エナジードリンク。


 ……それがあの船に乗っていないことなどありえなかったのだ。


 そしてそれを永続的に手に入れたいと、そう考えるのもまた僕にとっての当然の成り行きだった。


 え? 新しいアウター? 出来てないよ? 今回はちょっと拘りたいからね。


 作業がこれからともなれば、結果として目の前の木にはみっちりとエナジードリンクが生っていた。


「これがエナドリの生る木……なんて恐ろしいもの生み出してしまったんだシュウマツさん」


「いや、君に頼まれたからだと記憶しているんだがね?」


「いや、うん。そうなんだけど、中々生々しい色使いの缶が木に生っているのを見ると思わず」


「なぜだろう? 君のテンションがカップ麺の木を作った時と同じだと途端に不安な気分になる」


「そうかな? いやまぁ、僕もこの組み合わせに、若干の背徳感があるけれど、とても喜んでるよ?」


「……」


 カップ麺の木の横にそれが並んでいるというのもまた、なにか妙な背徳感があるけれど、どちらも切っても切れない心の友であったことは間違いない。


 そしてこれさえあれば作業が捗ることは間違いなく。第二果樹園候補であることも疑いようがなかった。


「フッ……フフフッ。これはやる気がぐんぐん湧いてきた。よし、僕はしばらく籠るから、期待しててよシュウマツさん」


「籠る? う、うん。ほどほどにね?」


 もちろん。


 限界値くらいわきまえているとも。


 だが僕は、知ってはいたが知らないふりをしていた。


 環境が整う。それは実に素晴らしい。


 だが……それは地獄の扉を開くことにためらう理由がなくなった……そういうことでもあるということを。




 場面は変わって後日の定例会。


 今週の成果に色々と持ち寄ったいつものメンバーは、しかし見知ったヘルメットがいないことにすぐに気が付いた。


「あれ? カノーいないんだ」


 フーさんが言いだすと、白熊さんも怪訝な表情を浮かべて周囲を見回した。


「そう言えばボクも最近見てないな」


「どうしたんだろう? 何かあった?」


「いや、シュウマツさんも見ているんだし、なにかあるってことはないと思うけど……」


 シュウマツさんは、このコロニーの中にいる3人にはとりわけ意識を割いて安全性に気を使ってくれている。


 うっかり死んでしまうことがないように、いよいよ危ないとなれば手を貸してくれるし、仮に死んだとしてもすぐに蘇生してくれるはずである。


 それを知っている白熊さんは普通に言うが、地面の下からぬっと出て来た光の玉は若干心配そうだった。


「ふむ、そうなんだが……実はカノーが家から全く出てこなくてね」


「シュウマツさん。そうなの?」


「ああ。いい仕事をするから期待しててと言い残し、出てこなくなった」


 フーさんの質問を肯定して点滅したシュウマツさんは淡々と事実を伝えていた。

 

「じゃあカノー……ひょっとしてこのコンテナハウスにいる?」


「いるだろうな」


「倒れてるんじゃないの?」


「生命反応は……ある」


 フーさんと、白熊さんは顔を見合わせて、フーさんは提案した。


「ちょっと覗いてみようか?」


「……ちなみにどれくらい出てきてない?」


「もう7日ほどになるかな?」


 それを聞いた白熊さんはふむと唸り、立ち上がった。


「……よし、確認しておこう」


 フーさんと白熊さんはコンテナハウスの玄関に向かいインターフォンを鳴らすが、反応は帰ってこない。


「返事がない」


「……よし突入しよう。いや……開いてる?」


 玄関に鍵は掛かっていなかった。


 顔を見合わせたフーさんと白熊さんは、何となく不穏な空気になり、二人は及び腰に中に入って―――そしてそれを見た。


 大量に床に転がるエナジードリンクの空き缶の海。


 今にも崩れそうなほどに積み上げられたカップ麺の塔。


「「うわぁ……」」


 そしてこの部屋で最も不気味な存在感を放っているのは、真っ暗な部屋でヘルメットをギラギラ光らせるカノーの姿だった。



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