コロニーのすぐそばで
「……!」
フーさんは胃の中と、頭の中をぐちゃぐちゃにかき回されているような不快感を気合で我慢して、その一瞬を切り抜けた。
中途半端なワープは万全じゃない。
それでも無理やりワープを成功させるには、もう一手必要だと考えた。
そこでシュウマツさんが作業前にかけてくれる、お呪いがある。
それは……万が一事故を起こした時の救済措置だと言う。
一か八かだったが、フーさんはその賭けに勝った。
正し賭けには勝ったが、状況は割と最悪で、飛び出した先はある意味では見慣れた宇宙だった。
「コロニーが近い。月がコロニーの哨戒範囲に入ったかな……」
月は今、地球と小競り合いを続けているが、コロニーも同時に気にしている。
だから定期的に偵察任務を小規模に行っているが、機体の性能で今一歩後れを取っているところがあった。
だからこうしてコロニーから補足されると、ひどい目に合うことになる。
どうとは言わないが存在しない部隊が、一つ消えたりは最悪のパターンだろう。
「どうしようかなぁ……4機は無事ワープ出来てたらいいけど。私は……月に戻る? いや、それとも……コロニーに亡命しようかな?」
フーさんからしてみらた、身を挺して他の4機のワープアウトを助けたのだから本当に感謝してほしいくらいなのだが、状況をわかっていない元仲間と、AI相手ではまぁまず無理だろう。
白旗でも振って、投降したら許してくれないだろうか?
どうにかしてニライカナイコロニーに帰りたいなと思うが、漠然とそれは絶望的な気がした。
「まぁ……夢みたいなものだったと思えばあきらめもつくけど……ひどいなぁ」
あまりにも突然夢から覚めるような終わり方はフーさんも予想していなかった。
ただ、当り前と言えば当たり前なのだが、何より強く現実に引き戻してくれる原因はすぐそばにいた。
「聞こえるか? こちら作戦行動中だ。改めて協力を求める。コードは……お前F3シリーズか? なら私の指揮下に入れ。こちらF2、指揮官個体だ」
「……」
「どうした? アウターの調子がおかしいか? ずいぶん無茶な改造をしているみたいだが……通信は聞こえているか?」
「あ! F3って私か! はいはい!」
慌ててフーさんは返事をする。
自分でも昔の呼び方に一切反応できなかったのは驚きだった。
「……何を言っている?」
「だってしばらく呼ばれてなかったから……。えー、こちらF3。指揮下に入るのは拒否します。君、いくら何でも迂闊すぎるよ。戦力は足りないし撤退を推奨する。サポートするからとっとと逃げよう」
「なぁ……! い、いや! 上位タイプに命令拒否などできないはずだ。……お前、本当にF3タイプか?」
「どうでもいいでしょ。そんなこと? それより……来るよ。ちょっと今私機嫌悪いんだから、生き残ることだけ考えてよね」
そして原因がいれば、原因その2ももちろんいた。
あのワープアウトの仕方を見るに、オペ子さんの時と同様転移兵器が使われたんだろう。
転移兵器を使ったのはあいつらだろうから、事の元凶はあいつらなのかもしれない。
ワープの影響から回復し、人間離れした軌道でやって来る3機のアウターを見て、ちょっといら立っている様子のF2は追及を断念した。
「……了解。言いたいことはあるが……今は生存を優先しよう」
「そうだよ。たぶん私達じゃ、あいつらには……勝てないんだから」
「馬鹿を言え! コロニーの人形兵器程度。月の敵ではない!」
「嘘ばっかり。部下は全滅したんでしょ? 遠隔操作もシールドされてるし……人型だけど相手は本気で人間じゃないんだから“強くなった人類”に拘ってる私達じゃ分が悪いんだよ」
「ぐぅ……お前、それはさすがに月の国民とも思えない発言だ。女王に聞かれたら処分対象だぞ?」
「わかってるよ。……だから、秘密にしておいてね?……それに君達も、せっかく助けてあげたんだから手加減してよね? バックアップは当然とってあるんでしょう?」
せっかくなので言いたいことは言って、フーさんはコロニーの機体を睨みつけると、モノアイを光らせた3機は円を描くようにフォーメーションを組んで動き出した。