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トラブルは突然やって来る

「ヘルメットよし……ロック1よし。ロック2よし。酸素良し。アウター各部正常に起動……よし」


 宇宙に出る時は安全第一。


 気のゆるみが命の危険になりかねない。


 かつて人類が宇宙に出て少し。宇宙空間に労働者が溢れて、宇宙服を一人で脱ぎ着出来るよう改良に余念がなかった時代。


 結構な数ヒューマンエラーで死者が出たという話だ。


 だから今はいろんなところで、注意を促す仕掛けが施されていた。


 例えば僕のアウターの場合は空気のある場所でカートリッチに空気を溜め第1ロック。その上で第2ロックでさらに固定する。


 こうすることで作業後第一ロックを外すと、空気が噴き出し軽い衝撃が伝わる。


 その上でようやくもう一つのロックを外せるようになり、事故を防止するわけだ。


 ちなみに僕のは旧式なので空気だが、最新型のインナーは煙が出たり、光ったりするのでちょっとカッコイイから必見である。


「カノー出るよ」


「了解。ハッチ開きます。幸運を」


 オペ子さんとの会話の後、僕は宇宙へと飛び出す。


 ゆっくりと開くハッチの向こうには今まで隕石群と宇宙が黒く広がっているばかりだったが、最近は少し違っていた。


 目に見えて数を減らした隕石群と、減った分大きくなった建設中の巨大ワープゲートがなにより目を引いた。


 もうほとんど円を描いているそれを見ているシュウマツさんは日に日に輝きを増しているように見えた。


「……形になって来るとすごい迫力だなぁ」


「作業は順調だとも。今日のパーツで綺麗な円が出来上がるね。そこまでくれば肝心の機能は使用可能になるはずだ」


「……早くない? いや、いつものシュウマツさんを考えるとゆっくりなのかな?」


「使えるだけだよ。まだ完成ではないから勘違いしないでくれたまえよ?」


「十分すごいよ。今日はお祝いだ」


 なんにせよ、形になるのならそれは喜ばしい。


 僕は感慨深いものを感じながら、作業場へ向かうと見覚えのある生身がむき出しのアウターがすでに作業を進めていた。


「今日はフーさんが先に来てるみたいだね」


「ああ。今、一つパーツを運んでもらったところだ。白熊さんは、今日は少し遅れているね。海で干物を回収しているようだ」


「そりゃあ給食係だもの。食べ頃の食品はタイミングを外さないさ」


 そういうことなら僕も急いでフーさんを手伝いに行かなければいけない。


 予定の宙域にやってくると、ゲートをいじっていたフーさんがこちらに気が付いて、大きく手を振っていた。


「おーカノー! お疲れー」


「お疲れ。早いね、フーさん」


「まぁね! だって今日でワープゲート完成するんでしょ? そんなの張り切るでしょ!」


「完成ってわけじゃないみたいだよ? 一応使えはするみたいだけど」


「いやいや、カノーだってコロニーから見たでしょ? もうあれゲートじゃない? で、つながっちゃうわけじゃない? もはや完成だよ!」


 自信満々に言ってのけるフーさんは実に楽しそうである。


 僕も本当にワープゲートなんてものが出来上がるのだとしたら、とても楽しみでしょうがない。


 ただ、間違いなく楽しみではあるのだがゲートの完成は色々と状況が動くことを意味していた。


「そうだね。じゃあ……ゲートが完成したら、フーさんはどうする? 月との通信も回復するだろうし。やろうと思えばすぐにでも月に帰れるかもしれないよ?」


 僕も時空の穴をふさぐことが第一の目的であったとしても、ゲートがワープゲートとしての機能を持つなら、フーさんや白熊さんが使う分には問題ないと思う。


 むしろ希望するなら進んで使うべきだとも僕は考えていた。


 ただフーさんは僕の質問を聞いて、いたずらっぽく笑った。


「うーん……私は。正直どっちでもいいかなって思ってるよ。もちろんシュウマツさんとカノーがここにいていいって言うならだけど……残りたいな」


「もちろんいいとも。でもそれでいいのかい?」


「うん。思い出はもうここでの生活の方が多い気がしてるくらいなんだ。なにより充実してるもん。この子たちのことも放っておけない」


「クエー!」


 バサリと喜んで翼を広げた鳥の精霊、ルリも嬉しそうだ。


 そう言うことなら、フーさんに僕からはもう何も言うことはなかった。


「そっか……。うん。じゃあ今日も張り切っていこうか?」


「うん!」


 僕も少しばかり心が浮かれている気がするが、そういうのはあまり口に出すと、正常な判断の邪魔になるかもしれない。


「まぁ、とりあえず完成させない事には、絵に描いた餅ではあるんだ。このまま順調に行けばいいんだけど……」


 ワープゲートを見上げ、あまりにもスムーズに進む建造にやれやれと肩をすくめる僕の頭に、よくわからない思念が飛んできたのは、そのすぐ後の事だった。


「なるほど……これがフラグというやつかな? それにしても回収が早い気がするが?」


「どこでそんな言葉覚えたの? シュウマツさん?」


「オペ子がそんなことを言っていた。あいつ、結構色々覚えてるんじゃないか?」


「……初期設定の時点で無駄なソフト入れすぎなんだよ最近の素体は。それで? 僕は一体何のフラグを回収したんだろう?」


「ああ。時空振だ」


「……!!!」


 その言葉を聞いた瞬間、僕は蒼白になった。


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