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理想は銀河の果てまで

「? いや、実際に君はここで私と出会っただろう?」


 シュウマツさんの言う通り、行こうと思えば行ける技術は確かにある。


 時間をかければ遠くに行けるし、コールドスリープの技術を使えば時間も何とかなるかもしれない。


 ただそこまでする人間はほとんど皆無というだけだ。


「そりゃたぶん僕が変わり者だからなんだねー……」


「そんなに自虐的にならなくても……。いや、しかし君らの世界ではスペースコロニーなんて建造物まで作っているんだろう?」


 それは確かにその通り。僕は頷いた。


「そうだよ。でもそこ止まりなんだ。コロニーは地球の周りを漂っているだけだし、月以外にだって行ったことがある人類は今はほとんどいないんだよね。ましてその先なんて夢物語さ。いや、探査機なんかは出てるんだから、有人探索もやろうと思えばできるんだけど、リスクに見合わないんだって」


 地球の資源だってなくなったわけではないし、目的が資源だけなら、わざわざ直接行かなくても調査も、採掘も手段はいくらでもある。


 地球を知ってる白熊さんは無理もないと肯定的だった。


「まぁ、色々あったからさ。人口も最盛期に比べたらずいぶん減っちゃったわけだし」


「火星とか、昔はテラフォーミングとか計画はあったみたいだけど、結局惑星一つ改造するなんて現実的じゃなかったんだよね?」


 フーさんが、かつてあったコロニー計画の対案について語るが、そっちはコロニー案が採用されてからは、ちょっと形を変えていた。


「そうだねぇ。最近は自己判断できるAI人種もいるから、コロニーじゃ彼らが装備を持って行って他所の惑星から資源だけ吸い上げているよ。今採掘してるのは、水星と金星と火星だっけ? たぶん、普通の人間は火星にも一人もいないんじゃないかな?」


 スペースコロニーで宇宙開発が本格化したのは、全自動で資源採掘の目途が立つようになってからと記憶している。


 そして一度仕組みが出来上がってしまえば、機械をじゃんじゃん作って送り出すと、ほぼ無尽蔵に原材料が他の惑星から送って来るのだから人間にしてみればこんなに楽なことはない。


 AI人種が出来上がってからはより高度な自動化も進んでいて、コロニーは潤っていた。


「コロニーすご。月も知らないだけでそういうのやってるのかな?」


 フーさんは感心した風である。


 ただ、AIの進化でものすごく機械的にそれが出来るようになってしまってからは、保守的な状態に拍車がかかっているのは間違いない。


 しかし人間自体に理解があるシュウマツさんはいまいち納得できないみたいである。


「ふーむ。そんなものかね? 人間は行ける手段があるのなら好奇心に勝てない生き物だという認識はあったのだが?」


「いやー……まぁ。お金かかるし危ないから。宇宙じゃ息もできないし」


 宇宙はとにかくお金がかかる。


 呼吸もできなければ、移動だけでも最先端のテクノロジーを詰め込んだ船が必要なのだから個人の思い付きで準備を整えられるほど、宇宙開拓は甘いものではないのだ。


 しかしだからこそ夢の残滓が今も残っていて、たまにいる変わり者がおいしい話に飛びつく……そう、それが僕である。


「世知辛いなぁ」


「みんなやってみたいとは思ってるはずなんだけれど、やっぱり実行にまで移すのは一般的ではないだろうなぁ。……僕も、元々住んでたコロニーじゃなんて言われてるか正直怖いネ。世紀の愚か者として笑われているか。悲劇の変人として悲しまれているか……泣ける」


 ちょっと想像すると泣けてくるわけだが、宇宙の果てで消息不明では、少しは騒がれているかもしれない。


 声色にちょっと感情が出過ぎていたのか、全員に慰められたけど。


「元気出せ。変人かもしれないけど、私は君のことが好きだよ?」


「そうそう! カノーがいなきゃ、ニライカナイコロニーは生まれなかったんだから、変人最高だよ!」


「うん。ボク達だって君に感謝してる! カノーを変人だなんて……思わないって」


「……アリガトネ」


 漂流仲間達の優しさが染みる。


 しかしこれについては僕の問題なので、甘んじて受け入れる覚悟はできていた。


 現状に閉塞感みたいなものを感じるのは、感情の問題だし、感情じゃ誰も納得しないのは僕自身よくわかっていた。


 しかしフーさんは声を弾ませて、ゲートを語る。


「それに! 今作ってるこれ! これって、その辺りまるっと解決してくれる発明だよね! これ持ってったら大騒ぎだよ! カノー、歴史に名を残しちゃうかもよ?」


「そうだね。大騒ぎ間違いなしだ。考えてみれば、月も地球も、こそこそワープについては研究してるんだ。まだ見ぬ星の海をあきらめきれてないのは間違いないさ」


 白熊さんの言う通り、僕らがここで暮らしているのは、外の宇宙をあきらめきれない感情があることの証明だった。


「確かに。シュウマツさんは、これがあれば僕らはここから先に行くと思う?」


「うーん。どうだろうな。私は君達のことを少し知っているだけだからね。君はどう思うね?」


 なんとなく僕はシュウマツさんに尋ねてみると、シュウマツさんは逆に尋ね返してきた。


 改めて想像すると、中々予想は難しい。


「僕? そうだなぁ……時間はかかるだろうけど。きっといつかもっと遠くを目指すとは思う……でも」


「なにか、気になる事でもあるかな?」


「いや、どうせなら、僕が実際に見てみたいなって」


 結局はそこに尽きる。


 いつかでは僕が見れない、それが僕は何より重要だった。


「そうなんだよ、人類がいつかどうなるかより、やっぱり僕は本当の宇宙の果てを見てみたい。事故の後片付けが終わって、ニライカナイがしっかりスペースコロニーとして機能するようになったら……何かやってみたいかな?」


「! それはいい。その時は今度は私が付き合おう」


「いいね。それはとてもいいな」


 雑談を交えつつ、僕らは作業を進める。


 話の話題が尽きないのは、きっとテンションがみんな高いからだろう。


 実際このワープゲートはロマンを語るには、最高の題材なのは間違いない。


 それを作っているのが僕達で、最高の浪漫が丸ごと僕らだけのモノなのは、とても楽しい時間だった。



 作業はとても順調だった。


 しかし―――トラブルが起きたのはゲート建設が始まって一週間後の事だった。


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