ワープゲートを建設しよう
宇宙に開いた穴。
僕らの実験で開いた不安定な空間を安定させるワープゲートの建設は急ピッチで進められていた。
揺らぎを計測し、そのデータを基に大きさを決め。
シュウマツさんの魔法的な情報を使ってパーツを設計。出来上がった図面でシュウマツさんが出力し、現物を作り上げるという、僕らにしては珍しい共同作業は順調に進められていた。
そしてその成果は、目にするとあまりに大きく思わず僕も声が出た。
「で―――かいなぁ」
「言ったろう? 大変だから覚悟しておくようにと。私も全力でやるが、運び出して組み立てるのは君達に任せるよ?」
「「「はーい」」」
シュウマツさんが作った第一パーツは、想像よりもはるかに大きなものだった。
格納庫に出来上がったそれを、僕らはけん引して指定された座標に運んで行く。
パーツを組み上げてゆくと、最終的にとても巨大な輪になる予定だ。
そして作業を円滑に進めるためのオペレーターはもちろんこの人である。
「オペレーションはワタクシオペ子にお任せください。本業ですのでご安心を」
「えぇーホントにオペ子で大丈夫かなー?」
つい先日、とんでもない目に遭った白熊さんが一言口をはさんだが、オペ子さんの声色は自身に満ち溢れていた。
「もちろんですとも、白熊様。オペ子の名に恥じない正確なオペレーションをお約束しますよ? いや、ホントに」
「オペ子さん……最後に余計な一言をつけなきゃ、人は不安にならないんだよ?」
「ほんのジョークです。和みましたか? では張り切って本日のタスクをこなしましょう」
チョットだけ調子の外れたオペ子さんの指示に従って、僕らはそれぞれ動きだした。
「空間転移制御陣の概要を説明しよう。私の世界ではそう呼ばれていた物の大型版だ。君達の言葉で言えばワープゲートとでもいうものだね。一つあればイメージした場所に転移することが出来る優れものだ。魔素の効率がとてもよく、気軽に使える。輪を通り抜けられるものならば巨大な物でも転移可能だ。複数輪を作って、主要なポイントに設置すれば座標の誤差すらなくせるのだが……そこは今回の妥協点だね」
シュウマツさんも途中から会話に参加してきたのはたぶん寂しかったからだろう。
コロニーの中に誰もいないことは最近珍しかったから無理もない。
しかし僕はこのワープゲートがこの先ゲートという本来の目的で使われることはそんなにないと思っていた。
「それは仕方ないよ。それにこのゲートの目的は空間の穴をふさぐことが一番なんだから、問題ないかな?」
「うん。完成の暁には、ゲートの開閉はバッチリできるとも。通信障害も解消されるだろうし、君達を元居た場所に送り届けることも可能となる」
そしてシュウマツさんは重要情報をサラッと説明した。
テレパシーで話すシュウマツさんが説明すれば聞こえなかったなんてことはない。
僕はなんとなく二人がどんな反応をするのか気になって様子を窺っていると、呟いたのはフーさんだった。
「あーそっか。そうだよね、ワープゲートってそういうものじゃん。でもそれってすごいんじゃない? もう完全に未来の技術なんじゃない?」
おや、フーさんは思ったよりあっさり流したか。
「未来って言うか、異世界の技術なんだろうけど……そこのところどうなんだろう? ワープ技術を研究していた技術者様からしたら、どう?」
そして白熊さんにはちょっといじられて、僕は微妙な表情を浮かべて唸った。
「うーん。真面目に制御できるなら、未来技術だろうね。正直ワープに関してはわからないことが多すぎるんだよ。結局のところ、その辺の解明も僕らの仕事だったんだよね」
「だからこんな誰もいないとこでコソコソやってたんだ」
どうにもニヤニヤしているのが透けて見えるフーさんの声だが、まさしくコソコソ実験していたのに間違いはなかった。
「そういうこと。コソコソもだけど、結果を見ると危険極まりないからだねぇ。時空間が乱れると、いろんな悪影響が出ることはわかっていたから、社会に影響がない宙域まで船を飛ばす必要があったんだろうと思うよ」
何をしていたかなんてわからないが上の人達は、大量のワープクリスタルに過剰な電力供給をすればどこまでワープの距離を伸ばせるのかなんて実験でもしたのかもしれない。
結果何もかも吹っ飛んで、空間に大穴を開けたんだから笑えない話だった。
実際話を聞いたフーさん。白熊さん。ぽえ子さんの三人が引いているのが通信越しにもよくわかる。
「うわぁ。アリなのそれ? カノーって一般人でほとんど何も知らされてなかったんだよね? そんなの月でもやらないよ?」
「同じく地球でもないね」
「コロニーでだってしませんよ。理解しかねます。そもそもが有人で実験するには危険すぎるのです。制御できる算段があったのではないですか?」
しかし続く最後のオペ子さんのセリフは全員に刺さった。
結局ロマンはあるが今一歩足りない。そんな実験に付き合わされたのが僕らという被害者の今である。
「うーん。どうかなぁ。僕の場合そもそもが……『外宇宙探索における有効技術の再検証』って企画が、今のコロニーからしたら夢がありすぎてねぇ。冷静になると何だったんだろうなって?」
正直にそう言うと、全員が全員息を飲んで黙り込む。
そして続くフーさんの声色はおそらく呆れていた。
「カノーって……結構無謀な人なんだよね」
「……せめて冒険心にあふれてると言ってほしい。いやでも……詐欺にしては、収入が良かったし。宇宙船はしっかりしてたんだよ? 乗ってみてから……粗は目立ってたけれど。装備が……結構旧式だったし」
「……ああ、でも、乗る前にやばいってのは気づけたやつじゃないかなぁ。外宇宙探索なんて、真面目に考えてる人がいるとは思えないよ?」
「……いやー」
白熊さんも苦笑いである。
しかし僕らの会話はただ一人、シュウマツさんにしてみれば、首をひねる内容みたいだった。
「いや、ちょっと待ってくれ? 君らは星の外に出て。外を目指している人類ではなかったかい?」
疑問というか混乱して尋ねるシュウマツさんに、僕らはみんなまた黙り込んだ。
なんと言ったらいいか……ちょっと真剣に改めて尋ねられると、真面目に答えるのがしんどい話だと僕には思えた。
でも言わないわけにもいかない。
「いや……違うんだシュウマツさん。確かに僕らは宇宙に出たし、宇宙で生活もしているけれど、そんなに冒険心にあふれているわけじゃないんだよ。僕らはね……結局未だに命懸けで外の宇宙に行く理由を見いだせていないんだ」
だから僕は僕の感想をシュウマツさんに伝えることにした。