果実の活用法
「え? 実? ああ、生ってるよ。自然に生るんだ、この間の精霊のやつとは別でね」
大慌てで報告する僕に、シュウマツさんが実に普通に言い放ったセリフがこれである。
なんだろう? これが旬って奴だろうか? 今まで普通に話していた植物に急に季節感を出してこられても、とても微妙な気分になるだけだった。
「そうなんだ。じゃあ、普通……ではないだろうけれど果実ってことか」
「なんでそこに否定が入るのだろう? 普通の果実だとも。ここだけの話……味には自信があるのだがね」
「だから何なの? その味に対する妙なこだわりは?」
「まぁ栄養価も高いよ? やはり冥界があると違う。ついつい栄養過多でいつもより沢山実らせてしまった。お恥ずかしい」
「恥ずかしいことなのそれ? えっとじゃあ、放っておいて大丈夫ってことでいいんだよね?」
「もちろん。しばらくすると光になって消えるだけだとも」
「……光になって消える」
「もちろん。収穫してもらっても構わないよ? 完熟した時収穫すると消えることはないね。ビタミン各種に食物繊維。糖分が多めなのを玉に瑕と呼ぶか珠玉の逸品と呼ぶかは判断の難しいところだね」
「自分の一部をそんなに営業トークする人初めて見るよ」
シュウマツさんの話を信じると、栄養満点でとてもおいしいが、収穫時期を逃すと消えてしまう果実ということらしい。
そういうことならとりあえず……。
「食べてみるしかないんじゃないかと思って収穫してきたわけだけれども」
「収穫って……宇宙空間で?」
「そう。アウターに乗って、無重力で初めて植物の収穫しちゃった。めちゃくちゃ妙な気分だったよ」
「で、収穫してきたのがこれなんだ。おいしそうなんじゃない?」
僕は籠いっぱいになった果実をみんなの前に置く。
呼んできたフーさんと白熊さんは興味深そうに果実を眺めていた。
見た目は葉っぱのないパイナップルの様な外観だったが、包丁で半分に切ると、中は桃に近い。
白い果肉にあふれ出る果汁は十分すぎるほどに果物に見えた。
白熊さんは実を手に取り、うんと頷く。
「いいね、これは生でかじるのが一番おいしいんじゃないかな?」
それもありだろう。
僕はうんうんと頷き、口の中いっぱいに広がる果汁を想像した。
フーさんはすでに、この果実の保存方法を考えているようだった。
「私はドライフルーツもいいと思うな。甘味が凝縮するし、保存もきくから長く楽しめそう!」
それもまた良しと僕は頷く。
ねっとりとした甘みのある、ドライフルーツもまた果物の楽しみ方として非常に優れた調理法だと言える。
手軽に持ち運べて食べられるのも、いい感じである。
しかし僕としてはやはり手を加えるのなら、本格的に手を加えたいところだった。
「せっかくだから、タルトなんかにしてもいいかもしれない」
まだ味も知らないのにワイワイと話が弾むくらいには、シュウマツさんの果実はおいしそうだった。
何分未知の食べ物なのだから、王道の食べ方があるわけじゃない。
好みに合わせた調理法を模索するのも楽しいことだろう。
自分の果実が食べられそうだというのにシュウマツさんも機嫌よく輝いていて、そんな僕らに言った。
「うん、喜んでもらえたならとてもうれしいよ。あ、でも、食べる時は気を付けるんだよ? “不老”になるからね。完全な不死には及ばないが、超回復もオマケについてくるのだよ?」
しかしシュウマツさんの一言で、僕らの会話はピタリとやんだ。
「今日はー……解散かな」
「森の中で食べられそうな果物あったから今度持ってくるね」
「これどうしようか? とりあえず土にでも埋めておく?」
「なんでだね!?」
何でって言われても、そんな伝説のアイテムみたいなもの午後のティータイムで食べられるわけないでしょうが。
とにもかくにも覚悟が足りない。
ひとまず、うっかり実がどこかに流れていっても怖いので、全て回収後倉庫に保存という流れに落ち着いた。