おいでませ!ニライカナイアンダーグラウンドへ!
「なにこれ?」
「ロボット?……いや、それにしては……僕も見たことない型だ」
一見するとおもちゃのようにも見える彼らは、しかしこちらに反応して挨拶してきた。
周囲を見ても誰もいないので、ひとまず僕はそのロボットへ話しかけてみた。
「オペ子さんが作ったんだよね? 君、オペ子さんどこにいるか知らない?」
「ムナーーーーーー!」
「うわ!」
一声鳴いたロボットは、頭がいきなりボンと燃え始めた。
頭の上でゆらゆら揺らめく炎は青白く、ただの炎ではないようである。
その炎はしかし、オペ子さんに譲渡されたものとあまりにも似通っていた。
「え? なに? どうした?」
「ムナー」
「ムナー」
「ムナー」
そして次から次に飛び出してきたロボットは、どんどん増えていって僕らの前にずらりと並ぶ。
彼らの頭は一斉にやっぱりボンと燃え出して、炎は一つにまとまって人の形に変化してゆく。
「あの炎は……」
「あれって……人? いや! アレは!」
「皆様……お待ちしておりました」
炎の中に映し出された姿はとんでもなく巨大だったが、僕らはその姿を知っていた。
「オペ子じゃないか」
「オペ子さんダメだよ? 定期連絡には顔を出さないと」
「それは申し訳ない。ですが今回はあえて定期連絡はお休みさせていただきました。それにしても反応が淡泊すぎでは?」
だってオペ子さんだし。
炎で出来た巨大オペ子さんにビックリはしたけれど、僕にはやはり一定の信頼があった。
オペ子さんはどこか物足りなさそうだったが、まぁ良しと炎の体で頷いていた。
「ですがまぁいいでしょう。狙い通りあなた方はここに現れた。せっかくの初お披露目をお楽しみください」
「初お披露目って……この場所の事だよね?」
「その通り―――」
白熊さんがメタリックな都市を眺めて言うと、炎オペ子さんは不敵に笑い、歓迎するように丁寧に頭を下げた。
「ようこそ、ニライカナイアンダーグラウンドへ。ワタクシはあなた方を歓迎します」
「ニライカナイアンダーグラウンド?」
「はい。ここはコロニーの底。『ニライカナイアンダーグラウンド』。命と鋼の楽園です」
「「「ムナー!!!」」」
パンパパンと、ロボットから上がる花火で暗い世界が照らされた。
「あ、ちなみに彼らは当園のスタッフ『キジムナー』君です」
「ムナー!」
飛び跳ねるキジムナー君達に僕はつい挨拶していた。
「あ、よろしく」
「スタッフなんだこれ」
「はい。ワタクシが用意したボディに魂を少々詰めています。ボディが壊れると、契約満了なので、バカスカ壊してくださいね」
「壊すってアリなの? 仲よくじゃなくって?」
「大いにアリかと。キジムナーはスタッフであり、この世界を守るガードマンでもある鋼の戦士達です。本日お招きしたのは、他でもありません。実はここでひと暴れしてもらおうかと思いまして」
しかしどうにも話の方向が物騒になってきて、僕は眉間に皺を寄せた。
「……なんで?」
尋ねる僕にオペ子さんは炎で様々なモンスターを作って見せながら解説を始めた。
「はい。当園はアウター操作の基礎技能訓練を主な目的にしてはどうかと考えています。そのテストをお願いしたいのです。居住区が謎植物に覆われ、危険生命体が跋扈するようになって久しいです。自衛のための訓練と冥界の円滑な運営のため頑張ってください」
「それがニライカナイアンダーグラウンド?」
「その通りです。まぁ、冥界というものはそこにあるだけで意味があるモノの様で、特に完成してしまえばやることがないのです。でもそれではやりがいがありませんのでなにかできないかなと。御覧の通り冥界のポテンシャルは、本来の役目以上のものです。ご期待に添えるよう骨太なアトラクションを用意していますので、ぜひぜひ奮ってご参加ください」
僕は戦闘要員じゃないからお断りできないモノだろうかと真剣に考えていたが、その前に僕には聞いておかなければならないことがあった。
「そう言えばフーさんを知らない? 彼女も食事会に来ていなかったんだけど?」
だがその質問を待っていたかのように、オペ子さんはどこか邪悪に微笑んでいた。
「フー様には先立って、このニライカナイアンダーグラウンドのテストにご協力いただいています。……後はわかりますね?」
「……」
後は分かりますねと言われても。
しかし今一乗り切れない僕と違って、白熊さんの方は少々目の色が変わってきたようだった。
「へぇ……それは人質のつもり?」
「ご自由に解釈いただければ。それでは、フー様と会いたければ中央の城までお越しください。スタッフ一同心よりお待ちしております」
説明を終えると、炎オペ子さんは霧散する。
どうしてこんなことになったのか意味が分からないが、僕にもオペ子さんがなんとなくよからぬことを考えているのは、感じ取れた。
白熊さんは槍と剣を構えて僕に尋ねた。
「……どこまで本気だと思う?」
「僕としては全部冗談だと思いたいけれど……」
そう答えたが話し合う時間もなく、僕はキジムナー達が目をチカチカと輝かせているのを見た。
「少なくともキジムナー君達は本気っぽいんだよなぁ」
そして彼らが一斉に武器を構え始めたのを見て、僕は一歩後ずさりした。