ニライカナイコロニー食事会
週に2回ほど、僕らは僕の家に集まって情報共有もかねて、食事会をしている。
しかしこの日集まったのは白熊さんと僕、そしてシュウマツさんだけだった。
「あれ? フーさんとオペ子さん来てないね」
僕が鍋いっぱいのカレーを準備しながら尋ねると、参加メンバーから帰って来た返事はだいたい同じだった。
「オペ子は部屋で寝てるんじゃない?」
「オペ子は部屋で寝ているんだろう」
「……」
僕の質問に対しての答えがまるで同じなことに、オペ子さんのイメージが固まっている事を確信する。
親しみやすさのイメージ戦略だとしても、ちょっと残念な結果に僕はガクリと肩を落とした。
「いや……最近とても大変な仕事を頼んだから。来られないだけじゃないかな?」
「なにそれ? 絶対面白そうなことだよね? シュウマツさんが挙動不審だし」
そう白熊さんに言われて僕がシュウマツさんに視線を向けると、光り方が不規則で落ち着きがなかった。
「シュウマツさん……いくらなんでも態度に出やすすぎじゃないかな?」
「そんなことないと思うのだが? いや、今更ながらに人選を誤ったかなと思っただけだよ?」
「そんなことはないと思うけれど……」
正直僕にも不安がまったくないかと言われたらそんなことはない。
だがオペ子さんが出来なければここにいる誰にも出来ないだろうとは本気で思う。
そもそもシュウマツさんが任せたあの仕事自体が謎に包まれているのだから不安になるだけ無駄なのかもしれない。
じらすような形になったことで、白熊さんはじれったそうにシュウマツさんに尋ねた。
「まぁまぁ、それで一体何をオペ子さんに頼んだのさ?」
「冥界の管理だよ」
「冥界?」
「簡易死後の世界と言ったようなものだね。コロニーの中枢にこの間作ったんだ」
「死後の世界? シュウマツさんのことだから何かの比喩表現とかではないんだよね?」
「もちろん。死後の世界なんていうと物騒に聞こえるかもしれないが、むしろきちんと整えることで利点もある施設だとも」
シュウマツさんは自信満々にそう答えるが、こればかりは信じるしかないことだった。
まぁオペ子さんも頑張っていることだろう。
しかし僕がもう一人心配なのはフーさんの方だった。
「まぁ、そういうわけでオペ子さんは連絡が遅れそうな理由に見当がつくからいいんだけど、それはともかくだ。フーさんの方はやっぱり生き物の調査が忙しいのかな?」
フーさんも最近の謎生物大量発生でずいぶん無茶をしている。
野山をかけ回る彼女の生活は野性味にあふれ、森にでも籠れば時間の感覚がなくなるだろうことは容易に想像がついた。
それは白熊さんも知るところだった。
「ああ、アレは大変そうだよね。ただ記録を集めるだけじゃなくて、最近は生き生きしたモンスターの写真を撮るのもこだわり始めているみたいで。案外凝り性だよ彼女」
「……新生物、アレの呼び方ってモンスターで固定でいいのかな?」
「モンスターでしょあれは?」
確かに、まさしくああいう生き物を僕らはモンスターって呼ぶ。デジタルゲームの影響である。
「ああ。じゃあフーさんは今も何かを追いかけてるのかな?」
謎の巨大生物を追って、嬉々として森に入って行くフーさんの姿が容易に想像出来て、僕は苦笑する。
しかし白熊さんの最後に見たフーさんの姿は想像したものと違っていた。
「いや、確か……データが溜まって来たからオペ子のところに行っているはず……」
「……」
それって大丈夫か?
僕の頭に泡のように浮かんだ疑問は、見事に心にさざ波を残した。
ここにいる全員の心が一つになったのは言うまでもない。
「……一度、オペ子さんの所に見に行った方がいいんじゃない?」
「……そうだね。心配しすぎな気がしないでもないけれど。一度見に行ってみようか?」
何事もなければいいなと思いつつ、僕らは食事会を切り上げることにした。