異世界風呂
お風呂と聞いて僕が想像するのはかつてリゾートに存在したという、露天風呂だろうか?
池の様な浴槽に温泉という温かい地下水を入れ、景色を楽しみながら入ったという。
なんと言ってもその魅力は圧倒的解放感と風景で、大自然をダイナミックにアレンジし、絶景をより楽しめるように工夫を凝らしたものだったとか。
僕が参考までに、この原始と最新入り混じるニライカナイコロニーにふさわしい形式なのではと声を上げると、いや待ってとフーさんが手を上げた。
「私の知ってるのは……泡だね。泡が出るらしい。お湯の中に」
「泡が? ……なんだかよくわからないけど気持ちよさそうな気がする」
「……でしょう?」
フーさんはキラリと目を輝かせ、僕はほほうと相槌を打つ。
それもまた風呂だね。
風景とは違うアトラクション性も、数ある風呂には欠かせない要素と聞く。
そして真打、地球育ちの白熊さんの思い浮かべる風呂は室内らしい。
「ボクが聞いた話だと……広くてゆったり浸かれる浴槽で、壁はガラスで出来てたらしい」
「「丸見えじゃない?」」
「そうだけど、まぁ広くは感じるんじゃない? そして音楽を流したり、いい匂いをつけたり、ライトアップしたりするんだとか」
「い、意味あるのそれ? 何をライトアップするの?」
「……知らないが、でもなんか憧れる感じだった」
語る白熊さんも真偽のほどはわかっていないようだが確かに入ることが出来るのなら、一味違ったお風呂体験を得られることになりそうだ。
僕はたった三人から出る、「思い浮かべた風呂」のイメージに戦慄を覚えた。
これほどまでにお風呂というのは多様性を内包しているというのか。奥が深い。
だけど要は温かいお湯に思い切り浸かりたいというシンプルな願いのはずである。
そしてそれだけ叶えば問題ないはずだった。
でも僕らは少し考えるべきだったのだ。
同じ世界でも「風呂」の一言で出てくる理想がこんなにも違うんだから「異世界」相手だとどうなるかくらい。
「「「思ってたのと違う」」」
声をそろえる僕らに、シュウマツさんは驚いて、点滅した。
「えぇ!? お風呂だろう? そんな違うとかあるのかい?」
僕らの前には空中に浮かぶ、建物ほどの大きさのホコホコ湯気を出す水球が浮かんでいた。