森のお家
「見て! ここが森の家だよ!」
「おお……素敵なお家だ。まさしくそんな感じ」
レンガで組まれた煙突付きの家は、どこか童話に出てきそうな外観だった。
古風だがかわいらしさも備えていて、簡易的な家とは思えなかった。
「いいでしょ? こういう絵本見たことあるんだ!」
周囲の最近生え始めたとは思えないほど立派な樹木も合わさって、森の中の小さなお家というのがピッタリくる。
そこにバサバサと精霊の青い鳥君がやってきて、お手製と思われる止まり木に止まれば、完全にメルヘンの世界である。
「お帰りルリ」
名前を呼ばれ鳥の精霊はばさりと翼を広げて返事をしていた。
「名前を付けてあげたんだね」
「うん。ルリだよ。かわいいでしょう? 私の探索を手伝ってくれてるんだ」
「へぇー。すごいなぁ」
「見たことない植物を見つけたら持って来てくれたり、教えてくれたりするんだよ。精霊ってとっても頭がいいみたい」
それは確かにそう思う。
見た目通りの頭の良さではないんだろうなと感じることは、一緒に過ごしていれば僕にも多々あった。
「家具がベットとテーブルとイス。あとは机があるくらいなんだけど。ティータイムにはもってこいかな」
「ああ、いいね。森でティータイムなんて、すごく贅沢だ」
「でしょ? ああでも、襲ってくるやつもいるから一人で森に入る時は気を付けて」
「襲ってくるやつ? 猛獣でもいた?」
また僕の知らない間にシュウマツさんがなにか作ったのだろうか? そう思ったがどうやらそういうわけでもないらしい。
「そういうのはまだこの森にはいないけど……普通に植物が襲ってくるんだよね。出来ればアウターを着て来た方がいいよ。私も“アーネラ”は持って来るようにしてるし」
「なるほど……いまいちピンとこないけど」
というかあまり理解したくない僕だったが、突然鳥君が耳を劈くような鳴き声を上げ、僕らは顔を上げた。
クエー!
「え? ちょうど連れて来たって?」
「え?」
何をと疑問に思う暇すらなかった。
地面をメリメリ割って、根っこが林から飛び出してきたのは、この後すぐである。
僕は普通に驚いたが、一方でフーさんは慣れた様子で好戦的に笑っていた。
「そう言えば。装甲なくっていいとこ思いついたよ!」
「え??」
「乗り降りが楽!」
「ハッチすらないからね!」
そう言う意味では、これ以上乗り込みやすい機体はそうはない。
ひょいと遠隔操作で飛んできた自分のアウターにフーさんは乗り込み、ホバリングして根の槍を避けてゆく。
明らかに重力下の動きではない。
ブースターの他にも何か別の力が働いているのは、修理した僕から見たら一目瞭然だった。
その軽やかな動きに僕は感心したが、同時に思った。
うん。あれは僕じゃ串刺しだわ。
このコロニーもいつの間にかおっそろしいところになったものだった。
「伏せといて!」
そう叫んだフーさんが両腕を突き出すのに合わせて、彼女の背中に羽根の模様が浮かび上がったのが見える。
すると強力なつむじ風が巻き起こり、木の怪物を根っこごと引っこ抜いて空高く放り投げた。
「おー……」
「上に気を付けてね」
ズズンと地面に落っこちて来た大木が転がって、うねうね動くがもう力はないらしい。
慣れた様子で大木に近づいたフーさんと鳥の精霊はカメラを取り出して僕に手渡した。
「よし! 引き抜くと安全! 写真撮るよー」
「魔法うまくなったね……」
「でしょう! 頑張ったんだ! よく使うから、シール落ちない仕様に出来ないかな?」
「それこそ油性ペンでもできそうなことだし、魔法で出来ないことはないんじゃない?」
「だよね! 後で聞いてみようかな?」
フーさんは魔法のシールが消えない方法を考え始めたが、僕はビチビチ動く生きのいい木が気になって仕方がなかった。
「それにしても、なんで倒してしまわないの?」
割と楽勝に見えたが、フーさんにはこの危険な植物を仕留める気配が感じられない。
するとフーさんはにっこり笑って言った。
「翻訳使うと意思疎通できるから。言い聞かせて迷路になる森を作ろうと思って!」
「メルヘンだ……」
「いやぁ……うん。せっかくだから。そ、そうだ、これも持って行って!」
フーさんはごまかすように、家から持ってきた瓶を僕に差し出す。
「はい! 異世界のハーブだって! シュウマツさんに確認したから食べて大丈夫なやつ!」
「おお! ありがとう! これで一層カップ麺がおいしくなる……」
「台無しじゃない!?」
「そんなことはない。チョイ足しは不滅の文化だとも。チャーシューも作ったんだけどいる?」
「カップ麺のこととなると一切譲らないなぁ……まぁいいけど。後でもらいに行くね」
それではカメラでパシャリと一枚。
データは僕の端末にも送っておこう。
しかし何という適応力と発想力。
フーさんもシュウマツさんもこだわりがすごいけれど、森に近づいたらうっかり死にそうだなって僕は思った。