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ささやかな楽しみ

「よいしょっと……」


 自作の木製のテーブルに、木製の椅子。


 マップで見つけた森の湖畔に、僕はそれらを持ち込んでフゥと息を吐く。


 僕のすぐそばにはタツノオトシゴがふわふわと浮いていて、僕の用意した携帯ケトルに水を注いでくれた。


「ありがとうね。これはお礼だよ」


 コポコポコポ。


 お礼の精霊クッキーを差し出すと、タツノオトシゴは嬉しそうにシャボン玉を吐き出していた。


 僕は微笑み、ケトルのスイッチを入れるとお湯の沸く音に静かに耳を傾けた。


 実に癒される一時だと思う。


 精霊と戯れると言うのもとても得難い経験だと思うのだが、得難すぎてちょっと意味が分からない人が大半だろうと思うのがより不思議だった。


 しかし精霊はとても不思議な生き物だと思う。


 僕はこのタツノオトシゴくんと一緒にいることが多いのだが、シュウマツさんと違って今一何を考えているのかよくわからない。


「……それはタツノオトシゴだからかな?」


 コポコポコポ。


 僕の言葉に反応して、泡がポコポコ出ているからたぶんこれは返事だと思うのだけれど、なんとなくでも理解するのはもう少し時間が必要そうだ。


 まぁだが、精霊の秘密はゆっくりと紐解いていけばいい。


 そんなことよりも、人の手も他の動物の手すらほとんど入ってない湖は美しく、湖面がキラキラと輝いている。


 僕はそんな風景をただ純粋に楽しんで、湧いたお湯を注ぎ、しばし待った。


 この一時にどれだけ癒されることか。


 目を閉じた僕は、ゆっくり流れる時の流れを存分に楽しんでからそれを手に取り呟いた。


「いただきます」


 ズゾ! ズゾゾゾゾゾ!


「台無しじゃない!?」


「おお、ビックリした、そんなことないとも。豊かな自然の中で食べるカップ麺は最高だよ」


 アツアツを一気に啜りあげる麺は本当に最高である。


 高級な肉もいい。


 新鮮な野菜もいいだろう。


 お茶だって素晴らしいのはわかるが、自然の中で食べるカップ麺もまた格別なのだ。


「まぁ……人生にはカップ麺でしか埋められないものがあるから」


「カノー……なに言ってるの?」


 こっちの話です。


 僕は麺をきっちりすすり上げてから飲み干すと、声をかけて来た青い髪の少女、フーさんに首をかしげて見せた。


「よく僕がここにいるってわかったね。ラーメン食べに来ただけなのに」


「ここから私の家近いから、人間が近くにいたらすぐにわかるよ。ピリッとするし」


「あれ? 家はこの辺りだっけ?」


 最初の家は僕も手伝ったはずなのだが、どうやらフーさんが建てた家はそれだけではないようだった。


「小さい奴をいくつも建てたんだ。ここはお気に入りなんだよ」


「いくつも建てたんだ。……そうだね。一か所に絞る必要ないか。シュウマツさんも喜びそう」


 コロニーの人間どころか、地球でだってきっと豪華な選択肢だと思う。


 しかし現状3人しか住人がいない上、小屋くらいなら一瞬で建てられるシュウマツさんがいれば十分にありだった。


「うん。それに森の植物の写真を集めてもっと詳しく調べておこうかと思って。なにせ私は“生き物係”だからね!」


「ああ、なるほど。まだまだ見たこともない植物多いもんね」


 家の近所にある分くらいしか僕は知らないが、今となっては加速度的に異世界植物は増えて僕の理解なんてとっくの昔に及ばない状態だろう。


その辺り把握してデータにまとめることをフーさんは生き物係の仕事としたようだった。


「色々捗っていい感じだよ。カノーも沢山家建ててみたら? 気分で変えても楽しいかも?」


「ああ、コロニーの中もにぎやかになって来たしね」


「そうそう!」


 でも沢山の家を持つのは僕にとっては都合が悪そうだった。


「いや、やっぱりやめておくよ。僕の場合は環境が整ってないと色々滞るから、一か所にいて設備を充実させる方がいいかなぁ」


 宇宙に出るのも徒歩でいける距離だし、今の場所に不満はない。


 それに一カ所にとどまっている人間がいた方が、集まるには便利だろうと思う。


「それはそうか。畑も綺麗に出来てるしね。でも建てるなら今だよ? 建築ラッシュだよ?」


「どういうこと?」


「白熊さんも今家建ててるんでしょう? 一個だけとも限らないし、一番いい場所とられちゃう!」


 僕はフーさんの言葉に目を丸くする。


 確かに今頃白熊さんも理想の家を建てるためにマップ片手にコロニーを走りまわっているはずだった。


「あっはっはっは。それは確かに建築ラッシュだ。そうだ、せっかく近くにあるなら、どんな家を作ったのか見せてもらっていいかな?」


 二人がどんなところにどんな家を作るのか楽しみである。


 そして僕が思いつきでそう提案すると。フーさんの目はキラリと輝いた。


「もちろんいいよ? ついてきて!」


 とても楽しそうに僕の腕を引っ張るフーさんだがその前に―――。


「ちょっと待ってね。今片付けるから」


「あ、ゴミは捨てないでね? 森が汚れるから」


「そんなことしないよ。……そう言えばこれ、カップ麺のカップは木に生るけど……素直にプラゴミなんだろうか?」


「それ言い出したら、そんな得体の知れないカップ麺、食べられないでしょ? 早く行こうよ!」


「それはそうだねー」


 うん、全てが謎だものね。


 もうカップ麺を食べないなんて考えられないけれど、僕以外があまり好んで食べなかったのも納得だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] ジャンクフードって、無性に食べたくなる時がありますよね。 ラーメンだけでなくハンバーガー&コーラとか...
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