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ボクもそろそろ家が欲しい

 ズゾ……ズゾゾゾゾゾ。


 食料の安定供給は素晴らしい。


 僕の大好物、カノー印のインスタント麺は僕の熱い要望と、シュウマツさんのあきれ交じりの善意によって食料候補として成果を上げた。


 具材アレンジまでしてくれたシュウマツさんにはいくら感謝の言葉を重ねても足りないところである。


 その結果、僕の家の一角にはカップ麺畑という、実に頭の悪くなりそうな区画が出来上がったわけだが僕は後悔していなかった。


 今日も今日とて、安定しておいしいそれを音を盛大に立てて啜る僕をじっと見ているのは、何か用事があるらしい白熊さんだった。


「……カップ麺好きだね」


「そうなんだよ。こればかりは止められない」


「せっかくお肉も狩ってきているんだから、わざわざインスタントを食べなくてもとは思うけど」


「ああ! それならこれを見てくれないか?」


「なに?」


 つきあってくれた白熊さんに、僕はスープの下に沈めておいた、チョイ足ししたとっておきを披露した。


「どう? 自家製厚切りチャーシュー。たくさん作ったからいるならあげるよ?」


「……そうだね。後でもらっていこうかな? しかし……本当に好き勝手してるなぁ」


「好き勝手と言えばそうかもしれないけれど、シュウマツさんの魔法で出来る事ならできるよ。それが例えカップ麺の木なんて非常識なものでもね。いやホントビックリだよ」


 その辺りの常識は早めに捨て去った方がいいと僕はカップ麺を堪能しながら実感を噛みしめるのである。


「うん。それでどうしたの?」


 一瞬呆れていた気がしたけれど、総合的には感心していると思う白熊さんは僕がチャーシュー麺を食べきったのを見計らって、ここに来た理由をそれとなく伝えて来た。


「うん。そろそろボクも家が欲しい……そう思うのは自然なことではないだろうか?」


「え? いいんじゃない?」


 そんな風に行ってきた白熊さんに僕はあっさり頷いた。


「あっさり。遠慮していたのがバカみたいじゃないか」


「遠慮の必要なんてないでしょ。土地は沢山余ってるんだし、好みの場所があるなら言ってくれれば……あっ。コンテナもまだあるけど?」


「それはいらない。シュウマツさんに頼めばどんな家でもいいわけだし、どうせなら作ってもらいたいよ」


「そう? DIYも楽しいよ? せっかくアウター使い放題なんだし」


 モノ作りが好きな僕としては全部人任せはもったいないと思うのだが、白熊さんはそうでもないらしかった。


「出来る限り早く住みたいから……早いならそっちの方がいいよ」


「そうかなぁ」


「そうだね。協力を頼めるなら、是非お願いしたいんだ」


「ふーむ。家か……」


 シュウマツさんに即頼みに行ってもいいだろうに、家を建てる場所について相談したいというのがわざわざ許可を貰いに来た本題であると思う。


 家を建てるのに適当場所なら僕でもいくつか思いつくことはできるが、候補を上げて絞り込みたいのなら、もうすでに僕より優秀なデータバンクが出来上がっているはずだった。


「なら……そうだ。さっそく相談に乗ってもらおうかな? このコロニーの『連絡係』に」


「連絡係?」


 いい機会なのでお試しに、新戦力の力を見せてもらうのはどうだろう?


 思いついた僕はさっそく行動を開始した。




「此度『連絡係』を拝命しましたオペ子です。情報管理はこのワタクシにドンとおまかせください。ではこちらのペンタブにイラストを描いておいてくださいね」


「「……」」


 白熊さんと僕がやって来たのは、オペ子さんの部屋である。


 だが来て早々コタツに案内されて、「人生スリープモード」Tシャツで出迎えられると力が抜けてくる。


「う、うん。わかったよ」


 ペンタブを受け取り、白熊さんがイラストを描き始める。


 だから代わりに僕がその後の話を引き継いだ。


「どう? オペ子さんデータ収集は順調かい?」


「滞りなく、カノー様。本日は住居を建てる場所が必要なのですよね?」


「そう。いい場所を探そうと思うけど、ホラ、このコロニー毎日せわしないから」


 僕は目まぐるしく、日々姿を変えるコロニー内部を思い浮かべて、苦笑いを堪えきれなかった。


 このスペースコロニーの内部は精霊という生き物が生まれてから、またすごい勢いで変化していた。


 特に植物の動きが活発で、ふと見ると森の形が変わっているなんていうのはしょっちゅうである。


 わかっていると頷くオペ子さんは、コタツの天板に手を添えるとなんと天板からは精密な立体の地図が浮かび上がった。


「現在ドローンによって、空からリアルタイムマップを製作中です」


「うわ! 何このコタツ! 立体映像?」


 僕を驚かせることに成功して、オペ子さんはどこか得意げだった。


「そうですよ。ああ、ちなみにこたつではなくこたつ型の冷却装置ですので、生身の方にはお勧めしません」


「ああこれ冷房なんだ。道理で温かくないと思った。これもシュウマツさんが作ったんだよね?」


「その通りです。彼とは和解……とはいきませんが協力関係を構築しました。正直に言えば、魔法という技術は素晴らしい。シュウマツさんから提供された魔法は、ワタクシのスペックを大きく引き上げました」


「あ、オペ子さんも魔法貰ったんだね。なにを貰ったの?」


 シュウマツさんは何気に、住人に魔法を配るのを楽しみにしている気がする。


 実は僕も地味に楽しみにしていた。


 僕が尋ねると聞いて欲しかったのか、オペ子さんは頷くと彼女の目がぼんやり輝き―――数秒後。


 ピコンとなぜか頭の上に上むきの矢印が浮かび上がった。


「……!」


 それは不意打ちである。


 危うく吹きそうになったが、オペ子さんの語る効果はやばかった。


「はい。加速の魔法です」


「それはまた……なんとも相性がよさそうな魔法だなぁ」


「相性は抜群ですね。すべての処理が2倍速で行えますので」


「うわ。そう言う感じか」


 なんというか1ターンに2回行動とか平気でしてきそうだなって僕は思った。


「肯定します。コロニーに戻ったとしてもワタクシのスペックを圧倒することはもはやどんな同族にも不可能でしょう。ワタクシが最強のAIであること間違いなしです」


「ちょ、調子に乗ってる……」


「乗っていません。純然たる事実です。ですので安心してお任せください。場所が決まり次第、建物の設計から設備の準備まで完璧にこなして見せましょう」


 いやこれは……間違いなく調子に乗っている。


 僕はあまりのわかりやすさに戦慄しながら、ついでにとうとうツッコんでしまった。


「人生スリープモードなのにホントに大丈夫?」


 するとオペ子さんは心底嬉しそうにニヤリと笑うと、マップデータを差し出し言った。


「ユーモアですので、お気になさらず」


「ユーモアなんだそれ……」


 そんな嬉しそうな顔でまぁ、AIのジョークは難しいなと僕が笑っていると、白熊さんがイラストを描き終えたようだった。


「……出来たよ」


「では、イラストをお預かりしますね」


「うん。よろしく頼むよ」


 そう言って自信満々に差し出されたそれを、オペ子さんは見る。


 しかしそのまま固まってしまって、動かなくなった。


「どうしたのオペ子さん?」


「……いえ、少々お時間をいただくことになりそうです」


「加速の魔法があるのに?」


「はい。カノー様……ワタクシはまだまだだったようです」


「え? どうしたの?」


 白熊さんは首をかしげていたが、僕はなんとなく察して、何を言うでもなくデザインの件はオペ子さんにお任せすることにした。


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