謎のアウター
地球から来たというアウターを実際に見た僕は、正直正気かと疑問を投げかけたくなった。
異常なのは人間の限界を超えた推進力。
普通の人間ならまず乗れば死にそうな機体だが、パイロットは完全に適応しているらしい。
「離れて……」
突進の衝撃を逸らしていたフーさんは、すぐに体勢を立て直して僕に指示を出す。
そして距離を取り、応戦するフーさんは宇宙生物を2体飛ばした。
「行って!」
複雑な軌道で飛んで行く宇宙生物は弾丸並みのスピードで地球のアウターに負けずとも劣らない。
僕には光の軌道しか目で追えない超スピードは、そう言う生物ゆえの芸当である。
しかし暴れる謎のアウターはそれを明らかに目で捉え、アウターの拳で殴った。
余りにも見事に魔法生物は芯を打ちぬかれて、粉々に砕け、もう一体はなんと掴み取ってみせた。
その異常な反応速度に僕は逃げながらも感嘆してしまった。
「な、なんだあれ?」
「だから地球の機体だよ! 私達の使ってるアウターと根本的に違うんだから!」
焦るフーさんの声からは緊張が感じられる。
それだけあの地球の機体を警戒していて、通信から聞こえてくる言葉には強い不安があった。
「……自信ないな。一対一で戦う地球人は……化け物だよ」
「地球人か……」
僕は宇宙生物を掴み取りバキンと砕く謎の機体を見て、ゴクリと喉を鳴らした。
話には聞いていたがこれほどとはと、驚きを隠せない。
それだけ謎のアウターは、今まで見たどの機体よりも雑に規格外だった。
このままスペックに任せて蹂躙されれば、救助どころか数秒後には僕もデブリの仲間入りである。
「これはまずいかな、とりあえず暴れるのをやめてもらわないと……」
しかしなぜかこちらを完全に敵認定しているらしい誰かは、止まるつもりはないらしい。
「!」
再びかっ飛んできたそれを、フーさんは再び避けることには成功したが、少しばかり怒ったみたいだった。
「好き勝手して! ちょっといい加減にしてほしいな。……カノー、この人無力化していいよね?」
「出来るならお願い! ちょっとどうしようもない!」
「わかったよ。私、ちょっと思いついた」
怖い声でそう言うとフーさんの髪が輝き、無数のキラキラがフーさんに集まって行く。
そして輝きを増した魔法生物達は2機のアウターを取り囲むように、球形に陣取った。
それはまるでバトルフィールドのようである。
謎の機体は戸惑っていたが、すぐに切り替えてフーさんに突っ込んだ。
やはり速い。
推進力という一点で見れば、確実にフーさんの“アーネラ”を圧倒しているだろう。
「遅いよ!」
だが触れればバラバラになりそうなタックルを、フーさんはビックリするほど綺麗にかわして見せた。
タイミングをあらかじめ知っていたかのような動きからは、さっきまでの危なげが一切ない。
だが相手もさすがで、急停止からの再タックル。
僕ならコックピットで潰れていそうな軌道で繰り出される攻撃にも、フーさんは反応した。
髪の毛を激しく光らせ、悉くの動きを先読みするようなその動きを僕は聞いたことがあった。
「あ、あれが月人の未来予知か……すごいな」
月人の戦闘はその空間に人間が多ければ多いほど強いという話がある。
なぜなら月人は、戦場にいる人間の脳から情報を読み取り、未来を予知するからだ。
情報元は多ければ多いほど未来予知は正確になって行く。
それを可能にするのが、それだけの情報を処理出来る発達した脳だと言う。
「しかもあれ、ひょっとして魔法生物達と情報を共有してるのか? だとしたら……死角もない?」
しかし自分と、僕。そして相手の脳を使ったところで十分とは言えないはず。
そこをフーさんは魔法生物達を等間隔に配置して彼らの見ている情報を共有することで、未来予知を無理やり成立させたのか。
高速で迫るアウターの体技を、ほとんど動かずに紙一重でかわしてみせる動きには一切の無駄がなく、未来予知が本物であれば後は時間の問題だった。
相手はつまるところ壊れかけで、あんな無茶な動きをすれば限界などすぐに訪れる。
何度目かになる突進の最中に小爆発を起こして、動きが鈍ればフーさんの格好の的だろう。
謎のアウターはそれでもフーさんを捕まえようとするが、距離を詰めた瞬間、見えない壁に衝突した。
「!!」
バサリと頭に止まった鳥が羽を広げていたから、風の精霊が何かしたのだろう。
不可視の力に弾かれたアウターの装甲が損傷で弾けて、致命的に動きが止まると、そこにすかさず魔法生物達が殺到する。
「捕まえて!」
そこからはもう文字通り手も足もでない。
あっという間に岩石の団子にされた謎のアウターは完全に動かなくなって、僕はフゥとひとまず安堵のため息を吐いた。