地球の人
「月のワープってどれくらい完成してたの?」
シュウマツさんの言う空間が揺らいでいるというポイントへの道すがら、他愛ない話題として好奇心から僕が尋ねると、フーさんは微妙な顔をしていた。
「無人でやって、動物実験して、人を乗せるところまではいったんだけど……失敗?」
自分がやって、宇宙漂流する羽目になったんだからひどい話だった。
「……なんかゴメン」
「いいよ。誰のせいってわけでもないしね」
いやまぁ、そこは実験した奴のせいだと思うけど、そう言えるフーさんは大物だった。
ただ一番大事な実験をしくじったなら、月は実用化まで遠のいたかもしれない。
気の毒な話だが僕らの実験船の事を考えると、ワープは不安定な技術であることは間違いないと思う。
しかしこうして再びシュウマツさんが何かを感じ取ったということは実験自体はどこかで続けられているようだった。
「コロニーはどうなの?」
そう尋ねられたが、コロニーでもそう芳しい効果は得られていないと言うのが僕の評価だった。
「あんまりだね。短い距離を移動するだけ」
「ああそれは月もそうだよ」
ただ短い距離を移動するなら、ワープでなくとも大出力のブースターで飛んで行った方がいい。
そこさえクリア出来ればすごく役に立ちそうなのだが、今のところまだどこも長距離ワープの目途はついていないということになる。
「ある意味フーさんは長距離ワープの成功者第一号なんだろうけどなぁ」
「狙ってやれなきゃ事故だよね。カノー達に助けられなかったら死んでたよ?」
「そうだよなぁ」
ワープに成功しても、死んでしまうなら意味がない。
コロニーでもあわよくば、小惑星群を効率時に超える方法を確立したかったようだが、実験結果を考えると、とても便利な新たな足とは胸を張って言えないだろう。
昔から散々言われてきた夢のような技術だけに、この不甲斐ない結果はなんとももどかしいものだった。
よそう。自分もやらかした一員だけに、へこんでくる。
シュウマツさんが指定した座標も近づいてきているし、僕は頭を振って気を取り直すと、目の前に集中した。
おそらくは何かガラクタでも流れ着いているだろうと思っていた僕だったが、座標に動くものを見つけて、普通に驚いてしまった。
「え? 動いてる?」
「あれ! アウターだよね! ……ウワッ! アレって地球のやつだよ!」
「え? 地球?」
もし本当に地球のモノだとしたらずいぶん遠いところからはるばるやってきてくれたものだった。
しかもワープを使ったとして、死にかけるどころか意識も保って健在とくれば大成功なのではないだろうか?
深い緑の外装に、大きな丸い頭部のアウターは、ずいぶんと僕の乗っている物よりも無骨である。
おそらくは軍用のアウターは、やはりテレポートの事故に巻き込まれたのか、武装はまともに残っておらず、機体にも相当のダメージが見て取れる。
機能こそ停止していなかったが、いつそうなってもおかしくはない。
僕は人類の大いなる一歩に感心しながらも、助けなければと要救護者に近づくと、正体不明のアウターは、こちらを振り向いて身構え―――。
「え?」
「危ない!」
瞬間、アウターは猛スピードで突っ込んで来た。
だが動きが速すぎて目でも負えない。
気が付いたら吹っ飛んでいたのはフーさんのアウターだった。
「え?」
「カノー! 離れてて!」
フーさんの叫び声が聞こえたが、僕は完全に状況に置いて行かれていた。