コロニーちょっと動く
警戒色というものがある。
鮮やかな黄色と黒などは人の注意をひきつけやすく、警戒を促すのに用いられる。
例えば工事現場のヘルメットや立ち入り禁止のフェンス。
そして―――僕のアウターもまた、真っ黒な宇宙空間によく映えるイエローの作業用アウターである。
僕はワイヤーで固定されたアウターの中でタブレットをいじりながら最後の調整を行っていた。
準備を整えて起動。
どうなったかと不安をごまかしながら様子を窺うと、問題なくコロニーは正常に稼働していて、僕は胸をなでおろした。
見学者は同じくアウターに乗るフーさんである。
まぁそれはいいのだが……頭の上に乗っている鳥もやはり宇宙空間でむき出しになっていて中々心臓に悪い見学だった。
「……その鳥君は大丈夫なの?」
「え? 大丈夫みたいだよ? 宇宙も広い意味じゃ空なんだって」
空だからなんだって言うのだろうか?
でも精霊っていうとそういうものなのかもしれない。
奥が深い生き物だなぁと思って鳥君を見ていると、鳥君はばさりと羽を広げてアピールした。
……君が大丈夫なら、僕に何も言うことはないよ。
それより僕は今、ニライカナイコロニーがスペースコロニーとして新しい一歩を踏み出したのだから、少しでも気を割くべきなのだ。
ただフーさんは一見すると何か変わっている様には見えないコロニーに疑問符を浮かべていた。
「これって今何してたの?」
「ああ、うん。コロニーの機能を少し使えるようにしただけ」
「え? じゃあ……今までは?」
「シュウマツさんが魔法で適当に動かしてた」
「怖い! それって怖いよ!」
動揺するフーさんが「機械仕掛けで動いていないコロニー」に不安を感じてしまうのは無理もない。
しかし僕としては、今となっては別の不安があった。
「いやまぁちゃんと動いてたから。……逆に機械制御が混じってちょっと不安もあるんだけどね」
「それは……そうだけど。そうじゃないっていうか!」
フーさんの言いたいことはわかるけれど、それでうまく回っていたんだから問題がないとも言える。
それを強引にこちらのやり方を導入したわけだから、必ずしも良くなるとは限らないのが悩みどころである。
一体どちらがいいのか? それはこれからの運用次第というところだった。
「でも、よくこんな大きなもの一人でどうにかできたね?」
「そこはシュウマツさんがすごいね。僕はどこが動いていてどこが動いていないのか調べて、シュウマツさんに中身を作り直してもらっただけだよ。それで一人でも管理出来るようにシステムを組みなおして……まぁ何とかね」
僕が肩をすくめてそう言うと、フーさんは目を丸くして震える声で言った。
「……ひょっとしてカノーって結構優秀な人だったりする?」
「どうだろう? 下っ端のデブリ拾いだったから、別段優秀ってわけじゃないと思うけれど」
「そうかなぁ」
しかし元になったコロニーのデータがそろっていたとはいえ初の試みばかりだった。
よくもまぁ動かすなんてことが出来たものだと僕は自分で自分をほめてあげたい。
ひとまず満足し、後片付けを始めているとシュウマツさんが僕に語り掛けて来た。
「お疲れ様。作業は終わったようだね。うん。ずいぶん楽になった」
「それはよかった。とりあえず核融合炉周りが稼働してるから電力の供給は大丈夫。自転もきちんと制御出来てるはずだよ。これからどんどん魔法から入れ替えていくつもりだけど、まだしばらくシュウマツさんに頼りきりだから申し訳ない」
「いやいや。無茶な取り組みなんだ。気長に行こう。それと、少し気になることがあるんだが……いいだろうか?」
「どうしたんだい?」
「うん。実はまた、少し空間が不安定でね。ひょっとするとフーさんが来た時のようなことが起こっているかもしれない。外にいるなら少し様子を見てきてもらっていいかな?」
「……それは大変だ」
シュウマツさんも、フーさんの一件から外を気にしてくれていたんだろう。
またどこかでテレポート実験でもして失敗したのかもしれない。
話を聞いていたフーさんも頷き、付いてきてくれるようだ。
何もなければいいのだがと、僕らはシュウマツさんが指定したポイントに急いだ。