この目で見ても驚きのアレ
僕は要望を聞き届けた。
リクエストを叶えるために、いい仕事をしたと言うこともできるだろう。
しかしほとんどの外装を取り外し、フレームと手足だけになったスカスカの“アーネラ”だった機体に、僕はとんでもなく不安な気持ちになった。
「……どう? アームは動かせる?」
「うん! すごいね、月の機体なのにこんなに簡単にいじれるなんて!」
フーさんはすねにワクワクしながらアネーラの指をにぎにぎと動かしたり、屈伸したりとスムーズに動かしていた。
アウターはおおよそ、搭乗者の動きをトレースするシステムなのだが、実にラグも少なく動きはなめらかでアーネラがいい機体であることは間違いない。
そしてそんな機体を僕はフレームだけにしてしまっているわけで、無性に心苦しかった。
「大本はだいたい同じだからね。でも……正直今やってる改造は不安しかない」
「うん! ドキドキする! じゃあ行ってくるね!」
「……」
僕は手を振ってフーさんを見送った。
彼女が向かうのは、隔壁の外―――宇宙空間だった。
人間に大きな腕と足をくっつけたような形状のアウターに、インナーにヘルメットなしのフーさんが乗っている。
まぁ普通なら死ぬ。
いくらシュウマツさんがパーツを加工したところで結果は変わらないはずである。
それを解決するのが、額とは別に新たに付けられた羽の模様だけだと言うのだから、とんでもない話なのだが、魔法を使えば宇宙で呼吸することが可能らしい。
シュウマツさんは、完成版のどこに満足したのかはわからないが、とても自信があるようだった。
「スーツもコロニーも、要は外との環境を遮断して、中身を調整すればいいのだろう? ならば魔法で体の周りに大気を維持すれば良い。ではお披露目と行こうじゃないか」
「練習とか必要ないの?」
「必要だね。高度な制御を目指すなら、毎日練習することをお勧めするよ。今回の制御は私がやるから問題は起こさないさ」
「いや、それでミスったら死んじゃわないかな? 安全性際どくない?」
「ふむ。まぁ難しい魔法でもないからミスはしないよ。こちらの人間でも魔法が使えるのは確認できたし。誰でも気軽に魔法が使えるのがあのシールのすごいところなんだ。きっと君が思っているよりずっと簡単にね」
「へぇ……」
そんなものなのか。僕もそのうち何か使ってみようかな?
しかしそんなことよりも今はその成果をこの目で見ることが優先されるだろう。
宇宙空間に繋がるゲートが開く。
顔丸出しのフーさんが笑顔でフワフワと出ていくのを、僕は落ち着かない心持で見送った。
「えーテステス。今回は新しいアネーラの宇宙航行テスト。そして君に施された魔法シールの試しだ。翻訳の魔法と、風の魔法ってことだけどどうだろう?」
「うわ……変な感じ!」
スピーカー越しに聞こえる彼女の声は、苦しそうな様子もなくむしろ楽しそうに声が弾んでいた。
「うん。問題なく使えているようだ」
「不思議だなぁ」
推進系も問題なし。各種センサー類もフーさんの無事を順調に知らせてきていた。
そして宇宙に出たとたん、無数の宝石の群れがどこからともなく飛んできて、彼女の周囲をぐるぐると旋回し始めた。
「魔法生物は彼らを使って。どう? ……操れる?」
そう僕が尋ねると、フーさんは数が増えても怯んだ様子もなく返事をした。
「うん! 言うことを聞いてくれるみたい!」
「言ったろう? 抜かりはないのだよ」
シュウマツさんは混ぜか当り前みたいな口調だが、僕のような普通のコロニー市民の心配なんて、いつも裸で宇宙空間にいる世界樹にはわかりはしないだろう。
「そうみたいだね。……じゃあ次のテストに移ろうか?」
ここまでは確かにスムーズに予定通りである。そして次に予定しているテストに、僕はかなり注目をしていた。
フーさんがコクリと頷き、見据えるのはあらかじめ伝えてあった今回の標的だった。
「了解。的はあの小惑星だよね」
「うん。目標を破壊して、程よい大きさにして運び込むように指示を出してもらえる?」
「……うん。大丈夫。いけそうだよ!」
今回はどれくらいの精度で、魔法生物を操れるのかもテストすることになっていた。
いざという時に、フーさんの指示でどんなふうに魔法生物が言うことを聞くのか、知っているだけでも心の平穏につながるだろう。
さてどうなるのかと僕は固唾を飲んで見守る。
「お願い!」
叫んだフーさんの号令に合わせて、キーンと甲高いノイズがスピーカーに走り、集まったすべての魔法生物が小惑星に飛び出した。
そして僕には魔法生物が小惑星に触れた瞬間、水面に飛び込むかのようにヌルリと壁面に飲み込まれたように見えた。
「え? なにをした?」
「同化したんだよ。まずは破壊だね」
シュウマツさんが呟いた瞬間、小惑星に亀裂が入った。
水晶のように透明で、鋭い結晶が次々亀裂から突き出てきて、小惑星が砕け散る。
そして砕けた小惑星の欠片はぶるぶる震えて、円錐型に形を変えると、飛び出した時と同じ俊敏さで、フーさんのところに戻って来た。
「……おー」
その間、数十秒。
フーさんの声が耳に届いて、僕ははっと固まっていたことに気が付いた。
「す、すごいね! この子たち!」
「確かにすごいなぁ。……本当に大丈夫かな? シュウマツさん?」
「なんで改めて聞くのかな? 大丈夫……いや、もちろん人に向けてはダメだよ? 石を食べるとはいえ、速いからね」
「知ってる? アウターや宇宙船って金属で出来てるんだよ? それにこっちの人間はあんなに簡単に宇宙空間で生き残れないからね?」
「決して事故が起きないように調整するとも……」
意気揚々と戻って来るフーさんはとても楽しそうだったけれど、アレの管理には十分気を付けてもらおうと僕は思った。




