驚くポイントは人それぞれ
シュウマツさんが持っている不思議な力は、僕にはとても説明できない。
それにシュウマツさんの魔法は人工的に生物まで作り出す、とんでもなさがそこにある。
人によっては激しく拒否反応が出てもおかしくないと僕はそんな状況を心配していた。
「すごい! 魔法! なにそれ!」
ただ、実際は目の前の少女は目を輝かせて、光るシュウマツさんを見ているんだから、僕は人類を甘く見ていたかもしれなかった。
「そうだろう? すごいのだよ魔法は」
「うん。すっかり仲良くなったようで何よりだ……」
和やかに会話をする少女と光る玉を見ていると自分の適応力の無さに絶望した。
「驚いたけど、妙に納得しちゃった。光るフワフワしたのは浮いてるし。光がパァッと体に当たったら、すぐに体の痛みも消えちゃうし! わけわかんないことは沢山あったから」
「それは僕もそう思う。なんかホント魔法って感じだよね。でもあんまり興奮しないようにね? 病み上がりには変わりないんだから」
「う、うん。そうだね」
なるほど確かに、実体験に勝る説明はないのかもしれない。実際僕が魔法を受け入れられたのもそうだった。
だが受け入れられたというのなら話が早い。
興奮して光っている女の子の髪が落ち着くのを待って、僕はひとまず肝心なことを聞いてみることにした。
「うん。じゃあ。少しお話いいかな? ええっと、君の名前から聞いても? 記憶の確認みたいなものだから、気軽にね」
「え? う、うん。でも名前は……F3かな?」
「……」
闇が深けぇ。僕はそう直感した。
ナンバリングにも聞こえる名前は、シュウマツさんの魔法に何も言えないほどの科学の闇がにじみ出していそうだった。
間違っていたらいいなと僕は思ったが、本人はごく普通の表情で自分の生い立ちを話し始めた。
「名前って言うより製造番号かな? 私は月人の強化体だから。新人類としての力を調整された強化ってやつで……軍部でやってる政策の一つだよ?」
深いどころか、底なしの暗黒の気配しか感じなかった。
科学ってヤベェッて感じである。
僕はどうにか笑顔を崩さないように堪えるのが精一杯だった。
「待って待って。うん。わかった。じゃあ君は兵隊さんなんだね? それがどうしてこんなところに?」
「それは……あの時、私はワープの実験に参加していて……気が付いたらここにいたんだ」
ワープ。その言葉を聞いて僕は驚く。
そりゃあ、僕らも実験段階には来ていたんだから、他でやっているところがあってもおかしくはない。
そして似たような実験をして巡り合ったのなら、まるで無関係とも思えなかった。
「こりゃあ、僕らのやってた実験にも関係ありそうだなぁ」
「そうかもしれないなぁ。まだ大きな空間の揺らぎが残っていて、引き寄せられたのかもしれない。今後も色々と流れ着くことがあるかもしれないな」
シュウマツさんの見立ては、たぶん間違っていない気がする。
僕の知っているワープはA地点とB地点を空間を歪ませて繋ぐものだったはずだ。
まだまだ不安定で危険な技術は、何が起こってもおかしくないのは僕の実体験通りである。
そして月が行った実験もまた失敗して、宇宙の果ての別の出口に出てしまったというのなら、F3は災難という他ない。
「なんというか……大変だったね」
「目が覚めたらここにいたんだから実感ないな。でもここはどこなの? 本当にコロニー?」
心底不思議そうに尋ねるF3に、僕はにっこりと優しく微笑んだ。
「そうだよ。ここは個人所有のコロニー。アステロイドベルトにほど近い宙域に浮かんでいる、ニライカナイコロニーさ。シュウマツさんの魔法で出来た特別な場所だよ」
だが改めて紹介を聞いたF3は困惑の表情を浮かべていた。
それはそうだ、だって言ってる僕だってすごいこと言ってるなと思うんだから。
「このニライカナイコロニーは……シュウマツさんが魔法で作った場所なんだ。ひょっとして、もう私、死んでたりする? 終末って世界の終りの事だよね?」
思いもよらないところで不安な表情を浮かべるF3だったが、命名した僕からするとそこは訂正しておかねばならない。
「いや? 週末は一週間のうち一番ハッピーな日だよ? 僕は一番好きな日なんだ」
「「シュウマツってそう言う意味なの!?」」
にこやかに言うと、F3どころかシュウマツさんにもツッコミを入れられてしまった。
「何でシュウマツさんまで驚くのさ?」
「いや、本気だとは思わなかったものだからね。……やっぱり侮れないな君は」
「そう? みんなに好かれるいい名前だよたぶん」
「それはどうだろうか?」
僕はそう思うのだけれど。きっと……たぶんそうだ。
仮のあだ名をずっと使っているので、せめて意味だけでもポジティブなのがいいと思う。