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お見舞いにはフルーツを

 女の子の治療の経過は順調だった。


 シュウマツさんの施した回復魔法という何かが、驚くべき効果を発揮したことに疑いなかったが、それを本人に言うのはちょっと考えてしまう。


 昨日の今日ですでに完治と言えるほどになった少女は完全に意識を取り戻して僕らの前に座っていた。


「……」


「医者いらずだなぁ。ビックリだよ」


「それはそうさ。実際私の世界では回復魔法が一般化してからは、ケガではそう死人が出なくなったらしいよ」


「素晴らしいことだけど、こっちでやったら大混乱になりそうな技術だなぁ」


「そうかな? 案外適応するものだと思うよ?」


 僕達がほのぼのと話していると、今までずっと黙り込んでいた少女が恐る恐る手を上げた。


「あの、私は……捕虜なんだよね?」


「?」


 ただ僕とシュウマツさんは黙り込んでいた少女が放った不安そうな一言に首を傾げた。


「いや違うよ?」


「……なんで?」


「そりゃそうだよ。ここは別に、どこかの軍に関係ある施設とかじゃないし」


「そんなわけないよ。どこにも所属しないコロニーって意味が分からないし」


 ああ、確かにそれはそうかもしれないと僕は納得した。


 コロニーの建設なんていうのは、国家事業である。


 つまりどこかしらの所属なのは当たり前の事で、おおよそ現在のスペースコロニーは“人類連合”という組織に所属していた。


 つまり月所属だと思われる彼女からすると大抵の場合、敵に該当する組織に当たる。


 しかしこのコロニーは例外だろう。


 何せ正真正銘、このコロニーはシュウマツさんが一人で用意し、誰の手を借りたわけでもないのだから。


 僕も彼女と同じく保護されているような状態なわけだから心情は複雑だけれど……そして説得力を持つ説明をするのはとても困難なのはわかっているけれど、僕は曖昧な表情で何とか説明を試みた。


「いや……これには事情があるんだよ。とにかく君は捕虜じゃない。そうじゃなかったらこんなおもてなしするわけないだろう?」


「だから聞いてるんだよ……!」


 くっと涎を拭う少女の前にはとれたばかりの果物が沢山置かれていた。


「いや、病み上がりだからフルーツとかいいかなって、ごめんね? もっと消化によさそうなものの方がよかったかな?」


「果物って貴重品じゃないの!? 私、初めてみたよ!」


「ああ、うん確かにそう言うとこあるよね宇宙住みは」


 彼女の言う通り、新鮮な果物は流通の関係上、宇宙では貴重品である。


 かく言う僕だって、缶詰はともかくそんなにフレッシュな果物にありついた経験はない。


 ただここでは、いくらか手に入りやすい缶詰の方が貴重品なのだから価値は逆転しているけれど、そんなこと彼女が知るわけもなかった。


「すごいでしょう? 今日収穫したとれたてだよ?」


 毒見代わりに、ひとまず僕が一口。


 前歯で果肉を一嚙みすれば、溢れるジュースが止まらない。


 朝どれの新鮮な奴だ、抜群の鮮度だった。


 これならば女子にも喜ばれるに違いない自信作である。


 誘惑に勝てずにシャクシャクメロンを頬張って、目を輝かせている少女を見て、僕はよいよいと頷いた。


「って! そうじゃなくって! ええっと……その、もちろん感謝してるんだけど、訳が分からないよ?」


「ああうん。わかるとも。僕の方もせめて休息をとってからじゃないと説明も難しいと思ってるだけだから。うん、君が今すぐにでも状況を聞きたいのならもちろん説明するとも。その前に―――まず彼を紹介しないと始まらないかな?」


「彼?」


 そうです。まずは大前提としてこの光る木を紹介しなければ始まらない。


 僕の紹介で待ってましたとばかりに僕の横にやって来た光の玉は、ことさら力強く輝いた。


「そう、彼はシュウマツさんだ。そしてこのコロニーはシュウマツさんが作った、世界初、個人所有のコロニーだよ?」


「ご紹介ありがとう。よろしく頼むよ」


「え? 何言ってるの? そんな変なマジックまでして。なにこれ? LED?」


 光る玉を見てそう言った少女を攻めるのも酷な話だった。


 そりゃあ、一見するとただの空飛ぶ電球である。


 一方LED呼ばわりされたシュウマツさんは声を荒げることもなく、穏やかに会話を続けていた。


「マジックではないよ? ごきげんよう小さなレディ。私はシュウマツさんと呼ばれている。植物の仲間だが意思疎通はできるから、気軽に何でも相談してくれたまえよ」


「……」


 ちょっと気取った口調のシュウマツさんは、かわいい女の子を前にして張り切っているようにも見えた。


 肝心の少女は、メロンを食べる手を止めてジッとシュウマツさんを見ている。


 半ば硬直しているようにも見えた彼女の第一声は、反応に困った末のものだった。


「えっと……なんかごめんなさい?」


「シュウマツさん、この謝罪はどういう謝罪だろう?」


「ああ、メロンは遠慮なく食べてくれたまえよ? 他の動植物に食べてもらうのは植物の生存戦略の一部だとも」


「なんだろう……ツッコミが追いつかない」


 気持ちはよくわかるがシュウマツさんの存在は本当に解説の大前提なので、あまり難しく考えないで聞き流すくらいの心持で聞いてほしいと僕はお勧めする。


 難しいとは思うけれどね。


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