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本日のゴハンはたぶんサラダ

「いや……錠剤だけじゃいつか限界が来るだろうし。食料をどうにかしないといけない……それはわかるよ?」


「そうだね」


「でも……アレはないんじゃない?」


「そうだろうか?」


 僕はジトっとした視線でそれを見た。


 牛のようにしっかりとした骨格に。猪のような厚い脂肪。更にはそれらの巨体を一時でも支えるかもしれない大きな翼……。


 更には牛豚鳥の3つの頭を持っている怪物は、オリジナルの動物よりもはるかに巨大な恐竜の様な体躯で、コロニーの森を我が物顔で歩いていた。


 アウターを装備してもなお見上げることが必要な怪物を前にして、僕はゴクリと喉を鳴らした。


「君がこちらの人類は、鳥と豚と牛の肉をよく食べると言うから、作ってみたのだが?」


「食べるけれども……全部混ぜる必要はあっただろうか?」


「必要は―――特にないな。肉キメラと名付けてみた。これも魔法の産物だとも。部位ごとに味は違うし、味わい豊かだと思う」


「ストレートなネーミング過ぎない? ……それと言いたいことがある」


「何だろう?」


「デカすぎではないだろうか?」


「可食部が多い方がいいのではという配慮だよ」


「それは確かに多いのは多いだろうけれども」


 物には限度があると思う。異常に発達した筋肉など肉にすると何キロになる事か。


 しかし利点があったとしても、どうにも致命的な心配は僕には払しょくできそうになかった。


「いや……勝てないよこれ。これ食べようなんて、死んじゃうんじゃないかな?」


 食事を用意しようとして自分がおいしくいただかれるなんて、笑い話にもならない。


 だがシュウマツさんはしばし沈黙した後、不思議そうに言った。


「……本来食事とは、そういうものだよ? 命を懸けて戦い、勝った方がすべてを得る。実によく出来た節理だとは思わないかね?」


「大抵の生き物は勝てそうなものを捕ると思うんだ僕は」


「いや、そのスーツは伊達ではないだろう? 負けることはないのではないだろうか?」


「どうかなぁ」


 確かにこのアウターは相応のパワーがある代物だった。


 大きな両手足と、丸っこいボディが特徴的な量産機だが、地上でだって鉄骨を軽々運べるパワーはある。


 だがあくまで建機に近い代物で、こうして地面のある場所では接地性もキャタピラに劣るだろう。


 建機としてのレビューの評価は『手足が大きいのでコロニーの壁面接地に便利!』だとか、『胴体が大きいから足場に最適!』なんてものが多かった気がした。


 生き物相手にパワー負けするとは思いたくないが……ここまで巨大だと絶対に大丈夫だと言う自信がなかった。


「そりゃあ、負けないかもしれないけど……戦うっていうのがそもそも変じゃないかな?」


「そんなことはない。弱肉強食は世の理。それはどこの宇宙でも同じだとも」


「そうかなぁ」


 なんだか丸め込まれている気がする。


 困った僕はとりあえずあの怪物の事は置いておくことにした。


「まぁ、この牛豚鳥をどうするかは……おいおい考えるとして」


 しかしシュウマツさんは思ったよりも食下がって来た。


「おいおい考えないでほしいのだが? 最高傑作なのだが?」


「これが最高傑作でいいの? もっとすごいの作ってるのに?」


「当然だ。何せ味にもこだわったんだから、ぜひ味わってもらいたい」


「……味にこだわったんだ」


「無論。食料候補として作ったんだから当然だろう?」


「……味わかるの?」


「君は果実を食べたことがないのかな? 植物ほど味にこだわる種はいないよ」


 甘いのってそう言うことだったの?


 なんともシュウマツさんは不思議なことを言う植物だった。


 しかしおいしいと言うのなら味が気になる。


 僕は眉間に皺を寄せたが、食欲が不満を上回った。


「……そうか。なら頑張ってみようかな」


 僕は覚悟を決めて、食の欲求に忠実に行動することにした。


 アウターのパワーを最大まで上げて、戦闘モードに移行。


 目の前の生き物に照準を合わせると、データは当然なし。


 完全なる未知の生命体を前に、僕は前のめりに突撃した。


「ぶもおーーー!」


「ぬおおお!」


 飛び出すと、思ったよりも好戦的に突っ込んで来た牛豚鳥にビビった。


 だが腐ってもスペーススーツは野生動物の一匹や、二匹軽く無力化出来るスペックは――――あああああ


「ああああああ!」


 ドッカンと思った以上の衝撃を喰らって、僕は吹っ飛んだ。


 一回転してそのまま地面にめり込んだ僕を見て、シュウマツさんは心配そうに声をかけて来た。


「だ、大丈夫だろうか?」


「……思ったより強烈なんだけど?」


「おかしいな。そのスーツのパワーなら楽に勝てるはずだ。なんであんなにあっさり転がるような体勢を?」


「……戦闘は苦手なんだ」


「……今からでも、動く肉ブロックとかに変更するかね?」


「いや! 頑張るとも!」


 コロニー生まれの僕は、天然の肉など食べたこともなかったが、とてもおいしいと聞いている。


 食べられるというのならぜひ食したい。


 植物も味にこだわりがあるらしいが、人間だって負けず劣らず食事には本気を出す生き物だった。


「ぬおおお! 今夜はステーキだ!」


「頑張れ!」


 シュウマツさんの応援に後押しされて僕は行く。


 結果は―――残念ながら、夜空の星になりかけた。


「……強い。パワーがスーツ並ってどういうこと? 絶対あんなの大丈夫じゃないよ? ダメじゃないの? あんなモンスター生み出しちゃ?」


「そりゃあ、あんまりやりすぎはまずいかな。なにせ元居た世界の人間は、こういうことやりすぎて滅んじゃったところもあるのだし」


「え? そうなの? なんて物騒なことしてるんだいシュウマツさん。今だって危うく死にかけたし」


「なんか申し訳ない。……しかし、多少の無茶でもしないと生き物はどうにも。何にもないとこじゃ、君達は生きていけないんだろう?」


「それはそうだけれど……」


 生き物は何かを食べて生きている、こんな命とは無縁の宇宙では、無茶をしなければ生きられまい。


 そしてひとたび生態系が生まれれば、否が応でも生存競争は発生してしてしまうようだった。


 ああ無常だ。なんだかどっと疲れた。


 ステーキへの道はまだまだ遠そうだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] そろそろ一度ちゃんと互いの情報と常識のすり合わせをしないと大問題が起きそう。 大人なんだしそこはキッチリしないの違和感ある。
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