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その花の名は 〜あなたの香りに包まれて〜  作者: 宝月 蓮
オルタンスの人生に悔いはなし
10/19

白いストック

 キトリー、ランベール、マルセルは次期当主としてなど将来に向けての勉強が忙しくなっていた。故にオルタンスは彼らとの交流の機会も少なくなっていた。

(……少し寂しいけれど仕方ないわ。キトリーお姉様は研究所で医学を学べるようにするよう制度を考えている最中だし、ランベール様はメルクール家次期当主として、そして宰相も目指していらっしゃる。マルセル様もお姉様と婚約してヌムール家の当主となるからその勉強の最中。王太女殿下もいずれは女王陛下に即位なさる。皆様お忙しいのよ。(わたくし)も、出来ることをしなければならないわね)

 オルタンスは寂しく思うが前向きだった。

 そしてオルタンスが十三歳になる年のこと。現国王であるルイと、王妃であるカトリーヌが海難事故で亡くなった。それにより、ルナが女王として即位することになった。キトリー、ランベール、マルセル達も、いずれ国を担う立場になるので忙しさを増していた。そしてオルタンスも、時々体調を崩してしまうが二年後の成人(デビュタント)に向けて準備で忙しくなった。

 そして迎えた成人(デビュタント)の年。オルタンスは久々にランベールとルナの姿を見る。会場に入ったオルタンスは宰相の補佐をするランベールを見つけた。

(……ランベール様だわ。しばらくお会いしないうちに、とても素敵になられて……。宰相と一緒にいるということは、ランベール様が次期宰相ということかしら)

 オルタンスはランベールに見惚れてしまっていた。

「オルタンス嬢? どうかなさいました?」

 オルタンスは不意にエスコートしてくれている令息から声をかけられた。

「あ……いいえ、何でもありませんわ」

 オルタンスは微笑んで取り繕った。

「ルナ・マリレーヌ・ルイーズ・カトリーヌ女王陛下のご入場です!」

 宰相の声が響き渡った。

 女王ルナの入場が宣言されると、オルタンスも含め皆礼を取る。

「会場の皆様、どうぞお(たいら)になってください」

 華やかで澄んでいて、威厳のあるソプラノの声。紛うことなきルナの声だ。

 オルタンスはゆっくりと頭を上げる。

(王太女殿下、いえ、女王陛下……。昔お会いした時よりも風格が出ていらして……少し近寄りがたくなっているわ……。だけど……)

 オルタンスはルナのアメジストの目を見た。

(あの目……(わたくし)に微笑みかけてくださったあの優しい目は変わっておりませんわ)

 オルタンスは少しホッとしていた。

 一曲目のダンスも終わり、成人(デビュタント)の儀は滞りなく進んでいく。

 オルタンスはエスコートしてくれている令息以外の男性ともダンスをした。しかし、ダンスの最中オルタンスはランベールのことばかり考えてしまっていた。

 そしてランベールは熱を帯びた切なげな目をしている。視線の先にはやはりルナがいた。

(ランベール様……やはりまだ女王陛下のことを想っていらっしゃるのね)

 オルタンスはランベールから目が離せなかった。

 会場に飾られていた白いストックの花弁が、一枚ひらりと落ちた。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






 オルタンスが成人(デビュタント)の儀を終えて一ヶ月が経過した。

 この日、ルナが結婚する。

 ナルフェック王国とユブルームグレックス大公国の同盟の為の結婚だ。パレードも盛大に行われる。

 オルタンスは久々にキトリー、ランベール、マルセルと共にいた。

「オルタンス、体調はどうだい?」

「今日は調子が良いので大丈夫です。ありがとうございます、お姉様。それに最近は幼い頃よりも体調を崩す頻度が減りましたのよ」

 オルタンスはふふっと微笑んだ。

「それは良かった。でも無理はするんじゃないよ」

 キトリーは優しげな笑みをオルタンスに向ける。

 しばらくすると、ルナとシャルルを乗せた馬車がやって来た。パレード見物客の歓声は大きく、皆盛大にルナとシャルルの結婚を祝っていた。

「それにしても、ルナがこんなに早く結婚するとはね」

 キトリーは少し意外そうに呟いた。

「キトリー嬢、女王陛下は幼い頃からシャルル大公子殿下……王配殿下と婚約していた。驚くことではないよ」

 マルセルは穏やかに微笑んでいる。

 オルタンスはふとランベールを見た。ランベールの表情は、どこか切なげだった。彼の視線の先にはやはりルナがいる。

(ランベール様……お慕いしている女王陛下がご結婚なさってしまうのだから……きっとお辛いはず……)

 オルタンスは伏し目がちになる。

 その時、ランベールのコートの袖に赤い花弁が付いていることに気付く。

「あの、ランベール様」

「オルタンス嬢、どうかしたのか?」

 こちらを見るランベール。ほんのりスモーキーで男性的な薔薇の香りが、オルタンスの鼻を掠めた。

「いえ、大したことではないのですが、ランベール様のお召し物に花弁が付いております」

 オルタンスはランベールのコートの裾を示した。赤い花弁に気が付いたランベールはそっとそれを取る。

「ありがとう、オルタンス嬢。……何の花だろうな?」

「恐らく……アネモネだと思います。お姉様が持っている植物図鑑に載っていた気がします」

 オルタンスは幼い頃にキトリーから見せててもらった植物図鑑を思い出した。

「アネモネ……というのか」

 ランベールは手の平の花弁を眺めてフッと笑った。

「ありがとう、オルタンス嬢。君のお陰で一つ知識が増えたよ」

「そんな、とんでもないことでございます」

 ランベールの笑みに、オルタンスは頬を赤く染めた。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






 その後しばらくすると、ルナが視察先事故に遭い昏睡状態だという情報がオルタンスの所にも流れて来た。武器庫の天井が崩れ落ち、ルナが下敷きになったらしい。

(女王陛下が……昏睡状態……!? お命に別状は……!?)

 オルタンスも周囲と同じように、情報を聞いた瞬間驚愕してヘーゼルの目を見開いた。そして冷静になると次はランベールの心配もした。

 生けようとしていた白いストックの花をギュッと握った。

(ランベール様は……大丈夫かしら? あのお方は女王陛下をお慕いしていらっしゃるから……。せめて(わたくし)が元気付けることが出来たらいいのだけれど……)

 オルタンスはランベールに手紙を書いてみることにした。


いつも読んでくださりありがとうございます!

「面白い!」「続きが読みたい!」と思った方は、是非ブックマークと高評価をよろしくお願いします!

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ストックが切れたので次回更新は少し先になりそうです。なるべくお待たせしないようにしますので、楽しみにしていただけたら幸いです。


白いストックの花言葉は「密やかな愛」です。

オルタンスはルナが敵対する貴族を言葉だけで破滅に追いやったことは全く知りません。

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