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返ってきたものは…

作者: クロ



私の住んでいた地域では、毎年文化の日になると、都立公園でお祭りが開かれていました。

私はそのお祭りで山車に乗りお囃子として参加をしていました。


ちょうどお祭りが終わる少し前のこと。

小学生の男の子、K君と遊んでいた時のことです。

K君は私の背中に飛びかかり、突然眼鏡をつかんで人ごみに紛れてしまったのです。

私は追いかけようとしましたが、視界が悪く、いずれ返してくれるだろうと思ったので、追いかけることはあきらめて、仲間と話しをしながら待つことにしました。

「男の子だからこういうこともやるよ」

「困った子だね、そのうち返してくれるよ」

などと話しているうちに演奏の順番が回ってきてしまいました。

結局、K君は戻らず演奏に混ざり、ようやく元いた場所に戻ってみると、K君はすでにいて、追いかけてきてくれなかったことに文句を言っていました。

やっと返してもらえると思った私は「取った眼鏡を返してほしい」と言うと、K君は思い出したようにニヤニヤし、

「隠してきたから頑張って探してきて!」

と言い放ちました。

探したくても公園自体広く、人がごった返しているため、目の悪い私には探しようもありません。

K君に取りに行くよう話すと、そのことに気付いたK君の母親も一緒に取りに行くよう説得してくれました。

K君は「仕方がない…」とでもいうかのようにしぶしぶ取りに人ごみの中へ。

眼鏡の安否を不安に思いながら、そわそわとK君の母親と待っていると。

「K君はきっとあなたに甘えているからこんなことをしたのよ。許してあげてね」

とK君の母親は申し訳なさそうに言いました。

しばらくするとK君はこそこそと戻ってきて、

「ちょっと来て!」

と少し離れたとこから声をかけてきました。

その時点で、すぐによくないことが起きたのが分かったので、

「K君がこっちまで来てよ!」

と返すと、その声で気がついたK君の母親が、

「早く来なさい」

と促し、K君はようやく観念して近くまで来ました。そして、

「俺のせいじゃない、怒らないで」

と言ったのです。

ようやく戻ってきた眼鏡は、何かで潰され見事にぺったんこ。

変わり果てた姿でした。

怒りたくても驚いて怒る気にもならず、それどころか母になんて説明しようと思いを巡らせていた私に、K君の母親が、

「弁償させてほしい」

と言ってくれました。

折りたたむこともできなくなった、ぺったんこの眼鏡は、そのままバッグに入れ持ち帰りました。


以来、私自身、お囃子の練習に行くことが減り、公園でのお祭りに行くこともなくなりました。

K君も同じようなもので、以来お祭りにも来なくなり、お互い会うことは一切なくなりました。


今になって、ひょっとしたらK君は私のことが好きだったのでは、と思うことがあります。


だとしたら、K君の心はあの日、眼鏡と一緒にぺったんこに潰れて戻らなくなったのではないか…。


潰れて戻らなくなった心はそのままどこかに隠されてしまったのではないか…。


それは小さなトラウマとなり、彼の心に巣食っているのだとしたら…。


私は知らないうちに一人の子供の心をぺったんこにして、のうのうと生きている罪な女です。



閲覧ありがとうございます。

この話は実際に筆者のクロの幼い頃の、眼鏡っ子なら伝わるはず(?)のお話でした。


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