三話 冒険者ギルド内
金属の鎧を纏った冒険者ギルドの入り口にいた武装した二人の冒険者に、ライゼは種族欄だけ偽装した冒険者カードを見せる。
通常の冒険者ギルドならばこんなガードマンなどいないのだが、今は平時ではなく戦時だ。前の街で聞いた情報では魔人は掃討したらしいが、しかし、それでも街は荒れている。
「……そいつは?」
だからか、人族で強そうにも見えない十三歳の若造がCランクである事。そして見たこともない大きなトカゲである俺がいる事。
それらは警備をしている冒険者に警戒心を抱かせるのには十分だった。二丁の斧を背負っている冒険者が恫喝する様に低く荒々しい声でライゼに問う。
「こっちは遺物で召喚した馬の代わりです。僕以外の指示を聞くことはありません。衛兵隊長さんから許可はとっています」
威嚇する様にチロチロと舌を出している俺の背中に乗っているライゼは、俺の頭を撫でながら開いている手で懐から小さな手形を取り出す。
この街ではある程度の許可書となるものだ。
「……確かに間違いはないようだな。よし、通っていいぞ」
「ありがとうございます」
ライゼは軽く頭を下げて、俺の横腹を少しだけ蹴る。
俺はそれに従って進む。対外的には馬みたいな扱いした方が多くの人が理解しやすいのだ。勝手に動くなどは説明するのが面倒だ。
そして俺はもう二人の冒険者によって開かれた扉をくぐり、冒険者ギルドの中に入った。
そこは荒れていた。
多くの冒険者が駆けまわっている。
特に街専属だと思われるバッチを着けた冒険者がドタドタと床を踏み鳴らすのも厭わずに駆けまわっていた。それに冒険者ギルドの職員も慌ただしそうに動き回っている。
ただ、そこには血の臭いが常に付きまとっていた。
そこは野戦病院と化していた。
生臭く、ドロドロな臭いがする。空気は重く、どんよりとしている。肉が焼けた臭いと腐った臭いがする。外とは比較にならないほどだ。
外は比較的軽症の人か、助からない人がいたのだ。そして冒険者ギルド内はそうでない人たちがいる。
だから冒険者と職員だけでなく、修道服を身に纏った神官たちが怒声を響かせている。けれど、怒声であろうとそこには優しさが奥底にあった。
動ける男や子供が抱えられる道具や包帯、薬品などを持ち運んでいる。緊迫した世界がそこにはあった。
『ヘルメス』
『待て、手続きと現状を聞いてからだ。じゃなきゃ、邪魔になるだけだ』
『……分かった』
どうやらライゼは我慢できなくなったらしい。
ここに来るまでも下唇をずっと噛んでいたしな。流石に、耐えられないのだろう。ライゼは人を笑顔にしたいと思ってここで生きている。
そりゃあ、自分が生きるという最優先事項だが、それでも人が目の前で死んでいくのは耐える事ができない。少なくともそれに抗うくらいの行動はしなければ気が済まない。
そういう性分なんだと思う。
俺やレーラーは少しだけ違うが。
ライゼは俺の背からスルリと降りると荒れるように書類仕事をしている受付所に駆け足で移動する。もちろん、冒険者ギルド内を動き回っている人たちの邪魔にはならないようにだ。
俺もライゼを追ってスルスルと人の波を抜けていく。
「忙しいところすみません!」
ライゼは忙しくして周りを見えていなさそうな受付員に聞こえるように鋭く明瞭に声を発する。
一人の受付員がライゼの方を鬱陶しく見た。それは当たり前だろう。死ぬほど忙しくて一刻を争っているのだから。
だから、ライゼは冒険者カードを見せながら簡潔にハキハキと素早く言う。
「僕はライゼ、Cランク冒険者で“万能凡人”です。飯、薬の調合、回復魔法、医術、その他諸々何でもできます。それとこっちのトカゲの荷物の中に魔法薬や保存食が数百程度あります」
そこで一旦切ってライゼはもう一度口を開く。
「Eランク程度の報酬で受けます。こっちのトカゲも働けます」
無償ではできない。
偽善、もしくは善意で善行を為そうにも無償では何もできないのがこの世の仕組みだ。いや、できる事にはできるが続けられないのだ。
元手がなくては誰かに施すことはできないし、営利でなくとも対価を受け取らなければ、それに着け込み善行を汚す存在が現れる。
そんな存在が現れないためにも、そして現れたとしてもそれを消す為には有償でなくてはならないのだ。
「分かったッ! 回復魔法はどれくらい使えるッ!?」
「医術と併用で百数人ほど。瀕死者が多ければ数は減ります」
ライゼは俺の横腹に付けていた魔法袋などの荷物から食料を取り出していく。
また、ライゼが直接使う必要がない治癒薬も取り出していく。
ライゼの回答とそれを見ていた受付員は身体を捻り、後の受付職員しか入れないエリアに顔を向ける。
「ナライッ!」
「はいっ!」
そして何処までも響き明瞭な大声を響かせる。
また、それに呼応する様に若い男性の声が聞こえた。
「こちらはライゼ、医療班に、特定医療上務冒険者として回せ。命令系統の二番に彼を組み込むように伝達しろ。俺からの命令だと言えッ!」
「畏まりましたッ!」
そしてナライと呼ばれた巨躯な若い青年がライゼに一礼する。
ライゼは軽く頭を下げた後、受付員に顔を向ける。
「こっちは血の付く保存食、こっちは疲労回復などの滋養強壮がある保存食です。他はスープにしやすく、水で飲み込みやすい保存食です。代金は後でいいので回してください」
「助力、感謝する」
そしてライゼはナライの案内で駆け足で移動した。
俺も移動する。
いつも読んで下さりありがとうございます。
面白い、また読みたいなど少しでも続きが気になりましたら、ブックマークやポイント評価をよろしくお願いします。
また、感想や意見があると励みになります。




