プロローグ Expand――a
煌き瞬く銀の洞窟で、俺は納得する。
……いや、まだ納得できないことが沢山ある。ライゼもそうだったらしい。
「レーラー師匠、『女神の御心』がここで結晶化している理由は分かったよ。けど、あの苦しみは何なの? 『女神の御心』と関係があるの?」
そうなのだ。
闘気と魔力の結晶石とはいえ、俺とライゼを襲ったあの現象が理解できない。レーラーは黙っていたし、ライゼは俺よりも酷い苦しみに襲われていたらしい。
なんで、そんな差があって、あんな苦しみがあったんだ。
「……ライゼ、私は魔法を使うなって言ったよね」
「うん」
「理由は話してなかったよね」
「うん」
魔法が関係あるのか?
「……レーラー師匠、それが関係あるの? けど、じゃあなんでヘルメスは」
「順番に話すから落ち着いて」
「……分かった」
グイッと詰め寄ったライゼをレーラーが落ち着かせる。
まぁ、魔法関連だし、ライゼが気になるのも分かる。
「まず、魔法の使用を禁止した理由は三つある。一つ目は建前として話した魔法を使わずに魔法みたいな事を起こす努力をしてもらうため。けど、これ自体はもともと私に会う前のライゼでもできてた」
「うん」
俺がなんちゃって科学を教えてたしな。
「本当の理由は残り二つ。一つは魔法となった魔力を無意識的にでもいいから感じてもらうため。己が魔法を使う時の魔力は必ず己の想像を受けてしまう。それに常に引っ張られてしまう。けど、同じ魔法でも個々によって想像が若干変わるから、魔力に含まれる概念的な波長みたいなものが異なる」
「……つまり、僕が〝誰か魔法を操る魔法〟を使うための訓練ってこと?」
他人の魔法を操るときに他人の魔力の想像と質と波長などをハッキリと把握していなければならない。
だから、自分の魔力の想像に引っ張られないように、自分が魔法を使わずに他人の魔法の魔力だけ感じ取れるようにしたのか。
「だけど、何で黙ってたの?」
「それは伝えると変に意識して感覚的に捉えられないから。理論は後からでも詰め込めるけど、感覚は初期体験が大事だからね」
「……確かに」
初めての体験は強烈だもんな。
初めて見た映画と二回目に見た映画の感動は違うものがある。まぁ、俺はどっちも好きだが、それでも何か違う。
「そして二つ目は、フリーエンが放つ闘気をキチンと感じ取れるようにするため。今後旅を続けていれば戦士に会うことがもっとある。その時、闘気を感じ取れるか取れないかが生死を分ける。フリーエンの闘気は老練で質がいい。そのために己の魔力に意識を引っ張られて欲しくなかった」
「……そういう事なんだ」
あれ、俺は闘気を感じ取れなくていいのか?
トレーネが闘気を使っているってことを俺は知らなかったんだが。
「……レーラー師匠、『女神の御心』って命の輝きの全てが詰まった魔力と闘気が結晶化したんだよね」
と、俺が首を傾げていたら、ライゼは答えに辿り着いていた。
そして、俺はライゼのレーラーへの問いで答えに辿り着いた。くそぅ、負けた。
「察しがいいね。そういう事。混じり合った闘気と魔力の強すぎる質と量を知らない力にとても敏感になっていたライゼが、表の洞窟に漏れていた微小な闘気を感じ取ったんだ」
レーラーはそこで一旦切る。
『女神の御心』を芸当の様に弄ぶ。
「私は闘気を知っていたからこそ、闘気の力には敏感ではなかったし、ヘルメスも感じ取れなかった。昔エルピスたちとここに来た時も、私以外の皆は闘気を持ってたし、表の洞窟に漏れる微小な闘気には気付かなかったんだと思う」
レーラーは弄んでいた『女神の御心』を宙に放り投げて、〝攻撃する魔法〟で砕く。魔力の量と質さえあれば、基本魔法でさえ上級クラスの力が出せる。いや、基本魔法だからといった方がいいか。
そして、『女神の御心』が砕けた瞬間、俺は強烈な魔力とそれ以外の『何か』を感じ取った。『何か』を感じ取っても苦しくなかった。
「感じたね。それが闘気。闘気を持たない者が闘気がどういうものなのか知覚する場合、己の魂の知覚領域を無理やり広げなけらばならない。その時に生じる苦しみがあれ。苦しかったでしょ」
「うん」
『ああ』
とても苦しかった。
「けど、その甲斐があったと思うよ。一度広げた知覚領域が狭まることはない。二人とも、これからは広がった知覚領域で、闘気以外の世界も感じる事ができると思うよ」
「……それは魔法に役に立つ?」
「役に立つ。大地がどういうものなのか感じ取れるか取れないかで、見える尺度が変わるからね。変われば魔法を行使するときの想像の幅も変わる」
あの苦しみに意味があったなら良いか。
まぁ、俺は闘気持ちが分かるくらいの意味だったけど。
そうして俺達はレーラーに『女神の御心』について詳しく聞いたり、情報交換をした。
幾分か時間が経ったら、この場所を出た。
そして、半日後、洞窟からも出た。
目の前には湿気を含んだ少しだけ寒い森が現れた。
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