七話 鍋
結局、色々あって、話が落ち着いたのは夕方だった。
岩人の少女はライゼの為に怒っていた事もあり、というか、叱っていたと言った方がいいだろう。
なので、レーラーもライゼも無下にはできず、色々と手間取った。
そして、夕方になってしまったので、仕方なく今日はこの場所で野営をする事になった。彼女も一緒だ。
そこら辺に生えていた木に一礼した後、ライゼは氷の大地で寒さに耐えながら必死に伸ばしていた枝を切っていく。
レーラーはそれを見ながら、俺が防護結界で守っていた魔法袋から、簡易用のテントなどを取り出し、また、魔物除けのための結界を張った。
そして岩人の少女は、ライゼが枝を取るために切った枝に触れて、二言呟き、枝を再生させていく。
また、それが終わった後は野営の設営をしているレーラーの手伝いをする。
ライゼはそれを尻目に、“空鞄”と俺が持ち運んでいた革袋と魔法袋に入っていた野菜や干し肉、調味料などを取り出し、料理をしていく。
だされた食材からすると今日は辛い鍋か。
ライゼの料理力はとても高い。俺が色々と教えたこともあり、地球の料理も多く作れる。
だが、それは街中での話である。
魔法袋や“空鞄”があろうと、持ち運べる食材には限りがある。魔法袋の容量はそこまで大きくないし、そもそも魔法袋自体には時間経過を遅らせる機能もない。
ライゼの“空鞄”だけが時間停止能力があるが、容量は少ない。
そのため、肉や野菜、山菜は殆ど乾燥させたものが多いし、パンなども堅く保存が効くものになっている。
だからこそ、山の幸や海の幸が採れない、もしくは獲れない時はそれらを使って料理をするしかない。
さすれば、一番作りやすく美味しいのは鍋だ。
幸い水は〝飲み水を出す魔法〟という、地球では考えられないほど便利な魔法がある。まぁ、この魔法は空気中の水分を無理やり搾り取るか、もしくはそれすらできなかったら水を召喚する魔法なので、行使するには技術が必要だ。
魔力消費自体は初級魔法に分類されるのに、必要とする魔法技術が高すぎるせいで、中級か、上級魔法程度として一般的には教えられるほどである。
目に見えない極小の水を集めるのも、召喚するのも高度なイメージと魔力操作が必要となるのだ。
しかし、ライゼはもちろんレーラーも問題なく〝飲み水を出す魔法〟を使える。
ライゼは、五年以上弛まず休まず絶え間なく訓練してきた魔力操作技術と俺が持っていたなんちゃって科学知識を使って、レーラは千年以上の鍛錬と、深き森人と個人の両方の圧倒的な魔法の才によってそれを為している。
まぁ、何が言いたいかといえば、美味しい鍋を食べられるのはライゼのお陰というわけである。
そうして、レーラーと『聖金棒』である岩人の少女が野営を設営し終わる頃には、ライゼが“携帯火熱石”を使って作った鍋がいい匂いを漂わせ、また、同じくライゼが集めた枝に灯された焚火が、優しい熱波を野営地いっぱいに放っている。
氷の大地によって腹の底から冷えていた俺の体も温まる。
「じゃあ、食べようか」
「うん」
レーラーは辛さという旨味を閉じ込んだ匂いに誘われて、鍋の前に座る。
また、岩人の少女も静々と鍋の前に移動する。そして、ライゼに深々とお辞儀をした後、淑やかに鍋の前に座る。黄金の瞳が鍋に釘付けである。
ライゼは少しだけそれを見て苦笑いした後、手元にあったお椀を手に取り、そこに鍋の中身をよそっていき、二人に渡していく。
また、小さなトカゲ姿専用の小さなお椀にもそれを入れ、ライゼの“空鞄”の上で寛いでいる俺の前に置く。
そしてレーラーとライゼが手の皺と皺を合わせる。
シスター服の少女は祈り手をする。
「「いただきます」」
「世界に光を灯す優しき女神よ。今日の恵みに感謝いたします」
夕餉が開始した。
Φ
「さて、改めて自己紹介といこうか」
夕餉が終わり、片づけが済んだところで、俺達は焚火を囲い向かい合うように座っていた。
足を横に流す座り方をしているせいか、スリットから真っ黒のニーソックスが見えていて、ライゼは全力で目を逸らしている。
ここまでの反応は初めてである。
「私はレーラー。見ての通り森人で冒険者だ。魔法使いをしている」
レーラーの見た目は森人だ。森人も深き森人も姿形は大して変わらない。
そして深き森人だと馬鹿正直に言う必要も全くもってない。というか、よく初対面相手に名前を名乗るよなと俺は少しながら思ってしまう。
まぁ、七か月近い長旅でそれも慣れたが。
「そして、こっちの子鬼人の師匠だ」
「僕はライゼ。一応魔法使いだけど、戦闘は遠近両方熟す“万能凡人”だよ」
ライゼはタメ口だ。
敬語を使っていたら、何故か怒られたらしい。
“万能凡人”とは、冒険者の中の一つの役職で、遠距離、近接、斥候、防御、その他諸々全てを熟せる、しかし、特化しておらず中途半端な技術を持つ役職だ。
だがしかし、だからと言って冒険者内での役職の評価が低いわけではなく、むしろ、万能型として、また、あらゆる役職のサポートができる役職として重宝されている。
「……私はトレーネです。女神様に仕えるシスターであり、戦士でもあります。戦闘神官です」
トレーネは白銀の宝石に覆われいる尖った耳をピクピクと動かしながら、丁寧に頭を下げる。所作は深窓の令嬢の様に美しく、また儚げだ。
二メートル半ほどある黒金棒を振り回していた姿とは似ても似つかない。
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