六話 それでも戦う
氷の颶風はあっけなく、それは親と子の差と思えるほど儚く散っていく。
黒金棒一振りで起こされる暴風にかき消されてしまうのだ。
「……凄いね。あれほどの実力だと直ぐにでもAランクまでいきそうだね」
上空で発生する嵐を冷たい翡翠の眼で捉えながら、レーラーは氷の大地の上で寝ているライゼの隣に立った。
また、ライゼに幾つかの液体の回復薬と錠剤の気付け薬、鹿の干し肉を渡す。
「レーラー師匠、やっぱり彼女って」
寝っ転がりながら、それを受け取ったライゼは錠剤の気付け薬を液体の回復薬で飲み干し、体を起こす。
そして、鹿の干し肉を齧りながら、“空鞄”を発動させて、ボロボロになった衣服の代わりを取り出す。また、被っていた血色の飛行帽を脱ぎ、深緑のゴーグルをとる。
ついでに俺はライゼの懐から飛び出て、レーラーの肩へ昇る。
また、ぐわんぐわんと揺られたくはない。
それから何の躊躇いもなく、干し肉を口に咥えたまま上半身のボロボロの衣服を脱ぎ去る。上半身の殆どに血がこびりついている。ただ、レーラーから貰った蒼い蝶が描かれた蓋の懐中時計だけは綺麗だ。
それから、〝汚れを落とす魔法〟と〝飲み水を出す魔法〟を使って身体にこびりついた血をある程度落とした後、真っ白なシャツを着て、深緑ローブを羽織る。
また、血に染まった黒のズボンを脱ぎ、ついでに深緑ローブの下で同じく血に染まったパンツを脱ぎ捨てる。
そして同様に血をある程度落とした後、深緑ローブに隠れながらパンツとズボンを着ていく。ズボンについている黒のベルトには、露出している交換用の“宝石倉”が金属紐で括りつけられている。弾帯である。
それから最後に、組み込まれた〝物体を射出する魔法〟の魔道具以外がボロボロの靴を脱ぎ捨て、“空鞄”に入っていたブーツを履き、同じく“空鞄”に入っていた飛行帽を被る。
ゴーグルは着け直さないようだ。
「うん、『聖金棒』だろうね」
そして干し肉を噛み砕いて飲み干したライゼは、手元にあった“森顎”と“森彩”を手に取る。
先程まで血に濡れていた“森顎”と“森彩”は、俺が非常用に組み込んでいた清掃浄化機能で綺麗になっていた。
ライゼは手に取ったそんな“森顎”と“森彩”をゆっくりと振り回して、調子を確かめる。
そして、“森彩”を足の間に挟む。
それから、“森顎”の柄部分を思いっきり曲げて、“森顎”用の弾倉を露出させる。“森顎”の“宝石倉”は柄と銃身の可変部分に組み込まれているのだ。
そしてそれを取り替えるにはストッパーを手作業で外さなければならない。“森顎”に備わっている魔力回路の容量がいっぱいいっぱいで、魔力による自動操作ができていないのだ。
なので、ライゼは“森彩”を足に挟んだお陰で開いた左手で、それを取り外し、黒のベルトの弾帯に手をあてる。
そうすれば、露出している“宝石倉”を繋いでいる金属紐が徐にほどけ、“宝石倉”自体も自ら浮き上がり、“森顎”に嵌る。
それが終わったら、“森彩”を手に取り、同様に回転式の“宝石倉”を取り替えていく。
ライゼの戦闘用装備で“宝石倉”のリロードの手間を減らすために専用の黒のベルトの弾帯を作ったのだ。
だが、これが意外と重いし、動きずらい。日常生活では使い物にならない。
「そうなんだ。じゃあ、行ってくる」
だから、凍結華鳥一匹だし、斃したし、戦闘用の装備をそこまで本格的に身に付けていなかったのだ。あったのは懐に入れていた“宝石倉”だけだ。
……だけど、やっぱり、日常生活でも問題なく身に纏えるモノを作っておいた方がいいな。
『頑張れ』
「魔石回収は任せてね」
そしてライゼは“森顎”と“森彩”を棒状にして、嵐の中へ飛び込んでいった。
まだ、『聖金棒』であるシスターの少女が戦っていようと、凍結華鳥と氷結花鳥は残っている。
Φ
「何で怪我人が戦っているのですかッ!? 安静にと言いましたよねッ!!」
結局ライゼが嵐の中に飛び込んだ数分後に戦闘は終わった。
レーラーは彼女が斃した分の魔石は別に分けてすべて回収していた。それから、“身大変化”で大きくなった俺の背中の上で魔石を数えている。
そして、カピカピに乾いた血がこげ茶の髪や肌についているライゼは、正座をしていた。珍しい。
シスター服姿の岩人の少女はとても怒っている。
金の瞳をキッと吊り上げ、腰に手を当てている。
白のウィンプルに収まらない夜空と見間違うほどの艶やかな黒髪が、荒ぶる。心なしか蠢ているようにも思える。
「そこのクソ森人もですッ。何故、怪我人に戦闘させているのですか!? しかも、彼があんな怪我を負っていたにも関わらずッ!」
彼女は思わずダンっと足を踏み鳴らした。
そして、その際、戦闘の為か、真っ白なシスター服には膝上まであるスリットから太ももまである真っ黒なニーソックスが覗かせた。
ライゼは思わず顔を背ける。
初めて見た。
「……ライゼ、こういう子が好みなの?」
そして怒鳴られていたレーラーは、岩人の少女など気にせずに眉を少しだけ上げて、面白がるようにライゼに訊ねる。興味が湧いているのだ。
俺も同様である。
「ッ、ち、違う!」
ライゼは慌てて声を張り上げる。
そして、直ぐに岩人の少女の方を向いて。
「い、いや、君は十分、綺麗で、美しいけど、そういうのじゃなくて!?」
「……はぁ、一度黙らせた方がいいですかね」
彼女は、黒金棒を手に取った。
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