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転生トカゲは見届ける。~戦えない俺は旅の足となる~   作者: イノナかノかワズ
第二部 三章:溶けた雪は物寂しい

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プロローグ Footprints――a

 昨日は遅かったためか、ライゼは朝日が昇り始めるころに目が覚めた。

 なので、朝日が昇る前に寝入った俺もそこまではぐっすりと寝ていた。


『ヘルメス』

『ん……』


 だから寝起きが悪かった。

 いつもなら、ここ六年近くの調教結果によって俺は直ぐに跳び起きるのだが、寝たのが遅く、また、気分が少しだけ優れなかったため、起きれなかったのだ。

 

『レーラー師匠、ヘルメス。起きて!』


 だから、俺達は朝食時になるまで起きなかった。

 まぁ、けど、レーラーはいつもの事である。


『……ん、おはよう』


 鍋を金属の棒で吊るし、“携帯火熱石”で温めている。

 酸味が混じった匂いから、たぶんローブストゥのスープだろう。ローブストゥとは四角い赤い野菜である。トマトに近い味である。


『おそよう、ヘルメス!』


 そんな鍋の横でまな板を目の前に、ライゼはよく切れる包丁を片手に握って俺ににっこりと笑った。

 ちょっと怖い。


 ただ、ライゼは怒っているわけではない。ちょっと寝過ごしたぐらいでは怒りはしない。怒るのは朝食を食べずに寝ていた場合だ。

 つまり、よくレーラーがやる事だ。


「レーラー師匠、朝食だよ!」


 ライゼは片手に持っていた包丁で山菜を刻みながら、毛布に顔から包まっているレーラーに向けて声を張り上げる。

 ただ、それでもレーラーは身じろぎ一つせず、スースーと可愛い寝息を立てて寝ていたため、ライゼは〝物を浮かす魔法(ディヌゥシュマー)〟の簡易版でレーラーの毛布を剥ぎ取る。


 そして山菜や生肉を取り出すために出していた“空鞄”から、小さな葉っぱを一枚取り出す。ライゼは包丁をまな板において、その葉っぱを手で半分に折った。

 それから〝物を浮かす魔法(ディヌゥシュマー)〟の簡易版で折った葉っぱを浮かし、レーラーの鼻の辺りに移動させる。


 つまり。


「んうぎゃ!」


 いつもは冷たく声もフラットなレーラーが素っ頓狂な悲鳴を上げる。

 ガバッと跳び起きて、ぜぇーぜぇーと肩で息をする。


「ようやく、起きた。レーラー師匠、朝食ができたよ」


 それを尻目に、ライゼは刻んだ山菜を温めていた赤いローブストゥのスープの中に入れ、鍋に掛けていた木製のお玉で二回混ぜた。

 その後、小さな魔法袋からお椀を取り出し、魔法で出した水でそれを洗ってから、木製のお玉を使ってローブストゥのスープをお椀に入れていった。


「……おはよう、ライゼ」


 レーラーはギンギンに冴えた瞳でライゼを恨めしそうに睨み付けた後、直ぐにライゼの手元にあるローブストゥのスープが入ったお椀に釘付けになる。

 レーラーは意外にも食いしん坊だ。


「じゃあ、食べようか」

『ああ』

「うん」


 そして俺達は朝餉をすました。



 Φ



「レーラー師匠、ちょっと待って」

「ん?」


 俺達はお世話になった小さな教会に礼をした後、そこを出た。

 そして、綺麗にした老人の銅像を少しだけ眺めた後、廃村を去ろうとした。


 けれど、ライゼが待ったを掛けた。

 レーラーは首を傾げた。俺も傾げた。


「何をするの?」

「先生が一人ぼっちだといやかなと思って」


 そう言いながらライゼは銅像の足元に手を置く。

 そして体内の魔力を練り一瞬だけ放出する。


「なるほど」


 すると、銅像の周りには白い斑点がある蒼い花が咲いた。

 ライゼが老人から貰った蒼い宝石、つまりアクアスカイの名前はこの蒼い花の名前を一部貰ったのである。


 なので、ライゼは〝魔力を花にする魔法(マブロール)〟で、その花を創り出したのだ。

 しかも。


「うん? 蒼い蝶?」

「うん、綺麗かなって」


 ライゼは手元から一匹の蒼い蝶を創り出し、その蒼い蝶は銅像の老人の右耳に止まった。そして宝石の様に固まった。

 〝魔力を蝶にする魔法(マシュメリク)〟と〝魔法を宝石にする魔法(マユービエイジノン)〟を応用したんだろう。


 それに、蒼い花も宝石の様に煌いている。


「……けど、もつのは八十年くらいだよ」

「うん、それでもその時にはレーラー師匠が来てくれるでしょ。そしたら、また、この花と蝶を作ってよ」


 ああ、ライゼは分かってたんだな。

 それは未来への荷物で、鎖で、鎹で、呪いで、お守りなんだ。


『ヘルメスもね』


 ライゼは横腹に幾つかの魔法袋と鞄を括り付けている俺にもそう言った。

 俺はせめて嬉しそうに舌をチロチロと出す。


『……ああ』


 そして、俺達は犬人の行商人に教えてもらった道へと進んだ。

 目指すは北。ウォーリアズ王国はすぐ目の前である。

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