一話 予定
自由都市ウーバーを出てから四ヶ月が経った。
十三歳になってからライゼの成長、特に身体的な成長は著しく顔つきも少しだけ大人っぽくなり、また、身長も伸びた。150センチくらいだろうか。
ついでに、額から生えているこげ茶の角も伸びた。
だが、レーラーが言うには、ライゼはもう既に一般的な子鬼人の体型にまで成長しきってしまったらしい。
実際、冬が近づくにつれて急激に伸びていた身長の成長は止まり、ここ一ヶ月くらいは全く伸びていない。
たった三か月間の成長だった。ライゼはもの凄く落ち込んでいた。
まぁ、背が伸びるって結構楽しいからな。毎日、身体が大きくなっていく感覚は、自分が成長している感を実感できるし、無性に嬉しくなるものだ。
あ、なんかの柱でも作って記録しておけばよかったかな。
まぁ、けど、〝視界を写す魔法〟でライゼの成長記録は付けに付けまくっているので、大丈夫か。
〝視界を写す魔法〟で取った写真は、俺専用の魔法袋に入っている。そして、もうそろそろ入りきらなくなっているので、新しいのを買わなければならない。
『大丈夫?』
頭はよく働くが、身体はあまり動かない。
冬に突入し、寒くなってきてから、俺の移動速度は落ちている。必然的に、旅の移動速度は落ちている。
魔素で身体を構成されているから、変温動物ではないのだが。
『ああ、大丈夫だ、ライゼ。それよか、レーラー、雪が降りそうなんだけど』
俺は隣を歩いているライゼに、舌をチロチロと出しながら問題ないと瞬きし、また、背中に乗っているレーラーに尻尾と鱗を揺らして訊ねる。
ライゼは自分の足で歩くのが好きらしく、俺の背中にはあまり乗ってくれない。まぁ、それでも、疲れている時などは乗ってくれるのでうれしい。
あと、ここ最近は、村々を巡りながら移動していたため、その村で貰った野菜などが俺の身体に縛り付けてある。
俺の横腹にはまぁまぁな大きさの魔法袋が幾つかぶら下がっているのだ。
ロバか、ラクダか、牛か、羊か、馬である。
俺は旅の足なのだ。
『うん、だから、この先の港町で二ヶ月くらい滞在するよ』
そんな俺の頭を撫でながらレーラーは呟く。
俺は頭を撫でられてクー、と声を出してしまう。レーラーって撫でるのが上手なんだよな。
『レーラー師匠、二ヶ月も滞在するの?』
ここ四ヶ月の旅で分かったが、レーラーの時間感覚はやはりおかしかった。
なんでもない村に、なんの依頼も仕事もなかったのに二カ月間も滞在しようとしたり、一日中起きない日もあった。
レーラーにしてみれば、一日とは、人生の一瞬でしかなのだ。
だが、レーラーはその一瞬を無下にしているわけではない。大切に大切に抱きしめている。
けれど、それでもレーラーに流れる時間はとてもゆっくりだ。
それを嫌というほど理解してきたライゼは、レーラーにくどくどとお説教するようになった。別にライゼは焦っているわけでもない。
ここ最近では小さなことを楽しむようになったし、一日を無駄にするような過ごし方もしている。
けれど、流れる時間はどうしようもなく早いのだ。そういうものなのだ。二ヶ月とい時間はライゼにとってはとても長い。レーラーに取ってみれば短いが。
俺の感覚は丁度、その間だ。
人間だった時の時間感覚はライゼに近いが、トカゲの時間感覚はレーラーに近い。俺だって、すでに七十年か、六十年近くまで年を重ねているからだ。
といっても、ライゼと過ごした六年間の方がとても濃密で、新鮮なもので、大切なものではあるが。
『分かってるよ、ライゼ。長居するつもりはないから。けど、この地域一体は雪が降ると動けなくなるんだよ。だから、比較的大きい港町で雪の季節が終わるまで待った方がいい』
『……それは確かに』
俺達は、自由都市ウーバーを出た後、東北東に伸びるヴァンズン山脈に沿いながら、ナファレン王国の北東へ向かって歩いていた。
ナファレン王国の中央部は山岳地帯であり、そこを越えるのは面倒だということもあり、一旦、東の海岸線にでてから、北に進むことにした。
そして俺達はようやくナファレン王国の真東に辿り着いた。世界地図で言えば、丁度中央付近であり、つまりとても寒い。
何度も言うように、この世界は地球とは違い世界地図の北と南が暑く、中央付近が寒いのだ。地球とは真逆なのである。
なので、中央に行けば行くほど豪雪となり、目指している港町は海岸線という事もあり、とても寒くなる。
一度、雪が降ると街道などが塞がれてしまうのだ。
ライゼもそれに気が付いたらしい。頷いていた。
ライゼって世界地理の知識とかは意外とない。
魔法や魔物、薬草などといったものに偏っている。歴史も、無理やり詰め込んだ感があり、たぶん、ここ最近は全く魔法以外の勉学をしていないので魔法史以外は忘れているだろう。
一週間に一度、学習日を作るのもいいな。
『見えてきたよ』
と、俺がそんな事を考えていたら、レーラーが遠くを指差す。
どんよりとした灰色の空の先に、同じく灰色の壁が見えていた。
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