一話 自由都市ウーバー
「くれぐれも問題は起こすなよ」
俺達は背の高く厳つい衛兵にきつく言いつけられた後、自由都市ウーバーに入った。俺は小さくなって、ライゼの肩に乗っている。
自由都市ウーバーとはどの国にも属していない自治区であり、アイファング王国、ナファレン王国、ハーフン王国の境目にある国である。
アイファング王国はナファレン王国と隣接しているが、国境は全てヴァンズン山脈で埋め尽くされている。
また、アイファング王国はハーフン王国とも隣接しているが、スコル大森林から溢れる魔物によって埋め尽くされているスコル平原によって、国境間の行き来ができなくなっている。
つまり、アイファング王国から他国に移動するには自由都市ウーバーを絶対的に経由する必要があるのだ。
ただ、そのため、アイファング王国は魔物からの侵攻はあるが、他国からの侵攻は無かったりする。
「ライゼ、二週間くらいここに滞在するよ」
「……どうして?」
多くの人が行き交う大通りでレーラーは翡翠の半眼をライゼに向け、言った。師匠のいう事は絶対ではないとはいえ、ある程度は飲み込まなければならない。
と、いうのは置いといて、ライゼは理由を問う。
「路銀が底を突きそうなんだ」
「あ、それなら僕、持ってますよ」
少しだけバツの悪そうにいったレーラーに対してライゼはそんなことかと朗らかに笑う。
確かに、ライゼはお金を結構持っている。
魔法学園では学費を払わなくて済んだので、その分があるし、アイファング王国を出る際に余計な物は大抵売ったので、一年くらいは問題なく旅ができるくらいのお金はある。
と、思ったのだが、レーラーは渋る。
「それは駄目だ。そのお金はライゼとヘルメスのだろう。個人のお金は個人で管理しないと」
確かにその通りではある。
「だから、旅の路銀は私とライゼたちの共同資産から出す必要があるんだ。つまり、その分を稼ぐ必要がある」
「……確かに、そうだね」
お金は揉めるからな。個人で自由に使えるお金すら共同財産として、使われると仲は悪くなる。どちらかが財布を握る関係はいい関係とはあまり言えない。
なので、旅するうえで共同財産枠を別に作った方が良いというのはライゼも納得である。俺も納得だ。
だが、ちょっとだけ気になる。
「レーラー師匠、普通の師弟ってそんなことするの?」
「いいや、しない。私が見た限りだと弟子は師匠の言いなりみたいなものだったね。けど、それは私の好みじゃないし、何よりお金の恨みは怖い」
そう言ったレーラーは無表情を崩し、身体をガクブルと震わせた。過去にとても恐ろしい事でもあったのだろう。
そこからの教訓なのかもしれない。
「じゃあ、冒険者ギルドで稼ぐ?」
「……それもいいけど、ここは自由都市ウーバーだ。申請さえすれば、誰でも商売ができるからね。魔道具と魔導写本を売ろう」
「あ、確かに」
そういう事で、俺達は二週間寝泊まりする宿屋を見つけ、荷物などをそこに置いた後、役所に行って商売許可を貰った。
レーラーとライゼが冒険者だった事もあり、意外にもスムーズに許可が取れた。
それにしても、レーラーは強いので高ランク冒険者かと思ったのだが、意外にもライゼの一個上、Cランクだった。
Φ
早朝、ライゼは市場の端っこらへんで魔道具と魔導写本、つまり魔導書を並べて店番をしている。レーラーは相変わらず寝ており、起こすのが面倒だと思ったライゼは、一人で店番をしていた。
これが一週間くらいである。
ただ、街行く人たちは魔道具や魔導書にはあまり目を止めない。たまに、冒険者らしき人たちが興味深げにとまり幾つか質問していったあと、去っていくくらいである。
個人で売っている魔道具は信用ならないのだろう。
また、ライゼの接客にも問題がある。
ライゼは今もそうだが、ずっとレーラーから借りた魔導書を読んでいる。もちろん、質問されたら愛想よく答えるのだが、それ以外はずっと魔導書を真剣に読んでいるため、一般的な客が近寄らないのだ。
まぁ、だが、ぶっちゃけ、魔導書や魔道具が二つか、三つ売れれば相当なお金になるので、積極的にライゼは集客しようとしないのもある。
それに分かる人が見れば、相場よりもずっと低い値段で売っていると分かるので、そういう人が一人でもいれば、売り出している魔導書や魔道具は売れる。
ここは自由都市ウーバーである。あらゆる国の中継地点として、また、ダンジョンがある都市として栄えている。そのため、キチンと目を持つ人がいる筈である。
レーラーも数十年前にそんな感じで、魔導書を大量に売りつけたらしいのでその言葉に従っている。
もし、二週間経っても一つも売れなかったら、ライゼやレーラーも本気で集客に取り組むはずなので、俺は放っておいている。どうせ、際限のない、ライゼの寿命までの旅だ。
ゆっくりしたところでそこまで問題はないだろうと思っているのだ。
それでも、ライゼがどうしても急ぎたいというなら、それに従うまでだが。時間感覚はライゼの方が正しい、いや、当たり前なのだろうし。
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