十二話 耐える戦い
それはただの偶然だった。
その日は偶々、学外演習の日で、冒険者に土地の歩き方や植物、魔物の生態など教わっていた。
ただ、ライゼは冒険者をやっていた事から、教わる側ではなく、教える側の補助としてその演習に参加していた。
それで偶々、ライゼはアウルラと幾つかの貴族のグループを担当していた。
アウルラも含めてそのグループの貴族たちは単純にいい人ではなかったが、しかし、頭が悪く素行が悪くなかったのは幸いだった。
ライゼの指示をキチンと聞いてくれて、例えライゼが教えていたとしても学ぼうとする意力と志があった。
彼らは高位の貴族だった。
アイファング王国は冒険者を擁護する国としても知られている。そして、高位貴族ほど冒険者の重要性などを理解しており、ライゼも学園の生徒であるが、冒険者だった事もあり、彼らは一定の敬意を持って学んでくれた。
そんな演習が終わり、学園へ帰る時だった。
偶々、アウルラがライゼに対していつも通り、決闘のような魔法対戦を申し込み、ライゼが仕方なくそれを受けた。
そして、その勝負はいつも通りライゼが勝ち、簡略したとはいえ決闘なので、王国式の礼式でその決闘に終わりを付けていた。
つまり、アウルラとライゼが握手をした。
その瞬間、何処からともなく黒のフードと目が描かれたお面を被った数人が現れ、大声で叫んだと思うとアウルラに青白い光が纏いついた。
そして、それは次第に大きくなっていき、偶々握手していたライゼにもその光は移っていった。
そして二人はヴァンズン山脈に転移した。
そんな流れだ。
Φ
そんな流れを刹那の瞬きで蘇らせたライゼは、心の中で苦笑する。
走馬燈にはまだ早いと。
「ッ」
空中に放り出されたライゼは僅かな呻きと共に体勢を立て直し、〝防御する魔法〟で足元に障壁を張り、立つ。
が、直ぐに“身体強化”で強化した跳躍力を使ってその場から跳ぶ。
瞬間、炎の渦がその場を覆い隠した。
「くッ!」
そして、跳んだライゼの頭上に大きな影が落ちる。
その影はライゼへとぶつかる。
――ガァァァッーー!
レッドドラゴンだ。
ライゼは一瞬で足元に障壁を張って、“魔倉の腕輪”を変形させた“魔倉の短刀”でレッドドラゴンの爪の攻撃を受け流し、また、身体を器用に逸らしながらレッドドラゴンの背後に回り込む。
そしておちょくる様に〝攻撃する魔法〟を数発、レッドドラゴンに打ち込み、それを嫌がったレッドドラゴンの尻尾の攻撃を障壁を張って跳んで避ける。
ライゼはレッドドラゴンを倒そうとはしない。
というか、倒せない。
しかし、ライゼの目的はレッドドラゴンを倒す事ではない。
一秒でも長く、レッドドラゴンの意識を自分に向けさせ、そして長く長く耐え抜くことだ。
だから、攻撃ではなく防御と回避に専念する。
子鬼人であった事が幸いした。
小さな身体であった事が幸いした。
体長十数メートルはあるレッドドラゴンは地上戦だろうが、空中戦だろうが超近接戦闘には弱い。
まぁ、ドラゴンは空の覇者とも呼ばれる存在だ。空中では、直ぐに飛んで近接戦闘などできなくなるが、しかし、彼らは傲慢だ。
己よりも弱い存在に対して逃げることはしない。
むしろ、傲慢に不利と考えられる戦い方をする。
だからライゼは十数分、レッドドラゴンの意識を自分に向けさせ、耐え抜くことができていた。
けれど、それも限界が近い。
レッドドラゴンの攻撃を耐えたり、避けたりするためにライゼは相当な魔力を“身体強化”に注ぎ込んでいる。
もちろん、“魔倉の腕輪”に溜めていた魔力はまだ尽きる様子はないが、しかし、ライゼの肉体が駄目だ。
限界がきている。
灰が混じったこげ茶の短髪は頭から流れる血に染まっていてどす黒くなっている。顔の半分も血がこびりついている。
深緑ローブは切り刻まれて見る影もなく、もはや羽織っていない。
白のシャツは真っ赤に染まり、黒のズボンは血黒になっている。
唯一、“魔倉の短刀”を握る手は血に染まっていない。血に染まっていたら、少しでも握りが甘くなり、滑ってしまう。
それが命取りだ。
だから、〝汚れを落とす魔法〟や〝血を清める魔法〟で血を落としたのだ。
だが、治せばいいではないかと思うかもしれないが、しかし、回復系の魔法は主に女神教の専売特許だ。
唯一、回復系の基礎魔法である〝回復する魔法〟は一般にも知識と技術が下りてきているが、しかし、〝回復する魔法〟では回復量が足りない。
もし、今のライゼの怪我を治そうとすれば相当な魔力を消費してしまう。
それにだ。
ライゼの肉体に限界をもたらしているのは怪我だけではないのだ。
肉体の許容を超えた“身体強化”だ。
“身体強化”とは魔力を高速循環させ、身体のスペックを無理やり向上させる技だ。魔力を操作できるなら誰にでもできる技である。
だが、誰にでもできるが故に、高い効果はなく、また、ある一定以上の強化はできなくなっている。
しかし、ライゼは無理やりそれを突破して身体を強化している。だから、肉体がそのスペックに耐えられなくなり、悲鳴を上げているのだ。
もうじき、骨や筋肉が使い物にならないくらいには壊れるだろう。
本当は戦士職などが使い、強化の許容量がとてもでかい闘気で身体強化をしたいのだが、ライゼは闘気を扱えない。
魔力は誰にでもあるが、闘気は本当に限られた存在にしかもっていない。
「ハァ、ハァ、ハァ」
ライゼは限界だった。
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