十一話 逃げる
魔物の中でも最強とも謳われるドラゴン。
俺達の目の前に降り立ったドラゴンは、赤い鱗からレッドドラゴンだと分かる。また、放出されている魔力から冒険者ランクA以上の脅威度だろう。
つまり、どう足掻いてもライゼでは敵わない。
「ヘルメス、アウルラを連れて!」
『ああ、分かってる!』
だが、俺はそのレッドドラゴンを無視して走る。
ライゼは俺の背から軽やかに降り立ち、レッドドラゴンに対して殺気を放ち、レッドドラゴンの意識を引く。
事前に決めていた事だ。
もし、俺が全力を出しても逃げ切れない魔物に補足された場合は、ライゼが囮となり、俺達が逃げる。
俺が身体を大きくして戦おうとしても、それはできない。
戦おうとする意思が俺にあった場合、魔法と同様で“身大変化”の効果も落ちる、というか発動しなくなる。
スキルは補助のはずなのに、つまり元々スキルがなくても使えているはずなのに、戦うという戦闘意思が入るだけで俺は戦う事ができないのだ。
だから、事前に決めていた事なのだ。
もちろん、それを納得はしていないが、これが最善だ。
また、ライゼを囮にするとは言ったが、ライゼを見殺しにするつもりもない。幾つも手段を用意してある。
でなきゃ、俺が囮になってる。少なくとも、ライゼを犠牲にする事などは絶対に了承しない。
「ヘルメス! 何をやっているんですか!? 戻りなさい。これは命令ですわ! 戻りなさいッ!」
だが、焦燥を浮かべ、俺を止まらせようとするアウルラには、それを話していない。話せば面倒になるだけだ。
今みたいに。
『駄目だ。ライゼが残った意味がなくなる』
俺はありったけの魔力を“身体強化”と、アウルラが俺から落ちないように、また離れないようにするための幾つかの魔法に注ぎ込み、音すら置き去りにして疾駆する。
だが、このまま魔力を費やせば、王都には辿り着けない。けれど、ヴァンズン山脈だけなら越えられる。
アウルラは俺が止まらないことを察して、無理やり飛び降りようとするが、魔法によってそれは不可能となっている。戦う意思がない場合は、相手の行動を魔法で制限することができる。
「何故です!? アナタはライゼの家族ではないのですか!? ライゼはアナタを家族と言ってたで筈ですわ!?」
『……大丈夫だ。ライゼは死なない。だから、俺はお前を連れてここを脱出しようとしている』
死なない理由はない。死ぬかもしれない。
けれど、死なない確率があって、方法があるのだ。それがどんなに細い糸でも、アイツが、ライゼが問題ないと言ったのだ。
それくらいは信じなければならない。
「……ドラゴンですのよ!? ライゼのランクはD。到底敵いませんわ!? 見殺しにしたも――」
『――黙れ。つべこべ言わず、ライゼに逃がされろ。お前が王都にどれだけ早く着くかがアイツのタイムリミットになるんだ。黙れ!』
鬱陶しい。速く走れない。騒がれるのは面倒だ。
「ッ」
アウルラは〝思念を伝える魔法〟で俺の苛立ちを受け取ったのだろう。黙った。
いや、黙りはしなかった。
「〝馬を速くする魔法〟ッ! 〝馬を速くする魔法〟ッ!」
馬ではない俺に魔法を掛けた。何度も何度もかけ続けた。
最初は効果がなかった。けれど、次第に俺の両足に力が入るようになった。
ヴァンズン山脈を駆ける速度が上がった。
もう誰も追いつけない。
そうしてアウルラの魔力を感知して襲ってこようとした魔物すら置いてきぼりにする速さでヴァンズン山脈を駆け、残り数百メートルといったところで俺の体力が尽きた。魔力も尽きた。
そして魔力が尽きれば、魔素で身体を構成している俺は動けなくなる。動けるようになるまで、時間がかかる。
「きゃぁっ!」
魔力を使い果たした俺が急停止したことによって、魔力が尽きかけていたアウルラは飛ばされる。だが、上手い具合に受け身はとれたらしい。大した傷は無いようだ。
俺は無理やり魔力を生成して〝思念を伝える魔法〟をアウルラに繋げる。
『行け! 走れ!』
「ッ」
アウルラは俺が動けないことを悟ったらしい。体内魔力がほぼ枯渇している影響か、苦痛に顔を歪めながらも、彼女は残り少ない体力と魔力をふり絞って駆ける。
「私が必ず助けを呼んできますわ!」
また、気力すら使い果たして、叫び、アウルラは俺の視界からいなくなった。
ヴァンズン山脈を出られたらしい。
だが。
――グルゥルゥーーゥゥン
動けなくなった俺を数匹の狼型の魔物が囲っていた。
アウルラには秘密裏に魔物除けの魔道具を付けていたため、大丈夫だが、何分その魔道具は貴重だ。俺もライゼも着けていない。
だから、俺が直ぐに魔物に見つかるのは必然だ。
死ぬつもりはない。ライゼだって死ぬつもりはないのだから、俺だって死ぬつもりはない。
けれど、残り少ない俺の命を甚振る様にジワリジワリと俺を囲い込んでいく狼の魔物に、俺は勝つこともできない。戦う事ができない。
生き残れる可能性は低い。とても低い。
戦う事が制限されているペレグリーナーティオトカゲの特性がうざい。ムカつく。
だが、諦める事はできない。最後の一瞬まで気力をふり絞って立ち上がろうとする。心を奮い立たせる。
俺に牙が突き立てられ――
『〝生き残る魔法〟ッ!』
――瞬間、俺の蜥蜴色の鱗が爆発して、弾き跳ぶ。
――キャイン
狼たちは弾き跳んだ鱗に節々を斬られ、黒い血を流している。
また、鱗が剥がれ落ちた俺の身体は血肉が見えていて、激痛が走っている。
『ガァッァ!』
ついに、痛みに耐え切れなくなって叫び声を上げてしまう。
苦しいし、痛いし、これで死ぬかと思うと辛い。本当に辛い。神経が焼ききれているのではないかと思うほど熱い熱い痛みよりも、死んでしまうことが嫌だ。
ライゼがどうなったのかも知らない!
――ッッッッッッッッッ!
俺は声にならない叫び声を上げる。
俺に傷つけられた狼たちは殺気をぶつけながら、再び俺に牙を突き立てようとする。
そして――
「よく頑張った」
――狼は宙に現れた新緑の魔力弾によって穿たれた。
いつも読んで下さりありがとうございます。
面白い、また読みたいなど少しでも思いましたら、ポイント評価やブックマークをお願いします。
また、感想や意見があると励みになります。




