十話 確かな誓い
「それから、私は先生に色々な事を教わりました。文字や計算、お金、魔法や魔物、色々な事を教えてもらいました」
目を赤く腫らしたアウルラが落ち着いたのを見計らってライゼは話を続ける。
「けれど、私は両親を失った辛さから、先生は先生として利害関係で結ぶようにしました。私の大切に先生を入れたくなかったんだと思います。“空鞄”という魔法ポーチと同じような祝福を使って、配達や薬草採取の仕事を冒険者ギルドで受けて、得た収入を老人に払う。そうやって暮らしていました」
悲しみは辛さへと変わり、辛さは恐怖に代わる。人は恐怖を避けるために自己防衛する性質がある。
そうでなくては、危険な世界ではやっていけない。
「ただ、先生と暮らしているうちに世界や理不尽に対する恨みは薄れていきました、けれど、魔人に対する恨みは今でも私の胸を燻っています」
「……では、どうして」
「魔人は憎いです。とても憎いです。けれど、私は、私を産んで愛してくれた両親が、縁もゆかりもない私を拾って育ててくれた先生が大好きです。その彼らは、僕の『くだらない魔法』を、魔人を殺すこともできない魔法を喜んで、そして誇る様に笑ってくれました」
深い深呼吸をして、ライゼはこげ茶の瞳をアウルラに向ける。
「だから、自分の憎しみよりも、際限ない恨みよりも、僕の大切が誇ってくれた魔法をもっと多くの人に知ってもらいたいのです。喜んでもらいたいのです。まぁ、それでも一生魔人を憎み続けるでしょうが」
俺にはその憎しみを、恨みを、癒すことはできない。どんなに時間が経とうが、大切を奪った存在を憎む感情は癒せない。
だって、ライゼは大切と向き合って、『くだらない魔法』を使おうとしているから。それを人生の目標にしているから。
だから、魔人を憎むことはやめられない。
それは目の前にいる少女に対しても同様だ。
けれど、その少女は理解して、それでも泰然とした態度でライゼに向き合った。
「話してくれて感謝しますわ。そして私は、全身全霊を、一生を掛けてライゼとの約言を果たすことを誓いますわ」
「……では、僕の一生を掛けて楽しみにしています」
そうして、夜は更けていった。
Φ
翌日。
俺は風すら置き去りにするほどの速さで走っていた。
流石にその速度で走ると背中に乗っているライゼやアウルラが結構揺れるが、二人とも我慢してくれている。
『ヘルメス。二時、二』
『ああ、分かってる』
俺はライゼからの指示によって、木々をよけながら、進行方向を右へと変えて、緩やかに迂回していく。
「ッ」
アウルラが右に掛かったGに耐えようと必死にライゼの深緑ローブを掴む。
唇をキッと噛む。
「なっ!」
と、そうしながら木々と魔物を避けて風を切っていたら、目の前に崖が現れた。
しかし、俺は止まることはない。止まっていては今日中にここを出ることはできなくなる。
『しっかり掴まっとけッ!』
「ッ」
「きゃあッ!」
ライゼとアウルラが俺の身体を強くつかみ、悲鳴を上げる。
俺がほぼ垂直の崖を登っているのだ。“張り付き”と“登攀”のスキルが補助してくれる。
崖登りだってできるのだ。
『口を閉じろ、舌を噛むぞ!』
俺はライゼと悲鳴を上げているアウルラに登りながら注意する。
二人を乗せて、また“身大変化”で身体を大きくしているため、身体が重く、崖を登るのに体力を大分消費するが、頑張る。
だから、舌を噛まないようにしてもらうと助かる。
「クッ」
「ンッ」
二人の口から我慢するような息が漏れるが、しかし、俺は更に崖を登るスピードを上げる。二人を強力なGと風圧が襲うが、我慢してもらう。
本来なら、魔法を使ってそれらを無くすのだが、しかし、ここで魔法を使えば魔物たちに居場所をバラしてしまう。
『抜けたぞ!』
崖を登り切った。
二人は声にならない溜息をついて一安心しているが、しかし、その暇を与えず俺は走る。二人を王都まで届ける。
『スピードを上げるぞ!』
朝から走り続けて半日、二人の消耗が激しい。ようやく第五階層に入ったが、このままいけばアウルラの体力と精神力が、半日も持たずに尽きてしまうだろう。
その前に第五階層を突破する必要がある。
それに、いくら魔力隠蔽と魔力感知で魔物を避けようとしても、この階層の魔物は強い。あらゆる面で優れている。
万が一がある。
なので、俺は残っている魔力を“身体強化”に足に注ぎ込み、一陣の風となって森を駆ける。山を疾走する。
ライゼもアウルラもそれが分かったのか、残っている力をふり絞って俺にしがみつく。また、ライゼは咄嗟に“身体強化”を発動させて、疾走する風の中アウルラを自分の手前に持ってくる。
落ちないように抑え込む。
そして三時間が経った。
ようやく、ヴァンズン山脈の果てと王都の影が見えてきた。
だが。
――グギャガァアァッーーーッァー!
ヴァンズン山脈を出る直前で俺達の前にドラゴンが降り立った。
一瞬で目の前に現れたのだった。
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