八話 違い
「……一つ聞いてもよろしいかしら?」
「はい、大丈夫ですよ」
呆然としていたアウルラは神妙な表情へと変化していき、ライゼを真剣に見る。
「何故、常に放出魔力を制限しているのかしら。魔法使いならば己の魔力は誇りであり、それを隠蔽するという事は誇りを貶していることになりますわ」
「だからですよ。私が強い魔法使いを倒すには騙すしかないからです」
「……」
「私は魔力量が圧倒的にありません。それに今後どんな訓練をしても魔力量が増えることはありません。ここ二年間、魔力枯渇による魔力増大の訓練ををしても魔力量が増えることはありませんでしたから」
ライゼは、少しだけ悲しそうにこげ茶の瞳を下げる。
悲しいというよりは寂しいのだろう。
その才能がない事にはもう区切りがついてはいるが、しかし、少しだけ考えてしまうのが性だ。意思あり生物の性だ。
どんなに無駄だと分かっていてもIFを少しだけ想像してしまう。
「と言っても、ヘルメスが作ってくれたこの“魔倉の腕輪”という魔道具で、魔力量の問題はある程度解決はしています。けれど、私は子鬼人です。アウルラ様がご存じのように人類の中では最弱とも言われています」
「ッ」
「そして、そんな子鬼人だからこそ、放出魔力がほぼゼロでも当たり前だと多くの人は思います。それ故に、私と対峙したとき油断します。見下します」
まぁ、ライゼは『くだらない魔法』を使って多くの人を喜ばせたいだけなのだが、魔法が好きであることには変わりない。
魔法を学び、多くの人を感動させるのが人生においての一つの終わりなき目標らしい。現時点では一生やり続けると決めているそうだ。
だが、また、ライゼは世界中を旅したいと思っている。それはレーラーの弟子になったという事もあるし、また、老人が世界を旅していたことを知り、自分も旅をしてみたいと思ったらしい。
それと、普通に『くだらない魔法』を多くの人に見せるためには、世界中を回った方がいいと思ったようだ。
けれど、旅は危険だ。盗賊も魔物も悪人もいる。
それにそもそもの話、子鬼人であるライゼは日常生活も危険がある。アイファング王国は比較的安全な国だからいいが、他の国では子鬼人の奴隷も多いし、それらは大体違法奴隷だ。
違法奴隷とは正式な冒険者ギルドと女神教の手続きを通さないでなった奴隷のことを言う。
この世界においての最低限の人権――日本では考えられないくらい低いが――が守られない場合があるのだ。
使い捨て道具みたいなものだ。
だから自衛するために、もし襲われたときに一番勝てる状況を常に創り出さなければならないのだ。
子鬼人である以上襲われない状況を創り出すことは難しいし、ライゼは子鬼人である事を隠すつもりはないので結果的にそこに落ち着くのだ。
俺的には回避できる厄介事は回避した方が良いと思っているのだが、だからと言ってライゼがライゼの意思で考えたものを否定するつもりはない。
それに、厄介事が起きても俺が対処すればいい。石をどけるのではなく、一緒に乗り越えるのだ。
「それが私が勝つ唯一の活路になります」
アウルラはその説明を聞いて、純粋に疑問に思ったようだ。
「……ライゼは何のために魔法を学んでいるのかしら? 魔法使いの誇りはないのかしら」
まぁ、魔力を隠すことは通常の魔法使いでは恥に当たるからな。研鑽した魔力を誇示してこそ、己の意義が示せるというものだ。
だが、ライゼはそんなの知らない。
そもそも魔力量が少ない時点で、一般的な魔法使いとはだいぶ違うのだ。今更、他の部分も一般的にする必要はない。
「……魔法は好きだから学んでいます。そして、私は己の研鑽が誇りなのではなく、魔法を使って多くの人を感動させる。それが私の誇りです」
誇らしげににこやかに笑うライゼ。
「……“くだらない魔法使い”……」
そしてその笑顔を見てアウルラはある魔法使いの名前を呟く。もしかしてと、疑わしそうにライゼを見る。
その名前は今、休日になると王都で面白おかしな魔法を見せてくれる謎の魔法使いである。巷では大人気。
「はい、そうですよ」
もちろん、それはライゼである。俺も手伝っている。
学園で学んだ魔法を、『くだらない魔法』を多くの人たちに披露しているのだ。
ただ、いつも無断で披露しているので、衛兵に捕まりそうになるが、逃げ延びている。
意外に追いかけっこは楽しい。最近では向こうが訓練としてライゼを使っているくらいだ。
「ッ。なるほど。通りで、魔法使い相手にしているのに精鋭の衛兵たちが捕まえられないのは、そういう事なのですね」
そして肯定したライゼに驚きながら、驚き慣れたのか直ぐに冷静になったアウルラは納得したように頷いた。
そして、悔しそうにライゼを見る。
「つまり、放出魔力を揺らぎなしにほぼゼロに制限できていないのは私の実力不足という事ですの?」
「……まぁ、端的には」
「ッ。分かりましたわ。明日までに完璧にしてみせますわ!」
言葉が変わった。苛立ちにも似た怒りと、そして強い想いが籠っていた。
しかし、ライゼは申し訳なさそうな顔を歪める。
「アウルラ様。四日後まで猶予はありますのでそこまで意気込まなくても大丈夫です。それと、もしものためにヘルメスが魔力隠蔽用の魔道具を作りますので」
「ッ。言わせておけば!」
その言葉が更にアウルラに油を注いだらしい。ガンガンと燃え盛り、逆に酸素が足りなくなって燃えなくなりそうだ。
「そんなもの必要ありませんわ! そして宣言通り明日までに完璧な魔力隠蔽をマスターして、目に物を見せてやりますわ!」
そして翌日。
アウルラは完璧とはいかないが、短期間ならばその身から放出される膨大な魔力をほぼ無にできるようになった。
しかも、放出魔力の揺らぎもあまりなかった。
天才って凄いなと思ったのと、久しぶりにライゼの悔しそうな表情を見れて良かったなと思った。
にしても、ライゼだって一年かかったのに本当に凄い。
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