五話 襲われて飛ばされた
ライゼが二年生になってから二ヶ月後。
ライゼはアウルラと二人で山奥に来ていた。
いや、飛ばされていた。
「……アウルラ様。流石に今日中にはこの山を出られそうにありません。ですので、野宿をするのですが、大丈夫でしょうか?」
「ふん。アナタに心配される必要はありませんわ」
空は茜色に染まり、深い山は更に深く昏くなっていく。
まぁ、俺にとって夜は楽しいものなのだが、子鬼人と人族の子供では恐ろしいものでしかない。
「では、私はここ一帯の安全をと位置の確認をしてまいります。ですので、アウルラ様はここでお待ちいただけないでしょうか。護衛も残しておきます」
『……チッ、分かった』
ライゼは首元にいる俺に少しだけ魔力を中て、俺は仕方なく頷く。
本当は嫌なのだが、しょうがない。緊急事態だ。
「その必要はありませんわ。私が全てやりますわ。むしろ、アナタがここで待っていなさい!」
こんな時まで対抗心を燃やすなよ。
ぶっちゃけ、魔力があり、ある程度魔法は使えてもアウルラは実戦経験がとても乏しい。
当たり前だ。
だから。
「……アウルラ様。ご無礼を承知で申し上げますが、足手まといです。勝手に動かれると困るのです。ご自身の命を大切にするなら、生きてここから帰りたいのなら、大人しくしていてください」
邪魔なのだ。
実戦経験と冒険者活動で培った戦闘力があろうとも、ライゼは弱い。
そりゃあ、学園内では強いかもしれないが、世間一般的に見ればようやく見習いを卒業したレベルだ。
それ故に、アウルラの命を守りながらこの魔境を脱出することは困難を極める。
リスクを少なくしたいのだ。
「ッ」
だから、ライゼはいつものように困ったように眉をひそめるのではなく、とても真剣な表情でアウルラを見た。
殺気すら伴っているようだ。
「ヘルメス。じゃあ、よろしくね」
ライゼはワザと口に出して俺に伝える。
前段階だ。
『分かったよ』
俺はライゼの首元から這い出て、地面に降りた。そして、“身大変化”で体長三メートルくらいまで大きくしていく。
「きゃあッ!」
アウルラは突然現れた俺に驚いて悲鳴を上げたが、直ぐにライゼに見られていないかと思ったのか、バッと顔を上げる。
「ぇ」
しかし、既にライゼはいなかった。
『アウルラ。追うなよ』
俺は威圧を込めた〝思念を伝える魔法〟で、消えたライゼを反射的に追おうとしたアウルラを止めたのだった。
Φ
「ただいま、ヘルメス」
『おかえり、ライゼ。それで様子はどうだった?』
「運が良かったのか、魔物の縄張りは少なかったよ。だから念のために、手持ちにあるだけの魔除けの聖水で結界を張ってきた」
『そうか』
そう頷いたライゼは、チラリと俺を見る。
そこには俺の身体に背を預けて眠るアウルラがいた。穏やかな寝息を立てて、腰まで届きそうな艶やかな銀髪は俺の身体に乱れている。
『アウルラ様、どうしたの?』
『ああ、ちょっと話したら疲れたらしくてな。ちょいと魔法で眠らせた。どうせ、騒がれると面倒だしな』
俺が与えた情報量が多すぎたのと、最初の威圧が効きすぎた。それで精神がやられてしまい、面倒になりそうだったので眠らせたのだ。
『……まぁ、食事の時に話した方がいいだろうし、それまでは寝てもらった方がいいかな』
ライゼも確かに納得したらしい。
頷いたライゼは俺が用意しておいた丸太の上に座って作業を開始した。
“空鞄”から四本の金属棒と干し肉、それから木製のお椀を二つに杓子を三つ、また鍋と小石を二つ取り出し、懐からは安全確認最中に採った山菜などを出す。
そして金属棒を三脚の様に組み立てて、残り一本の金属棒でそこに鍋を吊るす。
それから小石を鍋の下に置いた後、〝飲み水を出す魔法〟で鍋に水を満たす。
次に、干し肉を水で満たされた鍋に入れた後、俺が小石に魔力を注ぐ。そうすると、小石は浮いて鍋のギリギリしたでパチパチと音を立てながら赤くなった。
“携帯火熱石”である。俺が作った魔道具の一つだ。
ライゼは“携帯火熱石”で鍋を温めている間に、〝飲み水を出す魔法〟で採ってきた山菜を洗い、深緑ローブの懐に仕舞っていた小さな短剣で切り刻む。
それから、若干沸騰してきた鍋の中に煮えにくい山菜から入れていく。
そうして、十数分後。
ライゼ特製のスープが出来上がった。
「……ぅん……ん……あれぇ……」
そして美味しそうな匂いによってアウルラの意識が覚醒していく。
寝起きの仕方はいつものツンツンとした感じではなく、十一歳の女の子らしい可愛さがある。いつもこんな感じならライゼの対応も変わっていただろうに。
「ッ!」
そして俺が身体を一振るいさせて、アウルラの意識を強制的に完全覚醒させた。
飯の時間が長引くと、一応俺が風よけの結界を張っているとはいえ、魔物や獣が匂いを嗅ぎ付けて襲い掛かってくる可能性も否定できない。
まぁ、俺が魔力隠蔽せずに魔力を多大に放出しているから、弱い魔物や獣は本能的に襲い掛かってくる事はない筈なので、その可能性は低いが。
「アウルラ様。夕餉の用意ができましたので、今後の行動も話しながら一緒に食べませんか?」
「……分かったわ」
いつもなら悪態の一つや二つ吐くのだろうが、お腹が減っているのか、はたまた張りつめていた緊張が眠りによって薄れたのか、アウルラは素直に頷いた。
それを見て、ライゼは手元に置いてあった木製のお椀にスープを装り、アウルラに渡したのだった。
いつも読んで下さりありがとうございます。
面白い、また読みたいなど少しでも思いましたら、ポイント評価やブックマークをお願いします。
また、感想や意見があると励みになります。




