十五話 勝負
「両者、構え!」
アウルラは小さな杖の先をライゼに向ける。
ライゼはだらりと両腕を下げて、佇む。
「始め!」
緊迫した雰囲気の試合が始まる。
「〝攻撃する魔法〟!」
「〝攻撃する魔法〟」
アウルラとライゼが同時に謳う。
珍しくライゼは詠唱をしていた。たぶん、詠唱した方がカッコいいと思ったのだろう。さっきから分かっていたけど、ライゼはこの試合は勝つことよりも楽しさを優先している気がする。
まぁ、負けなければいいし、負けるつもりもないのだろうからいいんだが。
両者が放った幾つもの魔力弾がぶつかる。同時に魔力の閃光が飛び散る。
が、しかし。
「ッ、〝魔法を反射する魔法〟!」
同じの数の魔力弾が展開されたはずだが、ライゼが展開した魔力弾の一つがアウルラの魔力弾の弾幕をすり抜けた。しかし、アウルラの魔力弾は全てライゼの魔力弾によって相殺されていた。一つの魔力弾に二つの魔力弾をぶつけたのだ。
だが、アウルラもそれに直ぐに気が付き、己の前面に〝魔法を反射する魔法〟の障壁を展開する。
魔力弾が反射される。
が、しかし。
「なッ!」
反射された魔力弾はしかしながら、ライゼの元に帰ることはなく、むしろ弧を描きながら再びアウルラへと向かう。
「〝攻撃する魔法〟」
「ッ、〝魔法を反射する魔法〟ッ!」
更にアウルラが魔力弾に気を取られている内に、全回復させた魔力を全て消費して、魔力弾をアウルラへと放つ。
そして、それらの魔力弾は弧を描き、四方八方からアウルラを襲うのだ。 故に、アウルラは己の前面だけではなく、全面に半球型の〝魔法を反射する魔法〟を張る。
そしてその〝魔法を反射する魔法〟にライゼの魔力弾が当たるが。
「何故、反射しないのよ!」
それらの魔力弾は一度は反射するのだが、再びアウルラを襲いだすのだ。
アウルラは、絶え間なく続く魔力弾の弾幕を必死に〝魔法を反射する魔法〟で跳ね返して、防御するがジリ貧である。
と、ここで〝魔法を反射する魔法〟について説明する。この魔法は、あらゆる魔法に指定された位相と指向性を真逆にするという魔法である。
例えば、〝攻撃する魔法〟を展開する際に、大抵はどういう軌道を描いてどこまで跳ぶのかという位相と指向性を事前に指定する。
そして、〝魔法を反射する魔法〟はその事前に指定された位相と指向性を真逆にする、簡単に言えば巻き戻すという事をするのだ。
しかし、ここで重要なのは位相と指向性がどこまで指定されているかである。
つまるところ、魔法を展開するときにそれを指定せず、術者が一瞬一瞬、その魔法の位相と指向性を操作していた場合、位相と指向性を真逆にしても、その一瞬前までにしか戻らないのだ。
つまり、ライゼは〝攻撃する魔法〟の魔力弾を常に操作しているのだ。
言葉だけで言うととても簡単だが、それを為すには高度な魔力感知技術に魔力操作、特に遠隔魔力操作技術とそれらの情報を一瞬で処理する演算処理技術が必要になる。
そして、演算処理技術は意識的にできることは少なく、どれだけ無意識で行えるかが重要なのだ。無意識で魔法制御ができなければならないのだ。
だが、それを身に着けるには、下級魔法でさえ十年近くかかるとさえ言われている。基本魔法である〝攻撃する魔法〟であっても、八年近くはかかるだろう。
しかし、ライゼはここ四年間ずっと起きている時も、というか寝ている時でさえも極小の〝攻撃する魔法〟の魔力弾を己の周囲に浮かせて、旋回させていたのだ。
それ故に、ライゼは初級魔法と基本魔法までではあるが、無意識での魔法制御をほぼものにしていたのだ。
「〝攻撃する魔法〟」
使い切った魔力が回復したライゼは、更に魔力弾の弾幕を加算する。アウルラがライゼの魔力弾が放つ閃光で見えなくなってしまうほどだ。
だが、それだけの魔力弾を操作しているライゼが余裕というわけではない。顔を険しく歪め、鼻血を垂らし、目は赤く充血している。
数百にも近き〝攻撃する魔法〟の魔力弾を操作するための演算処理量が脳の許容範囲を超えているのである。
だからこそ、負担を減らすために詠唱をしているのである。
しかし、アウルラも負けていない。
「ァッ! 〝魔法を反射する魔法〟ッ! 〝攻撃する魔法〟ッ!」
王族としてはあるまじき裂帛の叫びを上げる。
瞬間、アウルラの全周囲を埋め尽くしていた〝攻撃する魔法〟の弾幕が、轟音と共に晴れた。
〝魔法を反射する魔法〟と〝攻撃する魔法〟で、ライゼの〝攻撃する魔法〟を全て相殺したのだ。
「……これで出だしに……ぇ?」
徐々に晴れていく煙の中でアウルラは、ぜぇぜぇと肩で息をしながら、ライゼを見ようとして、呆然とする。
ああ、それでいい。
そして。
「ぁ?」
アウルラは突然眼前に現れたライゼの掌で吹き飛ばされ、闘技場の壁に当たり、そして“護身の腕輪”が割れた。
「……しょ、勝者、アウル――」
そして、進行役の人がライゼが特別に提示した、「魔法以外の攻撃を相手に当てた場合、失格」という条件をキチンと判断して、コールをしようとした瞬間。
「――違うよ」
試験官のエルフが遮った。
「勝者はライゼだよ」
「れ、レーラン様。先程彼から提示された条件が……」
「うん。だから、ライゼの勝利だよ。彼は魔法でアウルラを攻撃した。そうだよね、アウルラ」
闘技場の壁にぶつかり、しかし“護身の腕輪”が肩代わりしていたお陰で無傷だったアウルラは、ライゼに対して、また自分に対して怒りを宿しながら、歪めた唇を開く。
「……ええ、そうですわ。下級魔法の〝風圧を発生させる魔法〟によって吹き飛ばされたのですよ。謀りましたわね、ライゼ」
「何のことでしょうか。私は、近接戦闘をしないとは一言も申し上げませんでしたよ」
だけど、魔法は近距離でも使える。
だが、魔法使いの常識では近接戦闘で魔法を使うことはしない。
だから、アウルラはライゼが自分の眼前に現れた意味が分からず、そして判断が遅れたのだ。
「ッ」
そして、ライゼが勝った。
その後、昨日の実技試験の結果は既に集計していたらしく、今日の実技試験の順位を加味して、実技試験の合格者と上位者の順位が発表された。
実技試験で落ちた子はいなかった。
そしてもちろん、ライゼは一位だった。




