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四話 二週間ぶりに起きた

「ぅ……ぅん……」

「ようやくお目覚めか、眠り王子」

「……チェンジで」

「んだとっ!」


 朝日が差し込む一室で、ライゼが二週間も閉じていた瞼を開き、白銀のおっさんを見て、間抜けに呟いた。

 俺はそれがおかしくて、嬉しくて。


『ぷふぁっ、ハハッ。こっちの気も知らねぇで。……おはよ、ライゼ』

『……おはよう、ヘルメス。……ところで体が起き上がらないんだけど』

「起き上がるわけねぇだろ。二週間も眠ってたんだ。体を起き上がらせる力もねぇし、しゃべるのも精一杯だろ。まぁ、そうでなくてもそんな様子じゃな」


 スピリートゥスもケラケラと笑いながら、ライゼの背中に手を入れてそっと起き上がらせた。

 ライゼはあまりの力のなさに顔を歪めながらも、ベッドボードに寄りかかる。


「付きっきりだったんだぜ。国を救った英雄だっつぅのにほとんどこの部屋に籠りきっりで、お前さんに治癒を施し続けて。全く、ラブラブだねぇ」


 ライゼの右腕を枕にするようにトレーネが地べたに座って寝ていた。不安そうに顔を歪めながらも、決してライゼの腕を離さないようにと掴む。

 ここ二週間の研鑽でそれはそれは見事なクマをメイクしたトレーネの黒髪は、朝日を浴びてサラサラと輝く。

 

 ライゼは力ない右腕の感触に頬を緩めながらも、それでもゆっくりと首を横に振った。

 揶揄うように口を歪めていたスピリートゥスは、その様子にあん? と首を傾げた。


「……いえ。たぶんそれは僕でなくとも同じです。彼女はとても優しいんです」

「ケッ。つまんねぇな」


 一瞬だけ誇らしいような、嬉しいような表情を浮かべてライゼは、つまらない様子のスピリートゥスに顔を向けた。

 

「この度は助けていただき感謝いたします。僕の名前はライゼです」

「……はぁ。俺はスピリートゥス。お前の師匠の古い知り合いだ」


 真剣な表情で頭を下げたライゼに、スピリートゥスはぼさぼさの白銀の髪を掻き毟る。

 その白銀の瞳には、呆れと懐かしさが浮かんでいた。

 ライゼは一瞬だけ栄養剤を調合している俺を見た後、そんな自己紹介をしたスピリートゥスをまじまじと見て。


「……もしかしてお酒を飲んで結婚式をすっぽかし――」


 姿形と種族から何かを思い当たったように首を傾げ。


「――やっぱアイツぶち殺す!」

「ちょ、声を抑えてください。トレーネが起きて――」


 スピリートゥスが闘気と魔力を揺らめかせながら、大声で拳を突きあげて、殺意をこめて叫ぶ。

 部屋全体をビリリと響かせるそれに慌てた様子で抑えようとしたライゼは、微動だにしなかった体を動かしてしまった。

 つまり。


「……ぅ……ぁれ…………ッ! ライゼ様ッ!」

「ちょ」


 トレーネが目を覚ました。

 何度か瞬きしたあと、コテンと首を傾げて、そしてライゼに飛びついた。

 目端に銀の雫をためて流し、ヒックヒックと嗚咽を漏らしている。

 が。


「っっうっっっぅぅぅうっ!」

「おいおい、嬢ちゃん。嬉しいのは分かったら離さないと死ぬぞ」

「……え? あっ、ら、ライゼ様ぁっ!」


 とうのライゼは白目を向き、気絶していた。

 流石に二週間ぶりに目を覚ました貧弱のライゼでは、熱い熱い抱擁を受け止めることはできなかったのだろう。

 トレーネって岩人(ドワーフ)だし闘気も扱えるから力も普通に強いし。


 慌てた様子で夜空の魔力を波打たせているトレーネは、ぐちゃぐちゃに涙と鼻水で顔を汚していた。

 俺は、やっぱりこうなったかと思いながら、栄養剤のついでに作っていた気付け薬をトレーネに渡した。

 ライゼは、数分後、目を覚ました。



 Φ



「ああ、大丈夫。怪我人にそこまで求めないよ」

「……ご配慮、感謝いたします」

「いいって。それよりも姿勢を崩しなさい」

「重ね重ね感謝いたします」


 高貴な身なりに包まれた青髪の男性。童顔で、ともすれば少年と思えるほどに背が低いが、成人男性だ。見た目は人族。

 このラクリモサ領地を治める領主である。


 血を失いすぎたのと、二週間寝たきりだった事、そして回復魔法の代償というべきか、ライゼは歩くことすらままならなかった。

 なので、ライゼはベッドボードに寄りかかりながら領主と対峙していた。

 領主は足元、つまり真正面にいる。トレーネはライゼの右横で、スピリートゥスは少し離れた壁に寄りかかって静観している。


「……お初にお目にかかります。私はライゼと申します」

「こちらも初めましてだね、ライゼさん。僕はレグルス・G・ラクリモサ。こんななりだけどラクリモサ領地の領主だよ。それと、もう少し口調を崩してくれると助かるな」

「分かりました」


 品のいい椅子に座りながらおどけた様にカラカラと笑うレグルスに、ライゼは少しだけ目を細めながらも朗らかな笑みを浮かべて頷いた。

 レグルスはうんうんと満足そうに頷きながら、柏で一つ鳴らした。


「さて、では何から話そうかな。そうだ、何か聞きたいことはあるかい?」


 ライゼが目を覚ましてから、まだ三時間も経っていない。

 その間に凄くかいつまんで状況説明はしたが、仔細はまだだ。


「そうですね。では、今回のスタンピードにおける被害状況とトレーネを取り巻く状況についてお願いいたします」

「……自分の事はいいのかい?」

「こんななりですので」

「そうかい」


 額から生えているこげ茶の角を指先で差しながらおどけるライゼに、今度はレグルスが少しだけ目を細めながらも朗らかな笑みを浮かべていた。

 そして何か悪戯を思いついたような表情をして。

 

「よし。やっぱりまずは君をSランク冒険者に推薦しようかな」


 揶揄うようにそう言った。

 ライゼは変わらず微笑を湛えていたもの、一段と低い声で言う。


「……レグルス様。状況説明をお願いいたします」

「分かったよ」


 冗談だよ、冗談。と言いながら、レグルスは状況説明を始めた。

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