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三話 それは蘇生

「なんでなんでなんで、ライゼ様はいつもそう!」


 魔力回復薬を何度も煽りながら、トレーネは癒しの魔法を止めない。止めてしまったら、ギリギリ繋がっている命の糸が切れてしまうから。

 鼓動のように点滅する癒しの光がライゼの今の輝きを表しているほどに儚い。


「しっかりせんか! お前さんがそれでどうするのだ!」

「……分かっています」


 ライゼはダンジョンの中層で発見された。

 トレーネが発見した。ダンジョンマスターを倒すために、中層へと飛び込んだトレーネが発見したのだ。

 ライゼがダンジョンマスターと、それらの側近を地上に出さないために、遅滞戦闘にてそれらの進行を遅らせていたのだ。


 というか、ダンジョンマスターたちも三日三晩に近い連続戦闘により、魔物であるのに疲れていた。

 トレーネが即行でダンジョンマスターを倒せたのはそのおかげだ。

 

 けれどその代償はでかかった。

 両腕が吹き飛び、片足もない。腹には風穴が空き、心臓すら動いていない。体は死んでいて、けれどそれでもまだ魂の輝きだけは衰えていなくて。

 トレーネの奇跡とも言える神聖魔法ならばギリギリ。蜘蛛の糸で綱渡りする状態だけれども、助かる見込みがあって。


「トカゲ! アンプルを!」

『へいへい』


 俺はレーラーの古い知り合いであろう堅き岩人(エルダードワーフ)に精力剤と栄養剤をブレンドした薬品を入れたアンプルを投げ渡す。

 俺は俺で、ライゼの命が尽きないように魔道具を介した回復魔法の行使や、回復に負荷を軽減するための魔法薬を作ったりと色々していた。

 それでも発見から二日間も、ライゼは生死を彷徨っている。


 これでも落ち着いた方なのだ。


 発見時など、肉体的には死んでいてヤバかったし、たぶんトレーネの神聖魔法の暴走回復がなければ、最低限の肉体生命臓器が再生せずに、今頃魂が輪廻に入っていたらしい。

 それに、それで一旦力を使い果たしたトレーネの代わりにライゼを治癒していたのが、堅き岩人(エルダードワーフ)、スピリートゥス。

 レーラーの古い知り合いで、お酒を飲んで結婚式をすっぽかした人、らしい。

 会ったのもつい三日前で、直ぐにトレーネと一緒にダンジョンへ乗り込んだため、詳しい情報は分かっていない。


 どっちにしろ堅き岩人(エルダードワーフ)であるから、その治癒は凄かった。

 神聖魔法ではなく、闘気を使った独自の治癒だったが、それでも欠損した両腕や片足を治癒して生やすなど。

 力を暴走させて気絶したトレーネもすぐさま起き上がり、こうして領主の館に運び込まれたライゼを治療している。


 そうこうしているうちに、三日目、四日目、五日も過ぎた。

 未だ、油断ができない状態で、常に誰か治癒を施していなければならないが、それでもライゼは回復に向かっていった。

 それこそ腕がいい治癒師さえいれば、つきっきりだったトレーネとスピリートゥスが抜けられるほどに。


「食え。坊主が起き上がり前にお前さんが過労で死ぬ。いや、餓死が先か」

「……分かっています」

「あと、トカゲ、お前もだ」

『ヘルメスって名前だ』


 魔道具による光で灯された部屋。

 スピリートゥスが、砂糖がまぶされたパン切れが載った皿を俺たちの前に差し出した。

 また、領主のお抱えである治癒師の神官にも差し出したが、彼は首を振ってライゼの治療に専念した。

 今夜は彼と、薬を取りに行っているもう一人の神官がライゼの治療に当たることになっている。 


 それでもトレーネはずっとライゼの手を握りしめながら治療を施しているが。

 

「ストーファンというパンだ。栄養価の高い黒麦に、スピリートで漬けた果物が中に入っている。砂糖は保存と柔らかくするためだ。そのまま食える」


 いつもは光り輝く黄金の瞳も彩を欠いていて、それは夜空の如き美しい黒髪も同様だ。

 皿を手に取ったものの見慣れないパンだったため、そんなトレーネはどうやって食べるか戸惑っていた。

 それを見かねたスピリートゥスは、自身の皿から一切れストーファンを手に取り、口に運んだ。


「……はい」


 力が入らない様子のトレーネはそれでも食べなければだめだと分かっているから、のろのろとストーファンを口に運んだ。

 そして咽た。


「こ、これ、お酒じゃ!」

「いや、違うぞ。風味は確かにそうだが、アルコールは飛ばしておる。果実に漬けた後、一回干して、また漬けて、最後にアルコールを飛ばす専用の魔法を使うのだ。どうだ、活力がでるだろ」

「……ええ、まぁ確かに」


 俺も口に運ぶ。

 ああ、確かにアルコールは飛ばしてあるな。そういえば、前世でも果物を酒に漬けるとかあったな。

 風味がすごくいい。

 トカゲの体では、どうにも酒の味はよいと思えなくなってしまったが、それでもこの風味はいい。


 熟した果実の香りに仄かにきつい砂糖の甘さ。黒麦の酸っぱさが絶妙にマッチしていて、しかも噛むたびに旨みというか何かが舌の上を転がっていて、美味しい。

 ストーファンという食べ物はこの世界で聞いたことなかったし、たぶんスピリートゥスが開発したパンか、もしくは岩人(ドワーフ)に伝わるパンなのか。

 まぁ三切れ程度食べてお腹いっぱいになり、ライゼを看病する力も湧きあがった。


 なのだが。


「ようやく寝たか」

『……睡眠薬をしこんだのか』

「そう警戒すんな。お前は人外だから兎も角、こいつはスタンピードから一回も休んでねぇんだ。竜人だろうがなんだろうが、『人』は一週間以上も動き続けることはできねぇんだ」

『まぁ確かにそうだが』


 魔法で部屋においてあったソファーを浮かして動かして、ライゼを治癒している神官が立っていない逆側にソファーを置く。俺は、ライゼの足元側にのそりと移動した。

 そして人形のように動かなくなってしまったトレーネを抱きかかえたスピリートゥスは、その上にトレーネを置いた。


「これなら、起きても直ぐに恋人の顔が見れるから大丈夫だろ」

『……付き合ってないよ。その子ら』

「え、そうなのか。まぁ嬢ちゃんの反応はそんなみたいだったし、誤差だ誤差。それより、お前。毛布とかもってないのか?」


 ケラケラと笑い、無造作に蓄えられた白銀の顎鬚を撫でながらスピリートゥスは、ソファーで寝ているトレーネに毛布を掛ける仕草をする。

 毛布は確かはライゼの“空鞄”の中だったよな……いや、トレーネの……あ、無理だな。トレーネの“魔法袋”の中を勝手に漁るなどできない。

 なので首を横に振ろうとしたところ。


「取り換え用の毛布がそちらにあります」

「おお、そうか。すまねぇな」

「いえ。問題ありません。それと、半分ほど明かりを消しても構いません」

「重ね重ねすまねぇな」


 ライゼを治癒している神官が萌黄色の治癒の光を輝かせながら、トカゲが話している状況に突っ込むこともなく、淡々と顎を奥に向け、そのあとライゼの治癒に専念していた。

 立派な仕事人である。


 これなら、トレーネじゃなくても安心してライゼを任せられそうだ。

 俺はそう思いながらも、トレーネが寝ているソファーとライゼが寝かされているベッドの間に体を入れて丸くなった。

 俺も仮眠ぐらいするか。

いつも読んで下さりありがとうございます。

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