三話 学費免除
『それで、二次試験の実技は一時間後だが、どうするんだ?』
『そうだね。観察でもしてるよ』
王立魔法学園の入学二次試験は武術、または魔法の実技である。
王立魔法学園では基本的な学問と魔法学だけではなく、剣術や武術などといった戦闘学も教えている。基礎部分は全員が学び、一年後に魔法系か武術系かで選択をするのである。
そして二次試験の実技は、基礎的な魔力量の測定と指定した魔法、もしくは武術によるノルマ達成、そして一次通過者によるトーナメント形式の戦闘試合である。
この戦闘試合は武器を使っても、魔法を使っても、大丈夫な試験である。
と、ここで付け加えておくと、魔力測定は実技試験の結果には影響しない。事前調査みたいなものである。
戦闘試合試験は明日だが、しかし、ライゼはそこでも一位を獲得するつもりである。実のところ、筆記試験を一位通過したライゼは既に合格が決まっている。試験の説明にそう書いてあったし、学園の方にも確認を取ったため、それは確実である。
だが、入学試験である一定の条件を達成すると、王立魔法学園の入学金や学費が減額、もしくは免除されるのだ。
減額においては幾つかランクがある。
筆記、もしくは実技試験において上位五人に入った者は三割減。
筆記、もしくは実技試験において一位になった者は五割減。
筆記、もしくは実技試験においてどちらかが一位をとり、もう一方が上位五人以内になった者は七割減。
そして筆記且つ実技試験において一位になった者は免除という形である。
一応、この四年間寝る間も惜しんで働いたライゼは王立魔法学園三年間分の学費を稼いでいる。俺も作った魔道具を売ったりもしたので、それくらいは貯まったのだが、しかし、余裕は欲しい。
王立学園に入った時に、余裕がないと食費などを稼ぐのに時間を取られてしまう。だから、勉学に励むためにも余裕は持ちたいのだ。
それで、実技試験においてライゼが一位を取るためには、戦闘試合の方で確実に一位を取る必要がある。
ノルマ型の試験ではライゼは上位者には入れても一位にはなれない。ノルマ型で指定される魔法は例年決まっていて、一つだけライゼの魔力量では行使できないものがあるのだ。
“魔倉の腕輪”を使えばその限りでもないが、ライゼは“魔倉の腕輪”を使うつもりはないらしいので、戦闘試合で一位を取らなくてはならないのだ。
そのために、ライゼは放出される魔力量や足の動きに、筋肉の付き方で相手の実力を測っているのである。
これらの方法は懇意にしている冒険者から教えてもらったのだ。伝手などは作っておいた方がいい。
『それにしても、魔力隠蔽をしている子はいないね』
ライゼは合格発表で喜んでいたり、悲しんでいたり、平静としている子たちを見ながら意外そうに呟いた。
それに関しては俺も気になってたのだ。
『ああ、放出されている魔力の揺らぎも正常だし、不自然に魔力を抑えている痕跡もないな』
あらゆる生物は魔力を持っていて、それを常に体外に放出している。
そして、魔力量が多いものなどはその放出される魔力も大きくなる。なので、放出されている魔力を見れば、どれくらい相手が魔力を持っているか分かるのだ。
“魔力感知”は放出されている魔力を感知するスキルである。
そして、その魔力放出を意図的に抑える事もできる。冒険者などは魔物に見つからないように、隠密のために魔力隠蔽をしているのだが、この子たちはしていない。
何故していないと分かるのかといえば、放出魔力を制限すると放出されている魔力に揺らぎが生じるのだ。
これは隠密のために魔力を制限している冒険者たちを見て学んだ。また、魔法を使う冒険者たちにも教えてもらった。
まぁ、だが、俺やライゼは極度に魔力を隠蔽しているが、その揺らぎは殆んどない。多分、魔力感知の達人でなければ気づかないほどに揺らぎがないのだ。
俺の場合は半世紀以上魔力を常に隠蔽していたため、また、ライゼは俺以上に卓越した魔力操作技術とそもそも“魔倉の腕輪”に魔力を注いでいるためである。
というか、ライゼの場合、放出されている魔力も殆んどない。微かに感じるな、と思う程度である。
実のところライゼは放出される魔力を無にすることも可能なのだ。
元々の魔力放出量が少ないのと、“魔倉の腕輪”に放出魔力の全てを注ぐ魔力操作技術があるから可能なのだが、流石に無にすると怪しまれる。
なので、微量ながらも魔力を放出しているのである。
と、まぁ、魔力隠蔽を相手に気づかれないようにすることもできるのだが、ぶっちゃけ俺やライゼの“魔力感知”は精度がとても高い。
俺は長年“魔力感知”をしていたし、ライゼは自身が持つ魔力量が少ないため、外部の魔力には過敏に反応する体質だった。
魔法を扱う上で最も必要な魔力量の才能はなかったが、しかし、魔法を使う上で重要な魔力を感じる才能は反比例する様にあったのである。
そして、軽く昼食を食べながら観察を続けていたら。
「二次試験を開始する。一次試験通過者は十分後に指定された試験会場に集まる様に!」
魔法かなんかで拡声された指示が聞こえたのだった。
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