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二話 広がるは悪名

「少々お待ちください」


 使者から連絡が来て冒険者ギルドに来てみれば、何故か待たされた。少々と言っていたが冒険者ギルドの職員たちが騒がしく行き来しているため、三十分くらい待たされそうである。

 という事でライゼとトレーネはギルド内に併設された酒場兼集会所の一角の丸机で地図を広げ、今後の予定を話し合っていた。


 俺が作った音をある程度遮断する結界の魔道具を使っているため、二人は外に集中していない。

 そしてここ最近そうなのだが、二人の今後の予定の話し合いで俺は要らない子なのだ。何というか、二人の雰囲気もそうなのだが、普通に話を聞いていても面白くなく、旅の足である俺の意志はあんまり反映されない。


 反映されていないというのは語弊があるか。反映する必要がないのだ。

 こんなご飯食べたいとか、こんな道を通りたいとか、そういったことは既に考慮して行路や準備をしてくれるため、別段意見する必要がないのだ。

 あと、これもここ最近だが二人が口喧嘩とはいかないが軽い言い争いが増えていて、その間を取り持つのも面倒なのだ。

 何というか半年間一緒にいたせいで互いの悪い部分が目に付くようになったというか、まぁ仲良くなったのだ。


 という事で面倒なので小さい掌サイズの俺はライゼの肩からこっそり降りて、遮音の結界から抜け出し、冒険者たちの会話の盗み聞きを開始した。

 情報収集もあるが酒が入っている冒険者たちの会話は面白かったりする。


 そうして面白い話題がないか魔力を完全に隠蔽し、気配なども隠蔽しながらうろついていると、丁度ライゼたちについて話し合っている冒険者たちがいた。

 チンピラ一人に、普通の冒険者二人である。


 ……いや、話し合ってはいなかった。普通の冒険者二人がチンピラを説得していた。主にライゼにちょっかいを掛けないようにと。


「だから本当にあれが『亡者の子鬼』だって。冒険者新聞読んで知ってんだろ!」

「んなわけあるかぁ! あの角で小柄、しかも放出魔力何て全くねぇ。どう見ても子鬼人だろうが!」

「首に下げてる黒鉄が見えないのか! 冒険者ギルドで偽装はできないんだぞ! 新人(ニュービー)で教わるだろ、種族を信用するなって」


 男二人がチンピラ一人の肩をガッと掴んで椅子に座らせようとしている。

 野郎が野郎を抑え込んでいるビジュアルは見ていて気持よくないが、俺は普通の冒険者たちを応援する。

 これ以上ライゼの魔の手による被害者が増えてほしくない。


 というのもここ半年間でライゼに身包みを殆ど剥がされて、金を毟り取られた冒険者が多すぎるのだ。

 Bランクである事が信じられない冒険者をダシにして、少しイラつく感じに煽って決闘やら何やらを受けさせて、けれどBランクであるからキチンと冒険者ギルドに守られながら互いに色々なのを賭けて決闘などが行われて。


 それで勝って相手の金やら武器やらを毟り取り、ついでにその決闘で賭け事が行われていたので、自分にベッドして。

 裏道で襲ってきたやつは普通に冒険者ギルドに突き出して、口からでまかせに被害を少しだけ盛ったりして加害者や冒険者ギルドからも金を毟り取り、結局半年も経たずにライゼの悪名が広がった。


 まぁ犯罪を犯さなければ冒険者ギルドが守ってくれるが、それでも子鬼人であり、面倒に巻き込まれたりいちゃもんを付けられることも多い。

 だからライゼは悪評を広げたのだが……いや、それ以外に普通に魔導書を買う金や旅の路銀稼ぎ、ついでにライゼの悪評が広がる事によるパーティー仲間のトレーネの評判を上げるという計画があったりするのだが。


 まぁ今、トレーネが『黒銀の聖女』と呼ばれて、ライゼのストッパー役として噂されているのでその計画は成功といっていいだろう。

 大抵ライゼが骨の髄まで毟り取ろうとするのを諫めたりするので、そう呼ばれてるのだ。


 因みに黒銀は神聖な鉱物でもある事と、夜のように美しい黒い髪と耳の白銀から取ったのである。

 白銀の聖女でも良かったのではと思うが、異名は勝手についているものなのでそこら辺は曖昧だ。

 そして目の前の普通の冒険者たちの脅しが開始する。


「ふんっ、所詮は噂は噂だろ!」

「違うっ! お前はここ二週間依頼で街を離れてから知らないだろうが、見たんだ。俺達は『流浪の歩み』のバンクスさんが身ぐるみ剥がされたのを見たんだ!」

「そうだぞ。しかも魔法決闘で負けたんだ!」


 『流浪の歩み』とはこの街を拠点として活動していたAランク冒険者パーティーで、ライゼたちがラビンテのダンジョンを完全攻略するまで一番攻略が有望視されていたパーティーである。

 そしてバンクスとは『流浪の歩み』の魔法使い役であり、森人(エルフ)の爺だった。


「はぁ!? 何抜かしてんだ。あの第九次魔人大戦の激動の末期を生き延びた大魔法使いだぞ! それがあんな魔力なしに負ける? お前たちこそ何言ってんだ!」

「ああ、分かるぞ。俺達だって始めは信じられなかったんだからな。魔法決闘が終わってバンクスさんが泣きながら杖を没収されてる姿を見ても、受け入れられなかったんだからな」

「だが、本当だぞ。本当に魔法決闘で負けたんだ。というか、バンクスさんが叫んでた。あれは魔人殺しだって! 魔力なしに見えるのは、大戦末期に活躍した英雄たちがやってた魔人殺しであって、実際の魔力は相当な程らしいぞ!」


 魔力はそこまでありません。普通に“魔倉の腕輪”に普段から魔力を溜めているだけです。

 まぁけどライゼが行っている魔力隠蔽は魔人殺しという事をつい二週間前にそのバンクスさんから聞いた。


 というのも第九次魔人大戦、つまりエルピスたちが魔王を討った時の大戦らしいが、あの大戦の末期、レーラーたちが多くの魔将雷光という、簡単にいえば四天王的な存在を討ち倒し、それによって魔人たちが卑怯に泥臭く足掻き始めたらしい。

 つまり普段は見栄や魔人社会での生存のために全力で放出していた魔力を隠蔽するようになったのだ。しかも魔力の揺らぎなどを抑えるために普段からだ。


 そしてそれは人類にも伝わった。

 つまり魔人を油断させて殺すために、人類も常に放出魔力を制限して隠蔽する技術を身に付けるようになったのだ。


 そして人類の魔法史において、その第九次魔人大戦末期だけ、放出魔力が隠蔽できているほど実力が高いという風潮ができた。

 今はまぁまぁ平和な時代なのでそういう技術というか文化は失われ、昔の様に戻っていったが。


 そんな事を身包みを剥がされ、『流浪の歩み』の他の仲間やトレーネに慰められながら聞きだしてたライゼの様子を思いだし、どこで教育を間違えたのだろうと悩んでいたら、チンピラが抑え込んでいた冒険者の手を剥がし、ライゼに殺気を飛ばした。

 見た目はチンピラだがこれだけ鋭い殺気を飛ばせるなら、Cランク程度の腕はあるんだろう。


 そしてライゼがこっちを見た。

いつも読んで下さりありがとうございます。

面白い、また読みたいなど少しでも続きが気になりましたら、ブックマークや広告下にある「いいね」やポイント評価をよろしくお願いします。

また、感想や意見があると励みになります。


昼過ぎにもう一話更新します。

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