エピローグ Search――b
「なら、問題はなさそうだな」
「……トレーネさんは了承しているのですか?」
そういえば、トレーネって何処にいるんだろ。
俺はトレーネを感知できないのだが。
「ああ、冒険者ギルド側が既に交渉したそうだ。四時間後、トレーネが雑事を終えてここに来るらしい。そして二人共ども地下水路を伝って街の外だ」
「……そうですか。では、それまでに色々と準備をしたいので厨房を貸してほしいのですが」
「厨房だと?」
エーレは胡乱な瞳をライゼに向ける。
ライゼは“空鞄”を召喚しながら頷く。
「はい。魔法薬や治癒薬といった備蓄が全くないので最低限数だけでも作っておきたいのです。それと一週間分の携帯食料も」
「……魔法袋系の力か。そういえば、ヘルメス殿が魔法袋を幾つかぶら下げていたな。そうか、物資はまだあるのか」
「ええ、まぁ。ですが、既に物資は可能な限り――」
俺達だってめっちゃやりくりして一週間分だ。
今ある保存食三日分を調理することによって一週間分へと無理やり引き延ばすのだ。次の町まで山菜や動物が手に入ればいいが、この街の周囲一帯は魔人や魔物との抗争のせいで焼け野原となり、動物たちも逃げ出してしまっている。
命の切り売りは流石にできない。
というか俺が止める。
「――分かっている。……すまない。本来なら食料などを支給したいところなのだがな」
「ええ、大丈夫です」
ライゼは頷く。
というか、今食料などを支給されてもそれはライゼが支給した物資の一部が返ってくるという事だ。意味がない。
「それよりそちらの物資はもつのですか?」
「ああ、問題ない。先にもいったが、王国軍がやってくるからな」
「そうですか。それで厨房は借りられそうですか?」
少しだけ目を瞑って考え込んだ後、エーレは頷いた。
「……問題ない。シアン、頼む」
「畏まりました。……ライゼ様、こちらへ」
シアンはライゼを誘導する。
ライゼはエーレに一礼した後、立ち上がり、“空鞄”を消した。俺は部屋の端に置いてあった魔法袋や旅行鞄を〝物を浮かす魔法〟で横腹にいつも通り付ける。ライゼの後に付く。
「と、そうだ。少しだけ待ってくれ」
と、そして部屋を出ていこうとしたライゼにエーレが一声かける。
「我はこの後公務に戻らなければならない。ライゼ殿と顔を合わせるのはこれで最後だろう。だからこれを渡しておく」
そして楚々とした動作で立ち上がり、懐から銀色のコインを取り出してライゼに差し出した。
ライゼは訊ねる。
「これは」
「破邪剣を改造した結果の産物というべきか、ある一定の魔物や邪の命を刈り取ると、微小ながらも破邪の力を宿したコインが創られる。これは今回の魔人騒動で我が狩った魔物と魔人の結晶だ。直接褒賞は渡せんからな」
ああ、確かに破邪剣の刀身がもつ銀の美しさがそのコインにはあった。
破邪の力の方はあまり分からないが、感知精度を最大にして探ってみればコインの中に抑えられているが、高密度の魔力と闘気が宿っている。たぶん、その魔力と闘気を解放すると破邪の力が現れるのだろう。たぶん。
「……ありがとうございます」
「うむ」
ライゼはそれをすんなりと受け取った。受け取れるものは受け取れるだけ受け取る。それにここでいらないと断るのも度量がないし、エーレに失礼である。
そしてライゼがコインを受け取ったのを確認したエーレは放出していた魔力と闘気を抑えて、静かに部屋を出ていった。
俺達は数分だけ待って、ゆっくりと出ていった。
その時にはライゼは俺が血糊などを落としておいた飛行帽を被っていた。
Φ
四時間後。
最低限の治癒薬や魔法薬、携帯食料などを作り終えたライゼは、与えられていた部屋で荷物の整理を行っていた。
魔法袋の幾つかは冒険者ギルドや騎士たちに渡してしまい、手元にはない。返してもらうのも面倒なので放っておく。
だが、無くなった分の物資が減ったとはいえ、荷物は結構多い。
戦闘用の魔道具やその整備用の道具や魔道具。料理やテント、ブランケットや寝袋。鍋や木のお椀など。
“空鞄”には着替え一式と最低限の食料、それと“宝石倉”に大事な魔導書や本がびっしりと入っている。
それらを手早く取り出せたりできるように荷物を入れ替えたりしている。
俺はそれを尻目に〝視界を写す魔法〟で撮った写真を整理している。主にライゼの写真ばっかりだが、景色の写真なども多く仕分けが面倒である。
俺に与えられた写真用の魔法袋一つだけにはそれらの写真を収まりきらず、他の魔法袋も使っていたのだが、荷物が入らないと言われて俺は不承不承整理している。
適当に、されど俺だけが分かるように写真を突っ込んでいたため、整理が面倒なのだ。
写真をダバ―ッと広げて、あーだこーだと呟きながら〝物を浮かす魔法〟で整理を行っていく。
いや、ホント、暇があったらアルバム作ろ。空間関係の魔道具は殆ど作れていないが、挑戦してみるか。“宝石倉”を作ったことで技術も高まっただろ。
そんな風に俺達は旅の準備をしていた。
そしてトレーネがやってきた。
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