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十四話 勇者の剣と破邪剣

「それで結局、その混沌派と呼ばれる魔人は何でそんなことをしたのですか?」

「うむ、勇者の剣を破壊するためらしい」

「破壊ですか?」


 ライゼはコトリと首を傾ける。

 エーレは悩むように目を伏せ、そのあと思案顔になってライゼの額に生えている角を一瞥し、言った。


「ああ、特定の種族以外がもてる人類の最終兵器。それが勇者の剣。それは知っているよな」

「はい」


 特定の種族とは子鬼人と竜人。

 竜人がもつ魔力は性質的に強すぎるがゆえに勇者の剣がもつ力と反発してしまうから使えない。そして子鬼人は普通に使えない。使うための資格が種族全体にないって言った方がいい。


 レーラーからそう聞いた。

 因みに、深き森人(ハイエルフ)のレーラーも力が反発して使えないらしい。レーラーは女神の系譜を持っているから使えるかと思ったのだが、神聖魔法がそこまで使えないのと同じ理由らしい。


 まぁ、どういう理由かはまだハッキリと聞いていないが。


「そして勇者の剣は女神様が与えし剣です」

「そうだ。そして破邪剣は勇者の剣と同時に女神様から頂いた勇者の剣の模造剣なのだ」

「……模造剣ですか?」


 エーレは艶やかな長髪を少しだけ揺らしながら、紅茶を口に含んだ。

 俺はクッキーを口に含む。お、紅茶のクッキーなのか、とても美味しい。


「ああ、これは破邪剣を受け継ぐ者しか知らない。他の人類には伝達できないようになっている」


 ……俺は人類側じゃねぇってわけか。

 まぁ、当たり前だが。


「え、じゃあ何でぼ、私が聞いて……」

「それはライゼ殿が子鬼人だからだ」


 ライゼは少しだけ深呼吸する。

 思わず素が出たからな。


「……こほん、何故子鬼人だと大丈夫なんですか?」

「それは破邪剣の特徴にある。先程破邪剣は勇者の剣の模造剣だと言ったな」


 ライゼはコクリと頷く。

 エーレはそれを確かめた後、少しだけ投げやりに言う。


「だが、そもそも勇者の剣がこの大地に存在する理由は、遥か昔に世界を襲った巨大な邪悪を打ち祓うために、女神様が勇者と呼ばれる人族の少年に授けたからだ。しかし人族の少年一人だと心許ない。それ故に、女神様は森人(エルフ)岩人(ドワーフ)、獣人、竜人の各人物一人一人に、勇者の剣の四分の一程度の力をもつ破邪剣を渡した」

「……力を落としたから、竜人も破邪剣を扱えるのですか?」

「ああ、そうだ」


 ライゼはフムフムと頷く。

 クッキーを何度も手に取る。


「それでだ、女神様はそれでも邪悪を撃ち滅ぼせるか不安だったらしい。女神様であろうものがな。だが、女神様にはそこまで力が残っていなかった。勇者の剣一本と破邪剣四本、流石に力を使い過ぎたらしい」


 そう言いながら、エーレは腰に差していた騎士剣をライゼに差し出す。たぶん、それが破邪剣だ。

 ライゼは少しだけ戸惑いながらもそれを受け取る。


「抜いてみろ」

「……はい」


 ライゼは静々と剣を抜く。銀に色めく美しい騎士剣が現れた。

 俺はその艶めきと美しさに感動するが、ライゼは驚いている。


「え、どうして」

「それが、女神様が不安から生み出した保険。破邪剣には素質や才能がなければないほど、使い手に破邪の力を持たせるのだ。また、身体能力を強化させたりする。力を消費した女神様は発想の逆転というべきか、素養が強い程破邪剣の力をセーブする様に呪いを掛けたのだ。何でも負の要素を入れると、力の消費が少なくなるらしい」


 あれか。

 たぶん、その邪悪によって強い戦士たちが死んだ際に、それでも邪悪に対抗する手段が欲しかったんだ。

 だから、弱い程、素質がない程力を引き出せるようにした。たぶん。


「つまり、私はそのセーブが殆ど取り払われた状態という事ですか?」

「そうだ。そしてその呪い影響は案外強く、破邪剣に込められている他の呪い、例えば他者に破邪剣の経緯を伝達させないなどといった呪いをも越えるらしい。まぁ、たぶんだが子鬼人だからこそだろう。他の種族だとこうはいかない」


 ライゼは再び剣を鞘に納めてエーレに渡す。

 エーレは剣を受け取る。


「とは言っても、我もそれを確認したのは今なのだがな」

「え、それって答え合わせのために私を」

「まぁそれもある。我はこう見えて好奇心が旺盛なのだ」


 エーレは少しだけフフンと鼻を鳴らした。

 というか、気になるなら普通にどっかの子鬼人でも連れてくればいいだろ。


 と、思っていたら先程部屋を出ていったメイドさんが、銀のワゴンを押して部屋に入ってきた。

 ワゴンの上には、水差しと焼いた白パン、目玉焼きにお肉などがそれぞれ置いてあった。


「ライゼ殿、どれだけ食べる?」

「えっと、白パン三切れと目玉焼二枚とお肉を一皿分お願いします」

「シアン」

「畏まりました」


 ライゼは少しだけ申し訳なさそうにシアンと呼ばれたメイドさんに頭を下げる。

 いつものライゼなら自分で取り分けるのだろうが、一応目の前にいるのは貴族であるエーレ。向こう側に恥をかかせるわけにはいかない。


「でだ、本題に戻るが五十九年前、彼の勇者エルピスによって魔王は討たれた。しかも勇者エルピスは勇者の剣を持っていた」

「……そうらしいですね」

「そしてその際、残党の魔人たちが勇者の剣を破壊しようとしたらしい。自分たちを簡単に滅する力を持つ剣だ。邪魔でしかない。しかし、失敗した」

「……そうなんですか」


 初めて知ったな。

 レーラーは教えてくれなかった。


「だが、運が良い、いや、こちら側からしたら悪い事なのだがその魔人の一人に解析が得意な魔人がいた。そしてその魔人は勇者の剣を壊す方法を知った」

「それが破邪剣での破壊ですか」

「ああ、正確には四本の破邪剣の力を使ってだ」

「なるほど、そういう事でしたか。……あの、少し気になるのですが他の破邪剣は……」

「既に魔人の手にある」

「……そうですか」


 マジか。

 面倒だな。

いつも読んで下さりありがとうございます。

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