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十三話 暗躍

「さて、まずは今回の騒動から話した方がよいだろう」


 少しだけ音を立てながら紅茶を口に含んだエーレが静かにライゼを見て言った。

 ……改めて見ると麗人って言葉が似合うほどの美しさだな。真っ赤な長髪に深紅の瞳、凛々しい顔立ちに纏う雰囲気。


 俺が人間だったらカチコチになってしまったんじゃねぇか。

 まぁ、今の俺はトカゲだからあんまり人が纏う雰囲気とか気にしなくなったんだが。悲しいような嬉しいような、変な感じだ。


「おねがいします」

「うむ」


 ライゼは出されたクッキーを口に含んでいる。上品にクッキーを手に取っているが、明らかに食べる速度が早い。食いしん坊みたいだ。

 ライゼはライゼで豪胆だよな。普通、紅茶とクッキーを出されたとはいえ何も確認せずに食べるとは。


 ……あ、そう言えば丸二日寝てたんだ。

 そりゃあ腹が減るか。


「……シアン、軽い軽食を」

「承知いたしました」


 そしてそれに気が付いたエーレは失念していたと思ったのか、少しだけ眉を歪めながら傍に控えていたメイドに鋭く命令する。

 メイドはすぐさま自然な動作で部屋を出ていった。


「あ、だ、大丈夫ですよ。お腹はそこまで空いていませんし」

「いや、本当に失念していた。すまない」


 エーレが頭を下げる。

 話が進まないことにライゼは少しだけ眉を下げる。


「……顔を上げてください。それより今回の騒動の発端を教えてください」

「うむ、分かった」


 そしてエーレは淡々と話し始めた。


 始まりは五か月前。ウォーリアズ王国の東、海に接する領地をもつファーバフェルクト領地に起きたちょっとしたトラブルだった。

 とある港町に爆雷魚という魚系の魔物が大量発生したことだった。


 エーレはその港町の町長からその報告を受け、第二騎士団を派遣した。

 ファーバフェルクト領地では、領主と騎士団に対しての信頼が高く、武力関連で困りごとがあった場合、またそうではなく些細な困りごとでも町長などがエーレに報告する仕組みができていた。

 両者の信頼関係によるシステムである。


 そしてそんな信頼関係によって派遣した第二騎士団は、港町の漁師からの全面的な協力のもと一ヶ月足らずで爆雷魚を倒したそうだ。

 それでめでたしめでたしと終われば良かったのだが、何とその一ヶ月の間に同じような事が同時にいくつもの場所で起こっていた。


 そしてファーバフェルクト辺境伯が持つ騎士団、全十三騎士団の内、九の騎士団が沿岸部に派遣されたのである。

 ……これって俺達が年越し前によった港町でも同じような事が起こってたけど。


「……あの、説明の途中すみません。少しだけ良いですか? どうしても聞きたいことがありまして」

「うむ。なんだ」

「元々この地域には飛雷魚という魔物が生息していませんでしたか?」


 やっぱりライゼもそれが気になってたか。


「……生息はしてないな。だが、年越し前になるとヒメル大陸の方から、我がファーバフェルクト領地の海岸線やナファレン王国の北部に――まさか」

「はい、ナファレン王国の港町で例年よりも数十倍近い飛雷魚が確認されまして」


 確か爆雷魚は飛雷魚の上位種だったはずだ。本来は南下することによって冬を越したりするのだろう。それか産卵のためか。

 まぁ、どちらにしろ爆雷魚が現れたことによってナファレン王国の港町に集まったのか。


「なるほど、近々ナファレン王国と連携を取らなければならないな。ライゼ殿、情報感謝する」

「いえ、話の腰を折ってしまってすみません」


 二人とも紅茶を口に含んだ。

 俺はライゼが時々渡してくれるクッキーを食べる。


 そしてエーレは話を続ける。


 結局のところ、その爆雷魚は魔人が操った魔物だったらしい。

 また、このファーバフェルクト領地に繋がる道や重要な街道などに上位や聖位の魔物を派遣してさらに戦力の分断を図ったらしい。凍結華鳥がいた理由はたぶんこれだろう。


 人の流入を減らし、物資をある程度不足させ、また冒険者などといった戦力の流入も低下させる。

 冬であったことが災いしてか、エーレはそれらの対処が後手に回っていた。寒さや雪などによって情報の伝達が遅れてたらしい。


 ただ、エーレは沿岸沿いに普通は生息していない爆雷魚が大量発生したときに何かきな臭いと思ったらしく、物資を多めに仕入れたり、また冒険者を適当な理由でこの地からの流出を防いでいたりしたらしい。

 ファーバフェルクト領主は大抵、戦に関する嗅覚が優れているらしく、代々きな臭いと思ったら根拠が全くなくとも全力で備えなさいという家訓が受け継がれているらしい。


 変な家系である。

 まぁ、その変な家系のお陰で魔人たちの計画は大成功せず、最低限の成功になったらしい。


 今回ファーバフェルクト領地を襲った魔人は、魔王復活派という存在らしい。魔人にそんな組織らしい派閥がある事を初めて知ったのだが、冒険者ギルドが内密に調査していた情報を、エーレが無理やり引っ張り出したらしい。

 そしてその魔王復活派は、ファーバフェルクト領地の領主が持つ破邪剣が邪魔だったらしい。


 なので、彼らはエーレがもつ破邪剣を壊すために色々としていたらしい。ついでに、人間の中でも強い武力を誇るファーバフェルクト領地を壊滅状態に追いやり、人間を殺して喰えればいいな的な事も考えていたらしいが。

 まぁ、それは置いといて魔人たちは精力的に戦力を分断させたり、物資を不足させたり、なんだかんだとしたらしい。ファーバフェルクト領は破邪剣をもつだけでなく、普通に軍事力としても強いらしく、驕ることが本分の魔人たちも計画を練って行動していたらしい。

 

 分断した戦力の中、魔物を操ってファーバフェルクト領の首都、破邪剣をもつエーレがいるこの街を襲ったらしい。

 だが、その時トレーネがいたり、エーレが変な嗅覚で着々と準備を進めていたおかげで奮闘し、魔人たちは撤退。と、見せかけて、地下水路に入り込み、一気に本拠地を狙った。という事だ。


 全ては、魔王が復活した時に邪魔になるであろう、あらゆる魔や邪を滅する破邪剣を壊したかったから。


 というのが魔王復活派の表向きの理由。

 今回の黒幕は魔王復活派の魔人たちではなく、混沌派という個々好き勝手にする魔人の一人らしい。魔王復活派の魔人はその混沌派の魔人に良いように操られていたとか。むなしい。

 

 で、トレーネがそれを突き止めたのだと。神聖魔法で尋問したらしい。恐ろしい。

 にしても、レーラーの話だと魔人って本来の性質上個々好き勝手に動くって話だったんだなと思った。

 ライゼも少しだけ片眉を上げていた。

いつも読んで下さりありがとうございます。

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