プロローグ Fledged――b
第一部:アイファング王国編の始まりです。
それと投稿ミスではありません
そしてその日も、冷たく降り注ぐ雨の隙間から天使の梯子が降りた。
丁度、俺とライゼだけを照らすように、雨の中俺たちにだけ天の光が射し込んだ。
いや、俺とライゼだけじゃない。老人の墓にもその光は射し込んだのだ。
『終わったか?』
『うん、ヘルメスも?』
『ああ』
俺たちはその天使の梯子には何も触れることなく、静かに立ち上がった。
ライゼが肩に乗っている俺を優しく見つめる。灰が混じったこげ茶色の髪は雨に濡れていて、しかし、こげ茶の瞳は光に溢れている。
少なくとも、歩むことをやめる瞳ではなかった。
『なぁ、これからどうするんだ?』
俺は訊ねる。
思いを描く仲間に訊ねる。俺はその思いを見ていたい。
『僕はね、僕は魔法が好きなんだ。先生が僕の魔法を褒めてくれたんだ。喜んでくれたんだ』
そして、その言葉と共に空が晴れる。
ライゼは顔を上げる。
『これだよ!』
ライゼの掌から色鮮やかな蝶々が舞い上がった。
赤、黄、緑、青、紺、虹、白、金。
様々な羽を輝かせた蝶がライゼや老人の墓の周りを飛び回る。露に濡れた世界を祝福するかの如く煌きながら飛び舞う。
そして、蝶は宙に溶ける。
『……綺麗だな』
俺は感慨深く呟く。
『うん、そうなんだ。綺麗なんだよ、この魔法は』
俺の呟きにライゼが心から万感の思いを零すように呟く。
そして、瞳を若干下げる。
『けどね、この魔法はくだらない魔法なんだ』
『……くだらないだと?』
こんなに綺麗なのに、美しいのにくだらないとはどういうことだ。
だが、くだらないといったライゼは嬉しそうに俺に微笑む。どこに、微笑む要素があるんだ。
『うん。さして誰かの役に立つわけでもない。誰かを守れるわけでもない。使えなくたって問題ない、使えたところで意味もない。そういう魔法なんだ』
『……だからと言って――』
こげ茶の瞳が真っ直ぐ俺を射貫く。
『――けどね、くだらない魔法を喜んでくれた人がいたんだよ。褒めてくれた人がいたんだよ。そして、今、綺麗だって言ってくれた』
ライゼは微笑むだけでは飽き足らず、俺に満面の笑みを向けた。
俺はその表情に、言葉に尻尾を一振りする。目を見開く。
そして、昊を見上げた。
俺もつられて昊を見上げる
『だから、魔法使いになりたいんだ。くだらない魔法で多くの人を喜ばせる魔法使いになりたいんだ』
昊に手を伸ばす。はるか遠くの『なにか』を掴むために精一杯、手を伸ばす。
『そのために、たくさんの『くだらない魔法』を学びたいんだ。丁度、僕は王都にいる。だから、王立魔法学園に入ろうと思うんだ。まぁ、年齢制限で四年後になるけど』
『……そうか。けど、孤児が学園に入れるのか』
夢を見ることは素晴らしい。けれど現実を見ることができなければ、決して夢は叶わない。
そして多くの人が現実を見ない。だって辛い世界にしか現実はないんだから。
『入れるよ。相応の学力と多額のお金が必要だけどね』
けれどライゼのその呟きには、夢に魅せられた弱さはなく、地に足のついた強さがあった。芯があった。夢は望むものではなく、掴むものだと。
『なら、両方とも手に入れないとな』
ならば、後は現実を見て、その目標に向かって一歩ずつ歩けばいい。昊にある『なにか』を掴むために、一つ一つ階段を建てていけばいい。
幸運なことに、それはひとまず一つ目の階段を作れないことはないようだ。少なくとも作れるという保証はあった。
それにライゼ一人では無理かもしれないけど俺がいる。
『うん。だから、ヘルメス。これから忙しくなるよ!』
そして、昊に伸ばした手は、強く自分の心臓の前で握られる。
そして、昊を見上げた顔は、真っ直ぐと前を見る。
ライゼは歩き出した。
後には『希望あれ』と掘られた墓が、応援する様に濡れた露を煌かせていた。
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この話はこの章の最終話です。章の最後まで読めばきちんと話が繋がります。
ですので、この章だけでも読んで下さると幸いです。
また、夜の九時にもう一話投稿するつもりです。
また、毎日投稿するつもりです。