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どうして帰らないのでしょう?

 名誉ある死を宣言されまして、前国王はティーム兄様を睨んだまま、渡された毒杯を、『誓い』の強制力によって飲み干し、絶命しました。

 その事を拡声魔法によって宣言したところで、一度拡声魔法を切り、マロン様とマリナ様が一緒に入れられている牢屋に向かいます。

 前王妃様は、お亡くなりになった国王陛下の傍について、冥福を祈りたいとおっしゃったので、魔導士を二人残してきております。


「兄上っ! 先ほどのは、どういうことですか! 父上を殺すなど!」

「マロン、父上は此度の戦争の責任をとって、名誉ある死を賜った。本来なら、国民の前で処刑されていてもおかしくないのに、だ。四ヶ国の恩情に感謝すべきだな」

「そんな! 死ぬ事で全てを解決するなんておかしいわ! そ、それにあたしは王族じゃないもの。死ぬ必要なんてないわよね!」


 マリナ様の言葉に、ティーム様はわたくし達を振り返りました。


「マロン殿とそこのマリナ殿の事に関しては、ティーム殿にお任せしますよ」

「ありがとうございます。マロン、お前は生きたいか? それとも、死にたいか?」

「い、生きたいに決まっているだろう! どうして何もしてない俺が死なないといけないんだ!」

「ならば、魔力封じを施し、皇国との間にある魔の森に追放する」

「なっ! そんな事をすれば死んでしまうじゃないか!」

「ミレイアはその状態で、生き延びている。今までちゃんと剣技の訓練をしていれば問題はないだろう」

「そんな……」


 マロン様は絶望したように茫然としております。

 婚約者であったので知っておりますが、マロン様は騎士や兵士に混ざっての訓練など馬鹿らしい、それでいて、個人訓練に関しても、王都に居て安全が保障されているのに、無駄な事に時間をかける必要はないと、なにもしておりませんでした。

 剣を握ったことも、片手で足りる回数しかないのではないでしょうか?

 魔法に関しては、いずれジュピタル公爵家に婿入りするという事で、それなりに学んでいたようですが、魔力を封じられるという事で意味はなくなってしまいますね。


「あたしは、あたしは聖女よ! もちろん見逃してくれるんですよね! そうでしょう、ティーム様!」

「君は、マロンと生涯を誓ったんじゃないのかい?」

「そ、れは……。でも、こんなのおかしいでしょう! あたしはヒロインの立ち位置なんだから、幸せになるべきなのよ。マロン様は王子様だったから選んだだけ、もうこの国がなくなるんだったら、必要ないわ!」

「マリナ!?」

「そ、そうだ。ワーグナー様、なんの障害も無くなりました。あたしをお嫁さんにする為にこんな戦争をしたんですよね。こんなことをしてまであたしを欲しがってくれて嬉しいです」

「は?」

「マロン様はあたしの運命の人じゃなかったんですよ。所詮は当て馬的な存在ですね。もしくは序章? 学園編が終わって、正式に聖女編になったんですね。あたしの為に争わないでください!」

「ねえ、ミレイア。僕にはこの女が言っていることが理解できないんだけど?」

「ワーグナー様、わたくしも生憎理解できませんわ」


 本当に、マリナ様は何を言っているのでしょうか。

 今回の戦争は、マリナ様の為に起きたものではないのですけれども、マリナ様の為に争わないでとは、全くもって意味不明ですわ。


「ミレイア、マロンに魔力封じをしてもらってもいいかな」

「かしこまりました」

「やめろっ!」


 マロン様の言葉を無視し、わたくしはマロン様の魔力を封じます。

 わたくし以上の力で解除することは可能ですが、今のところ難しいでしょうね。

 体内の魔力を感じなくなったのか、マロン様が茫然と自分の手を見つめていますと、マリナ様が鉄格子を掴みました。


「あたしは関係ないわ! あたしは被害者なのよ! 何も知らないのにこの世界に連れてこられて、利用された被害者よ!」

「そうですわね。マリナ様は前国王の身勝手さに振り回されてこの世界に来た被害者ですわ」

「そうでしょう!」

「けれど、わたくしずっと不思議に思っていることがございますの」

「なによ」

「マリナ様は、一度も元の世界に帰りたいと言っておりませんわよね?」

「それはっ」

「わたくし、マリナ様に言いましたわよね? ジュピタル公爵家の名にかけて、マリナ様が望むのであれば、全力で帰還方法を探すと。けれども、マリナ様は、必要ないとおっしゃいましたよね」

「だ、だって……」

「だって?」

「別に元の世界とかどうでもいいし、この世界ではあたしはヒロイン扱いだし、この世界の方がいいもの」

「今の状態をもってしても、そのようなことが言えまして?」

「言えるわよ! 元の世界に帰ったら、お姫様みたいな生活が出来なくなるんでしょ! そんなの冗談じゃないわ!」


 マリナ様はそう言って、わたくしを睨みつけてきますが、この国が敗戦国になった以上、今までのような生活が出来ると言うわけではないのですが、お分かりではないのでしょうか?


「マリナ様、この国は敗戦国となりました。マリナ様を引き取った侯爵家も、その責任を取らされます。領地が残るのかも、財産が残るのかもわかりません」

「だからなによ」

「今までと同じ生活は、保障されていないのですよ。それでも、この世界に残りたいのですか?」


 確認の意味を込めてマリナ様に問いかけますが、マリナ様は「当たり前でしょう!」と繰り返しおっしゃいました。


「もう一度言います。同じような生活は、出来ない可能性が高いのです。それでも、元の世界には帰らないという事でよろしいのですね?」

「そうよ! しつこいわね! そんなんだからマロン様に振られるのよ!」

「……わかりました。マリナ様はどのようなことがあっても、この世界に残ると」

「そうよ!」

「皆様も、それでよろしいですのね?」

「『渡り人』がこの世界にとどまりたいと言うのであれば、それでいいだろう」


 代表してワーグナー様が頷きます。


「それで、マリナ様は今後どうしたいですか?」

「どうって?」

「ラーゼフォン王国はなくなりました。四ヶ国は、身勝手とは思いますが、マリナ様を受け入れるという選択をしておりません。国を越えていくと言うのなら、ご希望の国に送り届けましょう。マロン様の傍に居たいと言うのなら、マロン様の傍に居ることが出来るようにいたします」

「どういうこと? あたしはワーグナー様のお嫁さんになるのよ」

「僕のお嫁さんはミレイアだけだよ。言っておくけど、四ヶ国は君を受け入れない」

「どういう事よ!」

「言ったとおりだ。他国に行くのであれば、亡国の侯爵令嬢、もしくは亡国の王子の婚約者であったという身分証明をしておく」


 ワーグナー様の言葉に、マリナ様が眉間にしわを寄せます。


「ふざけないで!」

「なにがかな?」

「身勝手にこの世界に呼んでおいて、このあたしに対する誠意をみせなさいよ!」

「元の世界に戻ることを拒絶したのは、君だろう?」


 ティーム兄様の言葉に、マリナ様はさらに鉄格子を力強く握りしめました。


「こんなの卑怯よ!」

「では、元の世界に帰りますか?」


 わたくしは改めて首を傾げて、マリナ様に問いかけます。

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