獣人ナンバー④ 教頭ちゃん
ナオは、何度も何度もママに謝っていた。土下座までして。ゴチン、ゴチンと床に頭をぶつけていた。ママは、そんなナオを笑って許した。
帰り道。
まだナオのことが心配だったので、家まで一緒についていくことにした。それに最近、全然話が出来なかったし……。
「ねぇ………」
前園さんのこと、好きだったの?
「なに?」
「ぅ……ん? う~ん。はぁ~~、良い夜だね~。風が、気持ち良い」
「うん。気持ち良いね。ヒンヤリしてて」
「ちゃんと帰ったら、うがいと手洗いするんだよ?」
私は、ナオのこと大好きだよ。 ……殺したいくらい。この中途半端な関係。ほんと、キツイ。
「子供扱いが、激しいなぁ。………あのさ、ナナ。あの………。こっ! ここ、今度の三連休……。日曜に、二人で遊びに行かない?」
「ひぃっっっ!?」
「いやいやいやいや、そんなに驚かなくても。予定があるなら別にいいんだ。そっち優先でさ」
「私とあなたの二人きりですか?」
「うん。あまり遠出は、出来ないだろうけど。模試も終わったし。気分転換に。どう?」
「……………………」
「聞いてる?」
「……………」
「ナナ?」
ダッダッダッダッ!!!!
私は、全速力で走った。飛び上がるほど嬉しくて。ナオは、ちゃんと私を見てくれてた!!
それだけで、幸せが大爆発。
「っ…………と。で、結局。OKなのかな。走って、行っちゃったけど」
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かなりの上機嫌で帰ってきたナナちゃん。
「何か良いことあったの?」
「うえっへへへ~」
愛する娘の笑い方が、すごく気持ち悪かった。
でも、こんなにも幸せそうな顔を見て安心した。
今日が終わる少し前。私は、ちょ~と夜の散歩に出かけた。町外れの何とかって言う小高い山に登る。頂上から見下ろすと暗い町を一望できた。
「はぁ~~、気持ちいぃ」
この町は、ずっと変わらないな。
「やっぱり、ここだったんですね。はぁ~、年寄りにはキツイですよ。この時間に、この坂は……はぁ……」
初老の男性。
彼は一応、学校では教頭という肩書きを持っている。白髭が生えた顎をジョリジョリ触りながら、面倒臭そうに私の横に来た。
「教頭ちゃん。私ね、ここから見る景色が一番好きなの。派手過ぎず、地味過ぎず。都会過ぎず、田舎過ぎず。ほんと、平均的な良い町よね。ここ」
「そうですね~。ところで、校長。こんな夜中に私を呼びだして一体、何の用事ですか? また、厄介なことに首を突っこもうとしているみたいですが……。勘弁して下さいよ」
教頭は、長いタバコに火をつけた。やけに濃い煙が、どこまでも高く昇っていく。
「私と一緒に彼らの日本支部を襲ってもらいたいの。最近、彼らさぁ……。この町で好き勝手やってるから。私の大事な生徒も一人殺されたしね」
「う~ん」
「少し、キレちゃったの」
「穏やかじゃないなぁ~。奴等の構成員は、二百を軽く超えているんですよ? しかも、全員戦闘訓練を受けたプロだ。オリンピック選手レベル、いやそれ以上に肉体をヤバい薬で強化してるし。それを私とあなたの二人だけで?」
「嫌なら別にいいよ」
「別に嫌とは言っていません。ただ、あなたのような、か弱い女性は足手まといだなぁ……って」
「あっ! ひっどいな、その言い方」
「それに汚れ仕事は、昔から私の役目ですからね。一週間ください。その間に何とかしましょう」
「はい。分かりました。じゃあ、お願いします。気を付けてね」
「ふぁあぁ~眠い。では、また明日」
「うん。おやすみなさい」
教頭は、淡い夜に溶けるようにぬらっと目の前から消えた。梟が、鳴いている。
この戦争。
勝っても負けても地獄になる。今回の復讐劇で、いったいどれだけの血が流れるだろう。