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獣咲く  作者: カラスヤマ
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狩人の記憶③

獣人を一人残らず、この世から抹殺する。俺は、深い闇の中で誓った。



1ヶ月後ーーーー。



俺は、獣人を狩る政府公認の組織に雇われた。俺に薬を提供した、あの男も所属する狂った組織。組織の幹部クラスは、法律さえ片手でねじ曲げる圧倒的な権力を持つ。本気になれば、大国に戦争を仕掛けることも可能だろう。



今の仕事は、とてもシンプル。


獣人を見つけ、上司に報告すると50万。自分の手で獣人を殺ると200万が、現金で即支払われる。俺は今、サラリーマンをしていた頃の十倍以上の金を稼いでいる。



深夜二時半。


俺は、ある会員制パーティーに参加していた。参加者は、男女合わせて十人程度。会場に入る前、厳しいボディーチェックをされた。獣人かどうかのチェック。


獣人だけしかこの中には入れない。



薄暗い会場。赤いスーツを着て、マイクを握る司会進行役の大男。壇上にある巨大モニター。

血と獣の臭いを誤魔化す為のお香が、室内に何個も設置されていた。甘すぎるシャンパンを一気に飲み干す。



「さぁッ! いよいよ。いよいよですよ、皆さん。本日のメインイベントぅ、始まりです!! 奮って、ご参加ください。ナンバーワン。まず最初の品は、コイツだぁッ!」



モニターに映し出されたのは、冷たい床に横たわる少女。死んではいないだろうが、足枷をはめられて、罪人のような格好をしている。ちゃんと食事を与えられていないのだろう。ガリガリに痩せ細っていた。



「では、50万からスタートです」



俺たち参加者は、事前に赤色と青色のカードを主催者から渡されていた。

赤は、10万ずつ金額が増え、青は、50万ずつ増えていく。この場所では、不定期に非合法の人身売買を行っている。参加者は、全員獣人。しかも、有名人や政治家など。さまざまなタイプの勝ち組が集まっていた。



「No.4様が、110万で落札です。おめでとうございます!!」



怒りを通り越し、絶望した。人の命をコイツらは………。自分達の空腹を満たすために奪う。



殺してやる。害虫のように。



俺は、殺気を抑え、チャンスを待った。



「では、これが最後の品となります。今後の開催は未定ですので、ぜひ皆様ッ。本日の目玉商品を競り落として下さいッ!!」



巨大モニターに映し出されたのは。



俺たちがいる会場。そして、一人一人のアップ画像だった。どうやら、仕事仲間の画像の差し替えが間に合ったみたいだ。


「っ!?」


「チッ………」


「クックッくッ」


それまで無言だった獣人達が、足早に会場の外に出ていく。もちろん、外には組織のメンバーが罠をはり、待ち伏せしている。逃げることは出来ない。俺たちは、獣人を捕らえることに特化したプロだから。


問題なのは………。

自分達がはめられたと気付きながら、まだ逃げずにこの会場にいる者たちだ。彼らには、絶対的な自信がある。俺達を足下でうろちょろしている蟻だとたかをくくっている。


俺は、自分の心臓を思い切り叩いた。意識が飛ぶほど強く。次第に溢れ出す、異次元の力。仕事仲間に聞いたら、あの薬で獣人と同等の力を得ることが出来たのは俺以外にいないらしい。他は、すべて副作用で肉体が耐えきれず死んだ。

これ以上にないハイリスク、ハイリターン。



眠っていた力を爆発させ、俺は相手に突進した。

まず、隣のテーブルで葉巻を吸っている爺さんの頭を掴み、片手で思い切りぶん投げた。体だけが壁にめり込み、首から上は、まだ俺の手の中に残っている。



まず、一人………。



俺に向かってくる若い女の獣人。



「おそい」



俺の目には、まるで静止画。アクビを噛み殺しながら、竹を割るように真っ二つにソイツの胴体を裂いた。悲鳴だけが、いつまでも俺の耳を不快にさせた。



残るは、アイツだけ……。



初老の男。見た目は、気弱そうで。人を襲う獣人には、見えない。でも俺には、今までの雑魚とは違う何か特別な力を奴から感じていた。



「強いですね~。若いって良いなぁ。惚れ惚れしますよ」


「……………」


俺は、奴の正面に立ち、殺すタイミングをうかがう。


「どうしました? 私も殺すつもりなんでしょ?」


「あんた………何だ?」


「ハハハッ、私はただの暇人ですよ。掘り出し物があったら、買おうと思いまして来ただけです」


「クズが」



俺は、左手に意識を集中させた。奴との距離をつめ、ソイツの心臓に突きさ……。



す………………。



「ほ~。なかなかの手刀だ。銘刀、銘刀」



枯れ枝のような奴の細腕に掴まれた。ビクともしない左手。


「お若いの。アナタは、確かに強い。強いが、ただそれだけだ」



ビュッッ。



俺は、地面に倒れた。

速すぎて、何をされたか全く分からない。



気絶する瞬間、俺を見下ろす奴の顔を見て。

忘れていた『恐怖』の二文字を思い出した。



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