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獣咲く  作者: カラスヤマ
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狩人の記憶①

小さなアパートの一室。



『ねぇ、パパ。私、これからバイトだからさぁ。夕飯は、いつもみたいに冷蔵庫の中のを温めて食べてね』



俺の娘……。


妻と死別した俺にとって、この娘が俺のすべてだった。生きる意味。



『あぁ。帰りは、気をつけろよ? あと、遅くなるようなら電話をしろ。夜は、危ないから』



『もうっ! そんなに子供扱いしないでよ』



県立高校に今年入学した娘。うちの経済状況を察し、レストランでバイトを始めた。



親思いのとても………優しい娘……だった。



『パパ? そんなに恐い顔してどうしたの?』



『あぁ、ごめん。ごめん。大丈夫だよ。ほら、もう行きな』



娘のマナが、家を出ていく。俺は、閉まった玄関のドア音をテレビを見ながら聞いていた。

それが、生きた娘を見る最後とは知らずに。



いつもと変わらない。普通の日常。

音もなく突然壊れた。



どうして、あの時。行くな!って止めなかったのか。後悔は、死ぬまで続くだろう。


何度も何度も何度も何度も、繰り返し自分を責めた。


ーーーーあれから、もう一年が過ぎた。



当時と同じ部屋なのに、この部屋で落ち着くことはもう二度と出来ない。


娘は、あの日。


姿を消した。今も見つかっていない。だが、理由は分かっている。娘は、数人の男たちに襲われた。そして、奴等に喰われた。知っているのは、父親である俺だけ。


あの時。娘の携帯は通話中になっていて、俺の携帯に繋がっていたから。


娘が喰われる一部始終を俺は、仕事終わりに電話口で聞いた。



『獣人』



この一年で俺は、あと一歩まで奴等『獣人』を追い詰めていた。慣れないパソコンを駆使し、俺と同じように大切な人を獣に殺された方達と情報を共有する。もちろん、すべてが役立つ情報ではないが、中には見逃せない有力な情報もある。その一つ一つをパズルのように組み合わせ、一年かけてやっと奴等の巣を見つけた。


今夜、俺は娘を惨殺した『獣人』に復讐する。覚醒した奴らには、拳銃やナイフなどの殺傷武器が効かない。常人をはるかに越えた身体能力を持つ……。俺たち人間は、奴らの周りを飛び回る蠅と変わらない。

普通なら、復讐する前に俺の方が奴等に返り討ちにされるだろう。



でも今の俺には秘策があった。

闇ルートから手に入れたこの薬ーー。


服の内側のポケットに忍ばせた注射器。短時間なら、この薬で俺も獣人と同等の力を手にすることができる。

この一本の薬を手にする為に、俺は全財産を使った。明日からは、帰る家もない。

まぁ、復讐が終わればこの世に未練もない。死ぬつもりだ。だから、関係ない。



夕方。



俺は喪服に着替えるとアパートを出た。電車を乗り換え、駅から数キロ離れた奴等が集まるコンビニを目指す。



しばらく、遠くから見張る。


一時間………。


二時間………。


辺りが、真っ暗になる。人通りも少ない。

その時、道の反対側から、走ってくる女がいた。

その女の表情から、ただ事ではないと分かる。物陰から様子を伺っていた俺の方に向かって走ってくる。歳は、15ぐらいだろうか。俺の娘と大差ない。少女は、必死に何かから逃げていた。



飛び散る汗と………涙。



何から逃げてる?

コンビニを見つけ、少し安堵したのだろう。駆け足で中に入る。彼女は、知らない。このコンビニは、魔の巣だと。

明るい店内。陽気な音楽。すべてが、甘い罠。

店内で作業中の店員二人。俺は、そいつらの顔を知っていた。

娘を殺した男たち。何度も資料で確認したから間違いない。

俺は、注射器を取り出し、腕をまくる。

覚悟は出来てるつもりだったが、注射器が小刻みに震えていた。



この薬を俺に提供した痩せ男。獣人を見つけ、処刑する組織の幹部らしい。奴の不快な笑みが、一瞬頭をよぎった。


間をおいた俺は、周囲の異変に気付く。辺りが、やけに静か。無音。



「!?」



コンビニの窓ガラスが、真っ赤になっている。ペンキじゃない。あれは。



血……。



どうなってる。奴等が、いない。



それに誰だ?

あの血で汚れた店内で、笑いながら漫画を見ている仮面の女は。

床に散らばる肉と骨。

娘を殺した男たちを紙のようにちぎった女。



俺は、見た。


本物の悪魔をーーーーー。



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