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とある倉庫。
そこに集まる六人の大人たち。
彼らは、一人を除いて全員武装していた。
この倉庫で今から重要な取引をする。
お互いの命を賭けて。
倉庫の外には、高級外車が数台と黒塗りの大型トラック。あとは、大型バイクが並んでいる。
トラックの荷台から下ろされた段ボール数十個。それらを倉庫内に運び入れた黒スーツ姿の屈強な男たちが、箱の中身を確認している。
そんなゴツい男に囲まれている背の低い女性。狼の群れに迷いこんだ子ウサギのよう。
その女性が男たちと身ぶり手振りで何やら話している。
女性は、箱から取り出した薬のケースを開けると、中身を取りだし、一粒口に含んだ。
カリッ!
固い梅干しを噛み砕いたような音。
女性は、しばらく咀嚼した後、背後で待機していた別の男たちを手招きした。
机上のスーツケースは、三個横に並べられ中身を晒している。中には、綺麗に並べられた大量の札束。
倉庫の隅で彼女の行為を見ていた小太りの男とそのボディーガードが札束をのぞきこんだ。
「あなたは、私の顧客の中でもかなり優遇している方だ………。がっ! しかし、今回の額では全く話になりませんな。私共としましても大変残念ですが、今回の取引はなかったことにしてもらいたい」
「優遇ぅ? フフ、つまらない冗談言わないでよ。薬の有効成分が、私の望むレベルじゃないんだけど。まぁ、この額でも破格だと思いますよ?」
女性は、一歩も引かない。強い意思を感じる。その女性を髭をさすりながら、見下ろす男性。
「いや~、参りましたなぁ。ハハハ…………。はぁ~。はぁ……………。あまり糞生意気なこと言ってると早死にするぞ、小娘」
「う~ん。困ったなぁ。………じゃあ、あなた方に2つ選択をあげます。どちらか選びなさい」
「は? 選択だと」
頭に太い血管が浮かぶ小太り。苛立ちが、全身から漏れでている。無言のボディーガードは、拳銃の照準を女性に合わせた。
「一つ目は、今すぐ金を持って素直にこの場所からバイバイすること。………二つ目は、この場で私に消されて、この世からバイバイする。さぁ、どっちがいい?」
小太りの男はサングラスを外し、それを左手で握りしめ、粉々に砕いた。
両目は、真っ赤に燃えている。
「こんなにバカにされたのは、初めてだ……。お前は、もう俺たちに死ぬまで凌辱され、金も薬も命も失うしかない。ハッハッハ、愚かな女にふさわしい最後だな!!」
小太り獣に。武装した傭兵。
はぁ~、早く帰りたいのになぁ。シャワー浴びたい。
「ほんとバカね」
ギッ………。
ギリッ…………。
手に残る不愉快な肉の感触。
「がっ……びふゅ……」
ドサッ!
私の右手に首を絞められ、絶命した男。私は、そのゴミを壁に叩きつけ、教頭に電話をかけた。教頭は、私が校内で最も信頼を置く人物。引退間近のヨボヨボ老人だけどね。教頭は、私達『獣人』を管理する団体の幹部でもある。
「あっ! おやすみ中でした? ごめんなさい。たった今、取引が完了したので……。はい、はい。その報告です。はい。……分かりました。では、また明日。学校で」
私は一度倉庫を見渡し、千切れた男の腕にはめられた高級時計で時間を確認した。帰る準備を進める。今回の取引で、生徒約200人分の薬を確保出来た。まぁ、業者が死んだのは誤算だったけど。薬の製造なんて、今では世界中で行っているから、また他を探せばいい。
「はぁ………ぁ……」
ヤバい。
先ほどのつまりない殺しで興奮した体が、火照っている。鏡を見なくても目が赤く変化していることが分かった。
私は、薬が入っている段ボールを無視すると倉庫の外に出た。夜の乾いた空気に混じる、甘く……、芳しい香り。
大好きな処女の匂い。
私は、バイクにまたがると目的の少女がいる数キロ先のゲーセンを目指した。
あぁ……美味しそうな匂い。
早く……早く……食べたいな。
………………。
……………。
……。
ごめんね、ナナちゃん。
ママね、もうお薬飲んでもほとんど効果ないの。だから、あなたには内緒で。こうやって、夜な夜な狩をしてるの。
こんなクズ過ぎるママだけど。
あなただけは、絶対に守るからね。
だから。
だから、誰よりも幸せになりなさい。