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獣咲く  作者: カラスヤマ
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赤い少女③

さっきまで降っていた黒い雨が止んだ。

私は、名前すら知らない町を裸足で歩いていた。広すぎるよ。この世界。あの真っ白な部屋とは大違い。



「……………」



どうしてあの女は、逃げようとした私を止めなかったんだろう?

私は獣人の敵で。絶対に殺さなきゃいけない存在なのに。



『これからは、自由に生きなさい』


優しく笑いながら、一言だけ。今までパパしか知らなかったけど、もし私にもママがいたら、こんな感じなのかなぁと思った。もちろん、あの人は本当のママじゃない。だけど今、私は温かい何かに満たされていた。



「……………」


逃げたは良いけど、これからどうしよう。分からない。


ねぇ、パパ。


パパ…………。


………。


私には、今まで何人ものパパがいた。一年同じパパもいれば、一週間で違うパパに変わったこともある。『パパ』と名乗る白衣を着た男達は、私に何度も何度も何度も何度も獣人を殺させた。獣人を殺すとご褒美にお菓子やケーキをくれた。

少しでも殺すのを躊躇ったり、余計なことをするとご飯を抜きにされた。


でも本当は、あんなことしたくなかった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


静かな部屋。

私以外に誰もいない。天井から、声がする。パパの声。


『何か欲しい物ある?』


『ないです』


『そう……。何かあったら、パパに教えてね』


『はい』


『じゃあ、次の悪者退治もお願いね』


『はい』




ビーーーーーッッ!!!!



目の前のドアが、開いた。少しだけ外が、見えた。私が知らない外の世界。

産まれてから、ずっと私はここにいる。この白い部屋にいる。部屋の外は危険だから、絶対に出ちゃダメだとパパに言われている。


いつものように私の部屋に悪者が入ってきた。


私は、悪者が嫌い。

パパが、悪者が嫌いだから。


私が彼らを退治しないと、世界はもっとダメになってしまうとパパが前に言っていた。


この悪者は、私を見ると


「あなたを倒せば、ここから出られる。あなたを殺せば……」


「?」


意味が、分からない。でもこの悪者も前の悪者と同じことを言っていた。


私は、少しだけ。この悪者と話をすることにした。



「ここから出て、どうするの?」


「そんなの決まってるじゃない!! 家族のとこに帰るの。あなたにもいるでしょ? 家族が。心配してくれるパパやママが」



カ……ゾク?


ママはいないけど、私にはパパがいる。まだ一度も会ったことがないパパ。いつも声だけ。



パパは、家族?


分からない。



「ごめんなさい。あなたには、悪いけど。私は、私は………。もう帰りたいの!!」


悪者は、十秒もしないうちに獣の姿になった。先ほどの可愛い姿は、なんだったんだろう。



「だがら………死ん…デ……」



私を襲おうと向かってきた。鋭い歯。爪。尖った耳。


「やっぱり……。悪者は、み~んな一緒」



私を傷つけようとする。仲良く出来ない。



ピッ、ヴュッ。




私は、思い切り悪者の顔面を殴った。すると悪者の頭から、ブリュッと脳ミソが飛び出て、目玉や良く分からない血の塊が、部屋に散らばった。


あ~ぁ。また、部屋が汚れちゃった。


「良くやった。さすが、パパの娘だ」


「ねぇ、パパ。パパは、私の家族なの?」



「あぁ……」



なんで嘘をつくの。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



また雨が降ってきた。

私の前に、獣の香りがする男の人が立っていた。無表情で私を見ていた。


「………………」


「………………」



お互い無言。雨音だけ。



「わたしの………」


「なに?」


「わたしの、新しいパパになってくださいっ!」



「………なんだよ、それ」



男の人は、スゴく困った顔をしていた。でも少しだけ、笑ってくれた。


「ハ…ハ……」


「ダメ?」


この男は、私と似ている。

人間? 化物? それとも両方。

ずっと一人で、何もない孤独すぎる世界の中にいる。



今まで、そしてこれからも。ずっとずっーーーーと一人。



「…………」



だけど今は。


今だけは。


一人でいたくなかった。


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