表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣咲く  作者: カラスヤマ
14/16

赤い少女②

毎日、毎日、同じ夢。


私は、忘れ物を取りに戻ろうと必死に走っている。でもその途中で………。


何を忘れていたのか、どうしても思い出せなくなってしまう。



それは、絶対に忘れちゃいけない。私が壊れない為に、いつもそばに置いておかなくちゃいけないものなのに。



突然、フッ……と『景色』が変わる。

道路の真ん中に立っている。ずぶ濡れで。黒い雨に混じる濃ゆい血の匂い。


白い女の腕が、ナオの胸を貫通している。ナオは口から大量の血を吐いて、激しく痙攣していた。

女は、その腕を無理矢理引き抜く。



許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。



でもーーーー。


私には何も出来ない。これは、私の『夢』だから。女が振り向く瞬間、そこでいつも夢が終わってしまう。


「あたまに……。なにか…入っ………くる………。いた…ぃ…………」



今朝。


例の生物兵器(少女)が家から逃げた。少女が寝ていたベッドからは、体に深く埋め込んだ発信器が、抉り取った肉片と一緒に見つかった。ママは、「まぁ、すぐに戻ってくるでしょ~」って笑っていたけど。私は、少しも笑えなかった。


もしかしたら、あの夢の中の女はアイツかもしれない。


『もし』が現実になる前に、あの女を消さないといけない。ナオを失ったら、私はただの獣に逆戻り。醜い獣。それは、死んでも嫌だから。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




終わりは、突然やってくる。

良いことも悪いことも。いつかは、終わる。いや………終わると思っていた。



あの時まで。


愛する娘を失って初めて知った。終わりのない悪夢に苦痛、絶望があることを。

妻を亡くし、娘までも。復讐の為だけに生きる今の俺を見たら、きっと彼女達はひどく悲しむだろう。


それでも俺はーーー。


獣人と同等の力を怪しい薬によって強制的に引き出したこの体。もう長くはもたない。死期が近いことくらい分かる。乾いた砂は、後は砕けるだけ。それまでに、一人でも多くの獣人を道連れにする。


…………………………。

……………………。

……………。



どしゃ降りの中、傘もささないで裸足の少女が前から歩いてくる。見覚えがあった、その顔に。

前に一度だけ施設の中で、彼女を見たことがある。




【 対獣人用の生物兵器 】




彼女を一体作り出す為、実験により五十人以上の尊い命が犠牲になっているとか。


ほんと、どいつもこいつも。

腐った悪魔に取り憑かれてる。



「………………」


「…………………」


少女は、俺の前で停止した。



「………………」


「……………………」



お互い無言。雨音だけ。



「わたしの………」


「なに?」


「わたしの、新しいパパになってくださいっ!」



「………なんだ、それ」



大真面目な、そんな顔で。こんなぶっ飛んだことを言われたら、さ。


「ハ…ハ……」


「ダメ?」


もう二度と笑うことなんてないと思っていたのに。



俺は、簡易サンダルと傘を買い、少女に渡した。俺を色のない目で見つめる少女の顔が、なぜか幼い頃の愛娘とかぶり。


「……っ」


気付くと俺は、冷えきった少女の痩せ細った体を強く、強く抱きしめていた。



今が、雨で良かった。

こんな情けない顔。あぁ………くだらねぇ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ